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Interview

世界と、社会と、人とつながる。デザインは「つながり」がキーワード。 世界と、社会と、人とつながる。デザインは「つながり」がキーワード。

デザイン学科卒業
中谷吉英
1984年大阪生まれ。高校・大学ではプロダクトデザインを学ぶ傍ら、様々な学科の学生を巻きこんで展覧会やファッションショーなどを開催。卒業後、箭内道彦氏率いる「すきあいたい ヤバい(元 ロックンロール食堂)」入社。5年勤めた後、帰阪。アシタノシカク株式会社を経て、2022年LiLo in veve入社。手描きで生み出すグラフィックを軸に立体・空間制作まで多岐にわたり活動。遊び心を加味した独自性を武器に現在は、ロゴ開発からブランディング・広告展開やグッズ・空間ディレクションまで一気通貫してデザインを行なっている。

「神戸2024 世界パラ陸上競技選手権大会」の公式ロゴマーク・キービジュアルのデザインを手掛けた中谷吉英さん。2009年大阪芸術大学大学院を修了後、グラフィックデザイナーとして活躍する中で今回のコンペに応募し、採択されました。

大会のポスターやサイネージ広告、ロゴ入りフラッグが街を彩る神戸・三宮で、中谷さんにロゴマークに込めた想いや制作のエピソード、さらに学生時代の思い出などをお伺いしました。

公式ロゴマーク制作はどのような経緯をたどったのでしょうか?

当初、神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会は2021年に開催される予定でした。それがコロナ禍で2022年に延期になり、さらに再度延長されて2024年にようやく実現しました。私が公式ロゴマークのコンペに応募したのは2020年の夏のことで、11月の発表から開催までかなりの月日が流れました。開催直前までいろいろな課題があり、統括デザイナーという立場で、ロゴマークだけでなく大会全体のディレクションにも携わったので何かと忙しい毎日でした。

ロゴマークのコンペに応募しようと思ったのは、以前から神戸市の広報紙の仕事を手掛けていて、神戸という街に馴染みがあったからです。また、コロナ禍で仕事が減り、時間に余裕ができた時期でもありましたので、応募することにしました。

どんな思いでロゴマークを制作しましたか?

コンペには3案エントリーできたので、1案は攻めるデザインで挑戦したいと考えました。それがアーティストのZAnPonさんとタッグを組んで選定された案です。作家性の強いアートでロゴを制作するのはなかなかの難題でしたが、ZAnPonさんとは何度か仕事をした経験があり、いつか一緒に大きな仕事をしたいと思っていました。ZAnPonさんの描くカラフルで伸びやかな世界は、コンセプトの「躍動感と多様性」を表現するのにぴったりでした。複雑で色数が多い図案は展開が難しいのではと懸念しましたが、大会の組織委員会の方々は「明るくポジティブ。新しい時代に向けて、今までにない表現を神戸から発信したい」と評価してくださいました。

ZAnPonさんの個性なくしては語れないデザインですね。

大阪芸大の先輩として、工芸学科に在籍されていたZAnPonさんを在学中から知っていました。その後仕事でも関わって15年以上の付き合いになります。ZAnPonさんの作品は「いつ見ても新しい」。普遍的でありながら、時代と共にアップデートするところもあって、独自の世界観を探求し続けています。その創造性は出会った時から変わりません。

このビジュアルにしても多様な交わりやダイナミックウェーブ、神戸のシンボルがカラフルに表現され、晴れやかな祝祭感があります。デザインや印刷などの制約の中で、ZAnPonさんの魅力をフルに生かすことができるか、常にそれを考えてデザインしました。

そしてコピーライターやデザイナー、データ作成に協力してくれた方など、さまざまな人が力を貸してくれました。だからこの仕事はチームワークの賜物なんです。

ZAnPonさんは2010年度から2012年度の大学案内表紙もご担当

どのような学生時代を経てデザイナーを志望されたのですか?

美術が好きで、高校時代からものづくりに興味がありました。そこでデザイン学科ではプロダクトデザインコースを選択。4年生になると他の学科の友人とファッションショーを企画したりして、仲間の輪が広がっていきました。グループ展をしたり、学科を超えたコラボイベントを開催したりする中で、個性豊かな友人たちからすごく刺激を受けたし、楽しかった。「このまま卒業するのは惜しい。まだまだ何かやりたい」そんな思いが募って大学院に進むことを決意しましたが、ふと企画やプロデュースに夢中な自分に気づき、今度はグラフィックを専攻することに。正直、真面目な大学院生ではなかったですが、学内で仲間を見つけてはおもしろいイベントを企画したりしていました。会場や機材を借りる許可を取ることが多く、大学の職員の方々とも交流が深まりました。

卒業後はどのような道に進まれましたか?

東京の企業に入社し、30歳になるタイミングで大阪に戻ってきました。そういえば今所属している会社のロゴもZAnPonさんが制作されました。いくつかのデザイン会社に勤めましたが、行く先々で大阪芸術大学関係の方によく出会います。神戸市の広報の仕事も、大学時代の友人と組んでやっていました。

最近、大学時代の経験や人とのつながりが、今の仕事のベースになっていると感じています。自分の中にプロデュース的な発想と、デザイナーとしてのこだわりが同居しているんです。

大阪芸術大学に入学してよかったと思うことは?

総合芸術大学として、幅広いジャンルの芸術領域があり、デザイン学科以外の友人に出会えたことが大きいですね。学生たちそれぞれが自由に活動をして、緩やかにつながっているという雰囲気も心地よかったです。デザインの仕事をしていると、大阪芸術大学の卒業生や関係者に出会うことが結構多く、そこにもつながりを感じます。

中谷さんが思うデザインのおもしろさとは?

良い意味でも悪い意味でも世の中とつながっていることです。社会の変化に大きく影響を受けるし、価値観や時代のニーズで求められるものが変わります。だからこそ自分のデザインが社会にどういう影響を与えるかを熟考し、ディスプレイに映るビジュアルだけでなく、画面のその先(の世の中)を見通す力が必要だと思います。正解かどうかはわからないけれど世の中が少しでも良い方向に行くために、常に最適解のデザインを提供できるよう努力していきたいです。

「神戸2024 世界パラ陸上競技選手権大会」の公式ロゴマーク・キービジュアルの場合は、世界に発信されるわけですから、選ばれた喜びもさることながら、デザイナーとしての責任も感じています。国や環境が異なる方々にもしっかりと伝わるわかりやすいデザインを届けたいです。

将来に夢を抱く学生たちにメッセージをいただけますか。

何に対しても「つながり」を意識するといいんじゃないでしょうか。実は今、大学時代にお世話になった職員の方からお声がけをいただいて、大阪芸術大学附属大阪美術専門学校で講師をしています。若い世代はスマホの使い方やツールの扱い方、情報へのアクセスも全然違いますから、私の方が学生たちから刺激を受けることもあります。つながりながら、若い人たちとも一緒にやっていきたい。こちらこそ「よろしくお願いします」という気持ちです。

共作したアーティストZAnPonさんのMESSAGE (工芸学科卒業生)
共作したアーティストZAnPonさんのMESSAGE (工芸学科卒業生)

パラスポーツのイメージをポジティブに捉え、一部の人だけでなくすべての人が楽しめる大会を表現しよう。

そんな思いで中谷さんとデザインを考え始めました。スポーツは勝敗や競技上での美しさを競うものとして認識されていますが、パラスポーツはそのような価値観だけでは語れません。

障害や困難を乗り越え、前向きに生きる姿を人々に示すことで、誰もが生きる力を実感することができる、そう信じてビジュアルに取り組みました。

その結果、人々の生きざまに焦点を当てたデザインになったと、中谷さんが制作したポスターを見て思いました。この公式ロゴマークとキービジュアルが「神戸2024 世界パラ陸上競技選手権大会」の理念を伝えるものになればうれしいです。


※本学は神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会のスポンサーではありません。