Interview
オタクとデザインの程よい関係をテーマに掲げる、有限会社BALCOLONY. のアートディレクター、染谷洋平さん。大ヒット映画『君の名は。』のタイトルデザインなどを手がけた染谷さんにとって、芸大は、「オタクだった自分が初めて仲間に出会えた場所」でした。
高校生の頃から、アニメやイラスト、デザインが好きでした。でも、イベントプロデュースなんかにも興味があって、好きなモノをひとつに絞りきれなかった。そんな当時の僕が芸大を選んだのは、“総合”芸術大学であることが大きな理由でした。ここなら、興味をひとつに絞れない僕でもなんとかなるんじゃないかって。それに僕は芸術としての絵ではなく、仕事としてのイラストやデザインに興味があったので、芸術計画学科を選びました。
今の時代はネットで同じ趣味の人と“つながる”ことも簡単ですが、僕が高校生の頃はまだネットもなかったので、アニメやイラスト、デザインに興味のある仲間を見つけることが難しかったんです。それもあって僕はずっと自分をアウトサイダーだと思っていたんですよ。たいして勉強もできないし、芸大という普通じゃない進路を選んだという意識もあって、当時は親になんだか申し訳ないと思っていたぐらい(笑)。ところが芸大に入って周りを見渡すとそんな奴ばっかり。すごく安心しました。「俺だけじゃないんだ」って。
だから大学での4年間は、とにかく居心地がよかったですね。僕にとって芸大は普通じゃない価値観をともにできる人たちに出会えた初めての場所。就職して何になるかなんてまるで見えてないし、スペシャリストでもない。でもデザインやイラストに興味があって、業界に携わりたい、そんな僕のような人間がたくさんいました。
芸大のいいところは、そんな“何者でもない”人間がポジティブに悩める場所であること。そして何かをつくろうとなると、いつでもモノをつくって、見せ合える環境があることだと思います。
舞台をやっている人もいれば、映像をやっている人もいるし、イラストを描いている人もいる。だから芸大では学科の枠を超えて、よく一緒にものづくりをしました。学内に劇団がたくさんあったので、僕が小演劇のチラシをつくって、別の学科の人間がプロモーションの映像をつくる……なんてことをよくやりました。
そういう意味では、芸大の頃から今の仕事と同じようなことをしていたんですよね。今の僕も作家やイラストレーター、編集者、映像クリエイターなど、違う職種の人たちと一緒に、ひとつのモノをつくっていく仕事。映画『君の名は。』のタイトルロゴもそんな風に仕事を続けてきたなかで、巡り合えたものでした。だから僕にとって芸大はものづくりの楽しさを知った場所でもありますね。
たとえば将来デザイナーになりたかったら、デザイン学科で勉強して、卒業後は広告代理店や有名なデザイン事務所に入ったりするのが、よく耳にするルートのひとつだと思います。その点、芸術計画学科は決まったルートやサクセスストーリーにとらわれずに自分の好きなものについて悩んで、模索できる。芸大には、そうしたことにあらゆる時間を使える環境と、それを許してくれるキャンパスがありますから。
高校生のときに、自分に何ができるか、可能性とか興味を絞ることなんて、できなくて当たり前。その点、芸大は“総合”だから、学びながら、周りの人に刺激を受けながら、興味の向くことを探すことができる。行き先がはっきりしないところがいいんだと思います。悩むぐらいなら、芸大に入って、映像でもデザインでも建築でも何でもやってしまえばいい。それが自然と自分の進路につながっていくはずだと思います。
「君の名は。」
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発売・販売元:東宝
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