清川あさみ個展作品制作に学生が参加!会場でティーチングも実施 清川あさみ個展作品制作に学生が参加!会場でティーチングも実施
2024年8月5日、絵や写真に刺繍を施した作品で広く知られ、第一線で活躍するアーティストで、美術学科の客員教授を務める清川あさみ先生の大規模個展「ミスティック・ウィーヴ : 神話を縫う」の開催にあたり、学生に向けたティーチングが行われました。清川先生は、アートディレクターとして広告のビジュアルやグラフィックデザインに携わると共に、空間デザインやCM映像のディレクターとしても活躍。8月8日~9月23日まで鹿児島県霧島アートの森で行われる清川先生の個展で展示される作品を、学生のアイデアを取り入れて制作していくというプロジェクトが2023年に発足。作品づくりに美術学科の学生が携わりました。
特別講義では「新しい神話」をテーマにした課題を提示
清川先生は、霧島アートの森で個展を開催することが決まった際、学生にも携わってほしいという思いから、美術学科の学生を対象に2023年6月10日に特別講義を開催。清川先生のこれまでの活動や、霧島アートの森で個展を開催するに至った経緯やコンセプトが説明されました。清川先生は、自身が素晴らしいと感じた海外の著名な作家の作品などを紹介。講義に参加した80名以上の学生に「新しい神話をイメージするオブジェやインスタレーション」をテーマに、立体アイデアのスケッチを提出するという課題を提示しました。学生たちは、「新しい神話や生命の世界を立体で表現するとしたら?」「天孫降臨など、元々ある神話を現代に置き換えるとしたら?」というテーマのもと、積極的にスケッチに着手。完成させた学生たちは個別に見せるため、清川先生の前に長い列を作りました。
学生のアイデアを聞き、1人ひとりに講評・意見交換を実施
清川先生は、学生1人ひとりと対話形式でそれぞれのアイデアに対して、今後の作家活動に生かせる見せ方などを含め、講評・意見交換を行い、学生はプロの意見を聞くことができました。集まったアイデアスケッチの中から、講義の最後に清川先生がスライドでいくつかを紹介しました。
学生がオブジェ制作に参加しプロと協働
学生から出された「気候や社会情勢の変動で流れ着いた氷⼭、その中で真っ直ぐこちらを⾒る動物たち」というコンセプトのもと神話的インスタレーションのアイデアが選ばれ、積極的にアイデアを複数提出した学生やデッサン力に優れた学生らが清川先生の個展の新作制作に参加。清川先生とミーティングやディスカッションや繰り返し、プロの陶芸家に制作をオファーして氷⼭と絶滅危惧種を組み合わせたオブジェを制作することを決定しました。
清川先生の最新の⽴体作品「Dream Pod」シリーズは、陶芸家・宮下サトシ氏とコラボレーションした陶芸と刺繍が施された植物を組み合わせたもので、テーマは絶滅した美しい動植物です。清川先生は、このシリーズについて「オーストラリアの先住民族アボリジニの物語や伝説、神話である『ドリームタイム』にインスパイアされています。動物や植物などのモチーフを用いて、かつて存在したかもしれない生命体を立体的に再現。命のない造花に刺繍を施すことで、新たな命を吹き込み、美しい異次元の世界を表現し、制作は宮下さんとコラボレーションして学生も含めディスカッションと試作を重ねた新作です」と説明しました。
学生たちは、清川先生の個展が開催されるまで約1年間を通してインスタレーションや立体作品のアイデア出しからプロフェッショナルとの協働までの過程を経験。学生が制作に参加した作品は、Dream Podシリーズの1つとして個展会場に展示されました。清川先生は「特に、プロジェクトの進行や技術的な課題を克服するためにさまざまな工夫が必要でしたが、それに関わることで、学生たちは制作の流れを知ることができたと思います」と語ります。
会場となった霧島や神話をテーマにした最新作が並ぶ個展
「清川あさみ展『ミスティック・ウィーヴ : 神話を 縫う』」は8⽉8⽇〜9⽉23⽇、鹿児島県霧島アートの森で開催。清川先生のこれまでの代表作「TOKYO MONSTER」「I:I」「あめつちのうた」から最新作まで、幅広いシリーズが⼀堂に会し、日常とAIのゾーンから無の時代、神話のゾーン、都市のゾーン、天空のゾーンによる構成で、会場には、約40点が展示されました。自然と生命の関わりをテーマに制作される「あめつちのうた」シリーズの最新作「Our New World (Kirishima)」は約6メートルにおよび、会場である霧島をテーマとし、現代社会で求められる⾃然との調和と⽣命の美しさへの想いが込められたものです。清川先生は、「今回の個展では、これまでの代表作と最新作を通じて日々直面する現代社会の複雑さと美しさを表現しました。特に、霧島の自然を背景にした新作群は、混沌から理性、人間と自然の"理想的"な共存を描いています」と学生と一緒に会場を回りながら話しました。
美術展設営中にアーティストが学生にティーチング
今回のプロジェクトに参加した美術学科 版画コースの清水稜太さんは、個展が開催される3日前に鹿児島県 霧島アートの森を訪れてティーチングを受け、設営にも参加しました。通常ではなかなか足を踏み入れることができない、美術展の設営期間に会場を訪れた清水さんは「今回のティーチングは、私の今後のアート人生を大きく変えるものだと感じています。中でも『実験をたくさんしよう』という清川先生の言葉が強く印象に残っています。私は版画とは1枚の紙にインクでするものだと考えていました。しかし、この言葉は既存のスタイルから踏み出すという意味があります。踏み出して自分にしかできないアートの新たな領域にたどり着くことが大切だと認識し、実践していきたいと思っています」と感想を述べました。
個展会場が完成するまでの過程を間近に体感
清水さんは、設営について「まるで世界の創造活動を行う存在の中の1人であるかのようでした。刺繍が施された造花の中から特にきれいな物を選択し、選んだ物を花瓶に挿す作業を行ったのですが、清川先生が制作した花がとてもきれいで、まるでこの世に存在しない別世界の物のようでした。私たちが住んでいるこの世界に新たな世界を創造しているみたいだと、わくわくした気分で作業に没頭し、一生に一度あるか分からないような体験ができてとても楽しかったです」と話します。そして、「個展というものは個人で作るものではなく多くの人の協力があってできあがるものだと実感しました。これまで大きな個展の設営を見る機会がなく、どのようにして個展はできあがるのかをイメージすることができませんでした。今回の個展では、複数の人とアイデアを出し合ってできた作品があり、業者の人たちと協力してベストな配置や世界観を設営していました。個展会場が出来上がる過程を学ぶことができ、個展が完成するまでに必要なことが以前よりもはっきりと具体的にイメージすることができるようになったと感じます」と続けました。
清川先生は、「展示された作品を前に、空間全体を通してのコンテキストの作り方や、マテリアルの制作工程をティーチングしました。やはり実際に見せながら説明すると、より大きな空間を使い、世界をつくるのは簡単ではないことが学生に伝えられる良い機会になったと思います」と話します。
2023年に行われた特別講義で発表された課題は、「神話によるインスタレーションアートのアイデアスケッチ」で、私は神話が大好きなのでわくわくしながらアイデアを考えました。清川先生との対話式での講評では、親切かつ丁寧に接していただき、アドバイスをくださったので何度も修正して足を運びました。それを機にプロジェクトに参加することが決まり、清川先生から「講義の参加者の中で1番熱心だった」と言っていただきました。その後、個展に出品される作品づくりのアイデアを出し合い、清川先生とのやり取りの際は、私がコンペに入選したり全国大学版画展に出ることになったりした報告もさせてもらっていました。
私は、第一線で活躍する清川先生の作品を会場で見て、設営について学べるという特別な経験を得られると考えたため、霧島アートの森で行われたティーチングにも参加しました。当日は、設営だけでなく創作について学ぶ貴重な経験を得ることができました。将来、版画で作品の制作を続けて数々の個展を開催し、多くの人に私の作品を見せたいと考えています。また、コンテストに挑戦し続けたいと思っています。今回のティーチングによる経験を生かすことで、より実現が可能になると感じています。作品のアイデアを出す際には清川先生が教えてくださった事柄を意識して作品を制作し続けていきます。そして、個展を行う際は、多くの人と協力してベストな構成を行って見る人に感動を与えられるようにしたいです。
特別講義では、清川先⽣が神話というものをどのように捉えて制作されているのかを垣間⾒ることができ、⾮常に勉強になりました。授業内課題としてインスタレーションのアイデアスケッチに初めて挑戦し、講評していただいた際、「空間を把握する⼒がある」と好意的なコメントをいただけたことが意外でありつつもうれしく、印象に残っています。それがきっかけで、2024年1⽉に清川先⽣から作品制作への参加のお誘いをいただきました。
まず、清川先⽣と学⽣参加者によるオンラインディスカッションが⾏われ、その後もやりとりが行われ、清川先⽣による「新しいノアの⽅⾈のような神話的な作品」というアイデアをもとにスケッチを制作して提出し、制作進⾏状況についての連絡を都度いただきました。通常であれば、アーティストの考えを知るためには完成した作品の展⽰やインタビュー記事などから制作過程を想像することが主な⼿段となりますが、今回のようにアイデア出しの段階から作品制作に参加させていただけたことは、作品を鑑賞する際に「どういった考えで作られたのだろう?」と製作者側の視点から考える際に役⽴つ経験になったと感じています。
また、職業としてアートに向き合い続ける清川先⽣の制作姿勢を窺い知ることができ、⾃⾝の創作活動に対する姿勢を⾒つめ直す機会にもなりました。今回私が関わったのはアイデアスケッチのみでしたが、完成作品の⾊味などに⾃分の案を取り⼊れていただくことができ、複数⼈で作品を作り出す喜びを実感することができました。