Interview
多くの人が、芸術計画学科と言うと、芸術を「創る」のではなく「考える」コースだという印象をお持ちかもしれません。しかし、この学科の面白さは、「研究」と「創作」のバランスの取れた学びが得られるところにあると思います。卒業制作も自分で作品をつくってそれに論文を付けるスタイルになっており、私の場合はインスタレーションを行いました。学べる領域が幅広いのも特長です。いわゆる美術だけでなく音楽や映像を扱う講義もありますし、言語表現についても学べます。
カリキュラム以外にも実践的な勉強ができる機会が多いです。大学に入って最初の講義で、熊野清貴先生が「展示補助をやってくれる人はいませんか?」とおっしゃったので、積極的に手を挙げました。その際は作品の搬入から照明まで、展示にいたる一連のプロセスを実体験することができたのですが、こういう体験が後にたいへん貴重なものになり感謝しております。学生時代にはこのほかにも、演奏や映像のセッティング、撮影、デッサンまで、様々なことに取り組みました。五感を通して芸術にふれることで、「考える力」が養われたと思います。
芸術は頭だけでは理解できません。実際、照明の加減ひとつで作品の印象はまるで変わってくるわけですが、それは理論では説明しきれない部分ですよね? 自ら手を動かしたり、記述することで得られる「気づき」が大切だと思います。それがないと自分を活かす手法が見つからず、結果的に継続することが難しくなってしまうおそれもあります。その意味では、学生時代に学んだことが確実にいまの仕事につながっていると言えるでしょう。私は卒業後に伊丹市文化振興財団に入り、8年間は劇場の立ち上げなどのプロジェクトに携わっていましたので、当初から学芸員として職に就いたわけではなかったのですが、資格自体は学生時代に取得していました。しかし、学芸員というものは、資格や知識がありさえすれば勤まるものではなく、幅広い引き出しとコミュニケーション力が求められますので、他業種で経験を積むことも大切なことだと言えます。
学芸員は展覧会を企画実現するにあたり、作品をどこの美術館やギャラリーが所蔵しているかをリサーチしたり、作家や関係者との交渉、運搬方法の検討や保険加入など様々な段取りをこなす必要があります。その後ようやく、展示スペースのデザインを専門の業者とともに考えていくわけです。カタログのデザインや執筆依頼、自らも執筆する必要がありますし、講演会やミュージアム・コンサートなどの関連イベントも企画します。
いわば学芸員の仕事は、その一連のプロセスに道筋をつける“総合プロデュース”ですから、学生時代からいろいろなモノやコトに触れることの大切さはおわかりいただけるでしょう。作家と打ち解けて話すには、作り手の気持ちもわからないといけませんし、ひとつの展示を実現するまでには時間もかかりますから、粘り強さも必要です。しかし、才能ある人たちをひとつにまとめて、自分を超えた“総合芸術”を創りあげることは、ほかのなにものにも代え難い醍醐味があります。
学生時代の4年間はあっという間です。この期間に大事なことは、「知識や体験を継続的にストックすること」「様々なトライアルをすることで自分の得意なパフォーマンス領域を見つけること」です。もちろん4年間で終わる作業ではありませんが、そういった意識や習慣を身につけるにはうってつけの時期ですし、それができる環境が大学にあると思います。最大限に活用してほしいですね。