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世界的ピアニスト、フジコ・ヘミングさんの映画試写会と小松莊一良先生のティーチイン 世界的ピアニスト、フジコ・ヘミングさんの映画試写会と小松莊一良先生のティーチイン

映像学科
2024/11/08

2024年10月10日、映画『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』の全国公開を記念して、同作の試写会と小松莊一良先生のティーチインが大阪芸術大学7号館の映画館で開催されました。『恋するピアニスト』は世界のクラシック音楽史にその名を刻むピアノ奏者、フジコ・ヘミングさんに密着したドキュメンタリー。フジコさんの豊かな考え方、チャーミングな素顔、鳥肌が立つような演奏場面などを観ることができます。企画・監督・構成・編集をされた小松先生は大阪芸術大学映像学科の卒業生で、同学科客員教授も担当。試写会に出席した学生らは、そんな小松先生に積極的に質問や感想を伝えました。

世界的ピアニストの素顔に密着「フジコ・ヘミングさんはクラシックを“僕らの場所”へと引き寄せてくれた」

今回のイベントが実施された会場は、2009年に学内に誕生した映画館。映像面、音響面などは一般の映画館と同等のクオリティを持ち、作品の迫力や臨場感を余すことなく観客に伝えてくれます。そんな映画館の大スクリーンで映し出されるフジコさんの演奏と胸を打つメッセージの数々。フジコさんがなぜアンティークが好きなのか、そして撮影当時の恋愛事情など、クラシック音楽を題材としながらもキャッチーな展開・構成が印象的でした。

大阪芸術大学の構内にある映画館は、これまで様々な映画の上映会、俳優や映画監督のトークイベントが開かれてきた
犬や猫、そしてアンティークに囲まれて暮らすフジコ・ヘミングさんのドキュメンタリー映画『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』

そんな同作を手がけた小松先生は、ティーチインでまず「ドキュメンタリーや音楽ライブの映像を撮るとき、大切なのは被写体との向き合い方。信頼関係を気づくにはどうしたら良いかを考え、誠実に向き合った上で、相手の方がどこに向かおうとしているのかを見つけ、自分も一緒の方向へ行くようにしています。こちらが一生懸命やっていると、いつかきっと心を開いてもらえる瞬間があるんです」と信条を口にします。


小松先生は2018年にも、フジコさんのドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』を製作・公開しました。改めてフジコさんを撮影した理由について「60代後半でスポットライトを浴びて以降、世界各国での公演はいつもソールドアウト。でもテレビなどで特集されるのは、フジコさんの苦労話ばかり。だけど僕が出会ったフジコさんは、世界中を飛び回っている姿だった。どうして公演はいつも満員なのか、それを知りたかったんです。そうして撮影する中で新型コロナが流行し、世界の状況も紡いでいきました」と明かします。

コンサートは約100人体制、17台のカメラで撮影。一方、部屋での会話シーンは小松先生一人で、カメラを三脚に立てるなどしたという
小松先生は「ドキュメンタリーはカメラ1台と被写体があれば、自分を表現できる。内容がおもしろければ世界にも出られる」とドキュメンタリー制作を勧めた
タイトルの意味について「フジコさんと接して、好みのものに対してときめく感性を持つ大切さに気づいたことが由来」と小松先生は説明

ティーチインでは、以前からフジコさんの楽曲を聴いていたという女子学生の姿も。心が傷ついていてよく美術室に閉じこもっていた高校生時代、当時の先生がフジコさんの楽曲を勧めてくれたのが出合いだったそうで、「今日映画を観て、フジコさんがこんなにチャーミングな人だと思いませんでした。めっちゃかわいい」とさらに好きになった様子。小松先生も「かつて、日本の教育はクラシックを難しいものとして教えていました。音を楽しむ事が大切な“音楽”が、いつの間にか頭でっかちな “音学”になってしまっていて、クラシックは苦手だという人も多かった。でもフジコさんは『音楽は自分の感性で楽しむもの。難しい知識を知らなくても関係ない。まずは、好きなように楽しむことが大切』とおっしゃっていました。フジコさんは、クラシックを“僕らの場所”へと引き寄せてくれたんです」とフジコさんの魅力を語りました。


フジコさんは2024年4月21日、この世を旅立たれました。『恋するピアニスト』はフジコさんのこれまでを知ることができ、また温もりのある演奏と言葉に感動できる作品です。2024年10月18日より全国の劇場で公開中です。

劇中でフジコさんが朝鮮民謡「アリラン」を歌っている理由などについて質問する女子学生。フジコさんはジャズや世界の民謡、そしてマイケル・ジャクソンまで、あらゆる名曲が好きだったそうです
「フジコさんのピアノを聴いてみたかった。初めてドキュメンタリー映画を観ました」というデザイン学科生らの姿も

映像学科 客員教授
小松 莊一良 先生

僕は学生時代、ヒップホップのダンサーたちを題材とした映像作品を制作していました。以前からストリートカルチャーに興味を持っていたんです。『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』の主人公であるフジコさんの生き様も、ある意味、アカデミックな権威に対抗するストリート精神が感じられます。彼女を知る人たちも「フジコさんはパンクな人」とおっしゃっていましたし、生き方も格好良い。そういった部分で僕は「自分のテリトリーにいらっしゃる方だ」と思いました。映画の序盤でもフジコさんは、古い家や木が次々取り壊されてマンションが建っていくことに言及していましたが、そのときの言葉が「ぶっ壊して」でしたよね。もしあそこできれいな言葉が出てきてそのまま演奏の場面へいくと、きっと物足りない印象になったはず。だからこそ「ぶっ壊す」という言葉はトゲみたいな引っ掛かりが生まれ、フジコさんのキャラクターも伝えることができました。また映画の中のフジコさんはそのように、昔からあるものの良さを話し続けています。僕自身も新陳代謝する時代の流れの中で、ずっと存在するものの良さを失いたくないと思っています。フジコさんが何を伝えようとしているのか、そして僕はどのように考えているのか。観客にそれをつかんでもらうため、何度も、何度も編集し、映像を組み立てて作品を完成させました。そんな自分の原点はやはり、大阪芸大にあります。組織に属さない自主映画出身の大森一樹監督、森田芳光監督、井筒和幸監督に憧れながら、「どうやったら映画監督になれるんだろう」と模索していました。そしていろんなコンテストに出し、賞をいただきました。重要なのはそうやって自分の作品を人目につかせること。先輩、後輩、別学科などいろんな人と交流して見識を広げながら、作るだけではなく、アウトプットのことも考えて行動する。僕は学生時代にヒップホップダンスのショーもあるポップな上映会を開いて、そのための宣伝なども行い、映画マニアでない人にも作品を観てもらいました。その事が今の演出や企画に役立っています。当時の芸大魂を進化させているって感じです。学生のみなさんもチャレンジ精神を出し、いろんなところに手を伸ばしながら作品作りに励んで欲しいです。