日本の主要な美術賞のひとつとして「TARO賞」の名で知られる第27回岡本太郎現代芸術賞に本学出身の横岑竜之さんが入選。本学を離れてからも、日常的に新しい作品を描き続けてきたからこそ得られた確かな成果に満足感を覚えつつ、創作意欲が衰えない横岑さんにインタビュー。岡本太郎現代芸術賞に入選したことで得たこと、今後の目標や創作に打ち込む日々について、様々なお話をうかがいました。
昨年の10月にポートフォリオを送付して、11月に審査結果を受け取りました。狙っていた芸術賞だったので入選したという知らせは、もちろんうれしかったですね。心の奥底から湧き上がってくる衝動をアートへと昇華させる岡本太郎氏の類稀な力量にも憧れていました。そして、枠にはおさまりきらない現代美術とは違う独創的なアプローチには、自分自身の創作スタンスとも共通点を感じていました。そして、岡本太郎氏が再発見した日本的な美の源流ともいえる縄文土器のパワフルな美しさに惹かれる部分もあったので、数年前から毎年のように応募していたんです。
神奈川県の川崎市にある岡本太郎美術館での展示スペースは、天井までの高さが5mもある空間でした。個展で空間すべてを自分の作品で埋め尽くしたことはあります。でも、他の作品も展示されている岡本太郎現代芸術賞では少し勝手が違いました。今までの展示方法では「ハッピーモンスターを見た人々を元気にしたい」という自分自身の思いを表現する強烈な印象が表現しきれなかったと痛感しています。そこで、作品それぞれのサイズ感やインパクトを感じてもらえるような照明や展示方法を考え直すきっかけになりました。
毎日のように新しいハッピーモンスターを描き続けています。例えば、一昨日は5〜6時間作品を描いて、納品のために梱包して発送していました。ほかに用事がなければ、12時間以上は描き続ける毎日です。そのエネルギーの源泉となっているのが、「元気がもらえた」「ワクワクさせられる」とか「もっと見たい」と言ってくれるファンの皆さんの声。そして、作品を自宅や自分たちのスペースにハッピーモンスターを飾りたいとオーダーしてくださるお客さんからの期待です。作品を心待ちにしてくれる人がいると思うと、描かずにいられないんです。制作をしていないと少し罪悪感を感じてしまうほどに。
最初に番組に出演したのは2018年のこと。その後、タレントの明石家さんまさんが画商として、まだ世に出ていないアーティストを自らプロデュースするというプロジェクトにも取り上げられ、個展に来ていただける方々の層がぐっと広がりました。何度か出演させていただきましたが、スタジオの雰囲気にはいつも少し緊張してしまいますね。でも、放送を機に作品を見に来てくださる方や、作品を描いて欲しいという問い合わせが増えるといううれしい結果にもつながっています。機会があれば積極的にメディアにも出演したいと思っています。
ハッピーモンスターを制作し始めた学生時代からTシャツやジャケットに描いていたので、立体だから平面だからというこだわりは特にないですね。馴染みのリサイクルショップでぬいぐるみやフィギュアなど、ビビッと感じるアイテムがあると買って帰って立体制作に取り掛かります。偶然、京都の雑貨店で見つけた仏像を見つけたときもそうでした。見た瞬間に、この仏像をハッピーモンスターで埋め尽くしたいという衝動に駆られて、後先も考えずに買ってしまっていたんです(笑)。ほぼ等身大だったので電車で持って帰るのも大変だったけれど、インスピレーションを感じたら作品にしてみたいという欲望に抗えないんです。
高校から大学2年生までは具象的な動物の顔ばかりを描いていたような気がします。それが徐々に目の表情に特徴を持たせたデフォルメした構図に変わっていきました。学生時代から、これからずっと絵を描いて生きていくと決めていたので、オリジナリティを突き詰める方向に振り切っていったんです。バランスを崩してでも個性を全開に振り絞っていきたいと思いながら制作に打ち込む日々のなかで、ハッピーモンスターが少しずつ少しずつ産声をあげ始めたんです。
学生には制作するスペースとして自分だけの空間というか、壁面が割り振られるんですね。そのころにはすでに一年365日、時間があれば描くというライフスタイルになっていたので、ハッピーモンスターがどんどん増殖していくんです。気がつけば隣の制作スペースを侵食してしまうほどに。はじめは先生に諭されたり、宥められることもありました。それでも止められない自分自身の性向を先生や周囲のみんなが個性として受け入れてくれたので、萎縮せずに制作し続けることができました。だから、挙げ句の果てには、脚立にまでハッピーモンスターを描いたりしていましたね。
毎日作品を描くことだけを考えて生きていきたいです。そのために今できることは、常に手を動かして描くこと、そして毎月のように個展を開いて作品を見てもらうことだと思っています。岡本太郎現代芸術賞に応募したのも、その一環。でも入選できたことで、近い未来の目標が見つかりました。岡本太郎氏は、50年以上前から万博公園に残る太陽の塔をデザインしている大阪万博に縁の深い方ですよね。だからこれを機に、2025年に開催される大阪・関西万博で僕の作品が展示できたりしたら最高ですね。