Interview
2018年、台風21号が関西地方に大きな被害をもたらしました。このとき、高潮で滑走路が浸水し、連絡橋にタンカーが衝突するなど大きな被害を受けた関西国際空港を空撮し、日本のジャーナリズム界で最高の栄誉のひとつとされる新聞協会賞を受賞したのが幾島健太郎さん。夢中で写真を撮り続けた芸大での日々が、今の幾島さんにつながっています。
写真に興味を持つようになったのは、高校生の頃。それまで所属していた陸上部を引退したら目標がなくなってしまって、なんとなく友だちをカメラで撮ってみたのがきっかけです。すぐに夢中になり、写真を勉強できる大学があると聞いて受験したのが大阪芸大でした。
当時から漠然と報道カメラマンになりたいと思っていたのですが、芸大での出会いを通じて、その気持ちは確かなものになりました。そのひとつが、毎日新聞の写真部長を務めていた原見政男先生との出会い。原見先生が報道現場や五輪取材のことを授業でよく話してくださって、報道カメラマンへの憧れが一層強くなりました。
同時に、“写真の持つ力”を教えてくれたのも芸大での出会いでした。現在はパラスポーツのフォトグラファーとして活躍する越智貴雄くんとは同級生で、彼の写真を最初に見たときは圧倒されました。悔しさと同時に、写真にはすごい力があるのだと改めて気づかされた。越智くんとは今も連絡を取っていて、刺激を受けています。
台風21号のときは、急遽、ヘリコプターで関西国際空港へ向かいました。日没が迫るなか、空には厚い雲がかかっていて、なかなかシャッターチャンスが訪れない。ほんの一瞬、雲の切れ間から光が差し込んだときに撮れたのが、新聞協会賞を受賞した写真です。災害の記録ですから心から喜ぶことはできませんが、受賞できたのは、ヘリコプターを管理する航空部のクルーも含めたみんなのおかげ。チームプレーが形となって、周りの人も喜んでくれたことがうれしいですね。
報道カメラマンとは、日々さまざまな現場で、レンズ越しに日本の歴史の1ページを切り取るような仕事だと思います。2021年は東京パラリンピックを担当することになるので、まさに歴史に残るような1枚を撮るのが目標です。
芸大には、学部の異なる仲間との交流や、さまざまなチャンスがありました。たとえば、工芸学科の友だちがつくった焼き物の写真を撮影したこともありますし、写真学科の選抜メンバーとして有名なギャラリーで自分の作品を発表したこともあります。そういう機会は、芸大にいたからこそ得られたもの。
それ以外にも、在学中には自分ひとりで実際の事件の捜索現場に潜り込んで写真を撮ったり、タイやカンボジアに行ったりして、とにかく撮影を続けました。結局のところ、写真は行動しないと撮れないもの。芸大ではカメラマンに必要な基礎はしっかり学ぶことができるので、皆さんにはその恵まれた環境を最大限に活用して、それぞれの夢に向かって行動を起こしていってほしいですね。