Interview
高校生の頃、部活のポスターやチラシなどでレタリングのまねごとをしていた際、友人や先生に褒められたのをきっかけに、グラフィックデザインの分野に興味を持つようになりました。ですが、資料を集めたところ、デザイン学科はデッサンの試験があることから現役だと難しいのではという考えに至り。同じく興味を持っていて、将来的に可能性の広がりそうな映像学科を選んで受験しました。
それまで単なる普通科の高校生だった身には、あまりにもすべてが専門的で、大きなカルチャーショックを受けたのを覚えています。今のようにネットも無かった時代なので、とにかく触れる物すべてが楽しく、刺激的でした。また、それまで家族の中で庇護されていた存在から、急に1人暮らしをすることになって、衣食住を自分の収入からやりくりすることを学びました。未だに、安くて腹持ちのいい食材に惹かれることが多いです(笑)。
当時は故・佐々木侃司先生が学科長をされていた時代でしたが、映像という分野がこれから大きく羽ばたこうとしている、そんな活気にあふれていましたね。熊切和嘉監督が2学年上で賞を取ったことなど、学生にとっても様々な可能性を感じられる、いい時代だったなと思います。また、それまで編集室を借りなければできなかった編集作業についても、PCで映像編集を行うノンリニア編集が自宅の環境でもできるようになった頃なので、テロップの入れ方や演出など、少しずつ新しい空気が流れてきたのも感じました。
元々、グラフィックデザインにも興味があったので、早々にMacを手に入れてタイポグラフィーや細かいカット割りで遊んだりして作品を作っていました。当時は最先端の映像表現というと広告かMVが主な主戦場だったので、僕は広告に注力していました。ただその傍らで、友だちの自主映画に参加したり、脚本を書いたりと、物語的なものへの興味はずっと持ち続けていましたね。そこが、後年の仕事にも繋がったように思います。
まったく書いていませんでした。当時は映像脚本の方に強い興味があったので、小説は楽しんで読むものの、自分などが入っていけるところではない、という意識が強かったです。親しい友人や先輩に、文芸学科で優秀だった学生が多かったことも、小説から遠ざかっていた理由のひとつでしょうね。要は、コンプレックスが強かったのです。
当時はいわゆる就職氷河期で、CM制作会社に進もうと思っていた自分も、そう簡単に就職はできませんでした。なので、グラフィックデザインの方で関われる分野がないかと思い、自分なりにポートフォリオを作ってデザイン事務所の面接を受けていたところ、30社目ぐらいでやっと受かり、それで入社し本格的にグラフィックデザインをやっていくことになりました。
3回生から4回生ぐらいの頃に、自分は物作り以外への興味が強すぎて、純粋なクリエイターとして活動するには向いていないと感じていました。プロモーションや座組作りなど、いわゆるプロデュースの方面も好きだったんです。そこから、広告制作の方へと進んでいったように思います。
当時、グラフィックデザイナーは『3年で転職、5年で独立』というなんとなくのイメージがありました。実際にそれぐらいの経験年数になると、お金の仕組みについて考えたり、馴染みのある取引先が増えてきたりして、自分のやり方で進めたいと思うようになったんです。それで、26歳の時にフリーランスになり、やがて法人を作る流れになりました。
良かったこととしては、自分のペースで仕事ができること。元々、休日と平日、昼間と夜間の区別なく仕事をしていたい思いがあったので、叶えることができてだいぶ気が楽になりました。苦労は……山のようにありますね。特に最初の1年ぐらいはずっと資金繰りに悩んでいたように記憶しています。
2003年頃、当時僕はPCゲームやコミックスなどのデザインを手がけていたのですが、PCゲームの制作にヘルプで向かった現場で、シナリオの手伝いを依頼されたのがきっかけです。学生の頃にやっていたからといって、素人にさせていいのか……と戸惑ったのですが、当時のPCゲームはそういう誰でも参加できるような空気があったので、それで思い切ってやってみたのがきっかけです。そこから何作かシナリオライターとしての活動をし、出版関係の方からお誘いを受けて、ライトノベルも執筆したという経緯です。
見る側、読む側の人を意識してものを作ることだと思います。作品に触れたあとに何かしらの感情を与えることができれば、それは刺激となって、受け手に何かしらの変化をさせることができます。その反応・変化が大きければ大きいほど、作品としての意義があると思いますし、商業的な意味にも繋がってきます。自分の中で完結させるか、多くの人を含めた作品にさせるかが、プロとアマの境目なのかなと。
常々、デザインは情報であり交通整理だと話しているのですが、活動においてもそれが言えるのではないかと思っています。クライアントからの意向を読み取り、翻訳し、スムーズに仕事が進むように段取りを組み、成果物でユーザーとも対話をする、そういったすべてのことも含めてデザイナーという仕事になるのかなと。総合的なコミュニケーションのあり方こそ、デザインだと捉えています。
何についてもそうなのですが、まず自分がやってみないとそのジャンルを理解することはできないという考えがあり、その精神からくるものが大きいと思っています。知ること、理解することは楽しく刺激があり、そこから次の物作りへの意欲が生まれます。また、違うジャンルの創作から、さらにまた別の分野の創作へのヒントを得ることも多々あります。こういった相互の影響を意識しているからこそ、新しい分野への挑戦を続けているのかなと思っています。あとは何より、新しい物への興味が尽きないからです。それが終わったときがクリエイターとしての活動の終わりだと思っています。
物語を作るのはクリエイターですが、”物語を作る側にもさまざまな物語がある”ということを、それまでの経験で知っていたことがきっかけです。そうしたおもしろくもつらいエピソードを、自分なりにアレンジしてひとつの作品にしたいと思っていたところ、ラノベの編集さんからお声がけいただいたので、企画としてまとめました。
1巻のラスト近く、機材がないところから作品を作るあたりのシーンでしょうか。あのシーンや状況自体はフィクションなのですが、時間や状況を制限される中で何かを作る、というのは映像学科における定番の悩みみたいなものだったので、「こういうピンチに追い込まれたら、自分ならどうするか」という問いに答えているようで、楽しんで書けたように思います。あと、みんな作中でやたら鍋料理ばかり食べているのは、当時リアルに鍋ばかり食べていたからです(笑)。おかげで鍋レシピだけは今でも大変充実しています。
音楽ですね。音楽だけはあこがれたまま何もできなかったので、映像と音楽をしっかりやって、MV(ミュージックビデオ)を作ってみたいです。
創作はつらいことも多いけど、同じぐらいたのしいこともあるよ、ということでしょうか。どうしてもメディアの中だとつらいこと、たのしいことの片方だけがフィーチャーされがちなのですが、そうじゃないよと。どちらも併せ持っているのが創作のおもしろいところだよ、というのを何より伝えたいと思っています。
けっこうその都度変わるので難しい質問なのですが、常に動き続けていたいなとは思っています。生きているうちは動いていたいなと。
肩肘を張りすぎると早々に炎症を起こしてしまうのがクリエイターなので、みなさんなりのやり方で目指していくのがいいのかなと思っています。僕もいわゆる代表作を得られたのはキャリアの数年目以降ですし、生き残ったやつが強い、ぐらいの感覚でやっていくのも生き方ですよ。あと、行き詰まったらそれまでに触れてこなかったものに触れてみるのもいいと思います。興味のなかったところに、次の興味へのヒントが隠されているのが、この世の中のおもしろいところです。
<作品紹介>
僕、橋場恭也はしがないゲームディレクター。会社は倒産、企画もとん挫して実家に帰ることになる。輝かしいクリエイターの活躍を横目にふて寝して目覚めると、なぜか十年前の大学入学時に巻き戻っていた!? 当時受かったものの選ばなかった憧れの芸大ライフ、さらにはシェアハウスで男女四人の共同生活と突如、バラ色の毎日に!ここから僕の人生を作り直すんだ———後の超有名クリエイター(の卵)と共に送る新生活がいま始まる! と、意気揚々と始めてみたもののそんなにうまくはいかないみたいで……。木緒なち×えれっとの超強力タッグによる、青春リメイクストーリー!
大阪芸術大学2022 大学案内の表紙イラストは「ぼくたちのリメイク」とのコラボで、えれっと先生に描き下ろしいただきました。
©木緒なち イラスト:えれっと
<作品紹介>
ふと目を覚ますとそこは10年前の今日。僕、橋場恭也はしがないゲームディレクター。会社は倒産、企画もとん挫して実家に帰ることに……。輝かしいクリエイターの活躍を横目にふて寝して目覚めると、なぜか十年前の大学入学時に巻き戻っていた!? 当時選ばなかった道を選んで、憧れの芸大ライフ、さらにはシェアハウスで男女四人の共同生活と突如、バラ色の毎日に! ここから僕の人生ルートを作り直すんだ―――クセのあるクラスメイトたちと共に送る新生活がいま始まる! と、意気揚々と始めてみたもののそんなにうまくはいかないみたいで……。
木緒なち×えれっとの超強力タッグで送る青春リメイクストーリーが待望のアニメ化!
【放送時間】
〈全国放送局〉
2021年7月3日(土) 22時から TOKYO MX
2021年7月3日(土) 23時から KBS京都
2021年7月3日(土) 24時から BS日テレ
2021年7月3日(土) 24時30分から サンテレビ
〈配信サービス〉
2021年7月3日(土)ABEMA
※放送時間は編成上の都合で変更になる場合がございます。詳しくは各局のホームページをご覧ください
左:アニメ「ぼくたちのリメイク」大学の校舎外観シーン
右:大阪芸術大学 構内
©木緒なち・KADOKAWA/ぼくたちのリメイク製作委員会