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第13回 大阪芸大 Art lab. 展覧会「モネ 連作の情景」とコラボした特別美術セミナー 第13回 大阪芸大 Art lab. 展覧会「モネ 連作の情景」とコラボした特別美術セミナー

美術学科
2024/05/24

美術館の展覧会と連動してワークショップを行う大阪芸術大学グループの特別美術セミナー「大阪芸大 Art lab.」。

第13回は、大阪中之島美術館で開催された印象派の巨匠クロード・モネの展覧会と連動し、2024 年 3 月 29~31日に実施しました。

自然の移ろいと光の表現を追求してきたモネが生み出した革新的技法〝連作〟にちなみ、今までに体験したことのない作品制作を通じて「個と社会」について考える、濃密なセミナーとなりました。

美術館を貸切り、絵画の世界に革命を起こしたモネの芸術を堪能

今回のセミナーは、大阪中之島美術館で2024年2月10日~5月6日に開催された展覧会「モネ 連作の情景」とコラボレート。アートに関心を持つ高校生や大阪芸術大学美術学科の学生などが参加し、1日目は美術館で作品鑑賞、2・3日目は本学キャンパスで作品制作というプログラムで行われました。


セミナー初日は美術館での見学ツアー。この展覧会は、国内外から集結した約70点のモネの作品のみで構成され、壮大なモネ芸術の世界をたどれる稀少な内容です。この日は16校の中高生95名に大阪芸術大学美術学科や短期大学部デザイン美術学科の学生など計約230名が参加し、閉館後の美術館を貸切って贅沢な作品鑑賞を楽しみました。


鑑賞に先立って大阪中之島美術館学芸員の小川知子さんによるギャラリートークが行われ、5つの章に分かれた展示内容に沿って、時代背景やモネの生涯、作品の変遷などを解説していただきました。参加者は熱心に聴き入り、モネに対する理解を深めた上で展示会場へ。同じ題材や景観を用いながら時期や天候による変化を描いた「連作」の作品群、 モネが愛した庭の情景など、代表作の数々をじっくりと鑑賞しました。

「大阪芸大Art lab.」開始以来最多の参加人数に
作品画像を用いながら、担当学芸員が展覧会を分かりやすく解説
会場内を自由に動き、近づいたり離れたりして見え方の違いも体感
鑑賞後の感動の中、翌日からの作品制作に向けた説明が行われ、意欲が高まる

「個と社会」をテーマに、自分らしい新たなものの見方を発見

2日目は、約60名の参加者が大阪芸術大学美術学科の実習室に集合。教員から今回のテーマや技法の説明を受け、いよいよ制作が始まりました。

まずは赤・黄・青の油絵の具とヘラや葦ペンを使い、キャンバスを「自分自身の表現の場」として色を乗せていきます。次に石膏のモチーフが登場し、キャンバスを絵の背景である「地」、モチーフを絵の主題である「図」として表現。ただし白の絵の具は使わず、塗り重ねてきた絵の具を削ってキャンバスの白をいかすのがルールです。「図と地」を「個と社会」になぞらえ、絵画の世界に革命を起こしたモネにならって、今までとは違う角度から新しいものの見方を探っていきました。

油絵の具を初めて扱う参加者も多数。慣れない画材へのチャレンジも貴重な体験に
自分の世界を表現したキャンバスに、多面体のモチーフを描き出していく
画面に入り込んで格闘しながら、新しい視点を模索

最終日には、「図と地」を意識してさらに描き込み、「個と社会」というテーマを深掘りしました。前日のキャンバスに綿棒で白い絵の具を点描したり、グラデーションに変化をつけたりと作業を進めながら、「図」と「地」が互いに影響し合い、作品の主体が変わっていくことを体感。参加者は初めて取り組む制作を通じて、視点を変えると対象物や作品自体も変化することを実感していました。

制作の合間には、モネの創作姿勢を通して「個と社会」について考えるレクチャーも
教員が個別のアドバイスで制作をサポート
綿棒で白い絵の具を乗せていくことで「図」と「地」の変化を体感

今回のセミナー参加者は過去最多で、中学生も初めて制作に参加。「刺激的な内容で、自分を成長させられた」「意外な作業ばかりでワクワクの連続」「難しかったけれど、たくさん考えたことを次の作品にいかしたい」など、生き生きとした笑顔が見られました。また引率した高校教員からは「高校の授業とは違って、生徒たちに失敗やケガを恐れず高みに挑戦することを促してもらえる場。美術館での鑑賞も含め、この経験は宝になると思います」という感想も寄せられました。


ラストはできあがった作品を並べての合評会。教員やスタッフなどがそれぞれ好きな作品を選んでコメントし、作者に展覧会の図録がプレゼントされました。技術面だけでなく作品の意図や描き手の努力に対するコメントや、今後の制作に役立つアドバイスが贈られ、会場には最後まで熱気が満ちていました。

また、完成した作品の展覧会が5月19日のオープンキャンパスで行われ、大勢の来場者の関心を集めました。

全員の前で講評を行う合評会
作品の意図や制作中に感じた思いを、自身の言葉で説明
他の人の作品や意見を見聞きすることも、次の創作の糧に
後日開催されたオープンキャンパスで、約60点の作品を一堂に展示
美術学科 特任准教授
森井 宏青 先生

モネがテーマのワークショップというと、独特の色彩や光の表現を学び、モネのようなタッチや色使いで絵を描く、といったものが思い浮かぶかもしれません。今回はその対極とも言える題材で、モネの創作の中身に迫るプログラムを構成しました。モネは、当時の社会背景や様々な課題を咀嚼し、独自の斬新な技法を開拓してきた画家です。その試みにならって「常識をひっくり返し、物事を新しい見方でとらえる」ことを追体験。モネ風の作品をきれいに仕上げるのではなく、制作の過程で何を考え、どんな経験をするかにフォーカスしました。

キーワードは「個と社会」。ちょっと堅苦しく聞こえますが、「自分と他者」「自分と周囲」と置き換えてもいいでしょう。葦ペンなどの使い慣れない素材と向き合って戦いながら、キャンバス上に自分を表現し、絵の具を削って自らを発掘するように白いモチーフを描くことで、徐々に「地」と「図」が現れ、「社会」主体だった絵が「個」主体の絵に変わっていく。さらに描き進めていくうちに一つの平面の中で主体が行ったり来たりし、「個」と「社会」が交錯する。そんな感覚を体感する中で、絵画とは何か、空間とは何か、また他者との関係性の中で生きている自分について、考える機会になったのではないでしょうか。

最初から仕上がりを想定するのではなく、プロセスを段階的に示し、常に驚きや疑問を感じながら制作に取り組むことが、このワークショップの肝でもあります。ぶつかった壁や難題にどう対処するか、教員ももちろんサポートしますが、自分で考え悩み苦しんだ先に気づきや発見が生まれます。AIの進化が加速する時代だからこそ、技術のみを重視せず、視点や発想を転換させて新しいものの見方や価値を見出す力を育んでいきましょう。そして覚えておいてほしいのは、自分の作品の評価を決めるのは他者でも社会でもなく、次に作る自分の作品だということ。常に自分自身と競い合い、新たな創作に挑んでいってほしいと願っています。

美術学科 4年生
大和田 志帆 さん

自分でも風景画をよく描いているので、モネの風景画の変遷をたどれるこの展覧会には、とても興味がありました。油絵では黒の絵の具はまず使いませんが、白の絵の具もチューブそのままの色を安易に塗るべきではないと以前に授業で教わったことがあります。モネの作品では、一見白く見える雲や太陽も、真っ白ではなくうっすらと色が乗っている。本物の絵を鑑賞して初めてその繊細な色使いがわかり、色の表現について深く納得できました。
高校生の時も含めてこのセミナーに参加するのは3度目。今回は自分自身の課題に取り組むつもりで臨み、これまで以上に色々な発見がありました。風景を描く上でテーマ性はあえて出さないようにしてきましたが、「連作」などの手法で社会的な主題を表現したモネ作品を見つめ直し、初めての制作手法も経験して、作品のテーマに対する考え方が広がったように思います。
卒業後の目標はアニメの背景美術デザイナー。今は就職活動の真っ最中ですが、私のように作家以外の道をめざす学生も、先生方が親身になって応援してくださるので、とても心強いですね。美術学科に入学したのは、アニメの背景の仕事に欠かせない画力を高めるため。デッサン技術はもちろん、作品について掘り下げ、画面を構成する力や、作品をどう社会に発信していけば良いかなど、幅広く学ぶことができました。そんな豊かな経験が、仕事においてもこの先の人生においてもきっと生きてくると考えています。

美術学科 4年生
チカンチ・アナスタシア さん

初日の作品鑑賞では、モネの作品を間近で見て、技法や下地など細部までじっくり観察できました。実はワークショップに先立って別の日に同じ展覧会を見たのですが、学芸員の方のお話を聞いた上で鑑賞すると、理解度も倍増。モネが展覧会に落選したエピソードなどにも共感し、よりいっそう深い興味と関心を持って作品と向き合えました。
私は制作する時、頭に浮かぶイメージをそのままキャンバスに映し取るような感覚で描いています。そのため早く描き上げようと焦ってしまい、背景に時間をかけて描くのは苦手でした。今回、いつもとは真逆のやり方で「地」の部分から丁寧に描いてみて、まるで頭の体操をしたような気分に。今までにない新鮮な体験ができ、新しい手法に挑戦したい、作品の結果だけでなく制作の過程をもっと味わいたいという意欲がわき上がっています。一緒に参加した中高生の作品もそれぞれ個性豊かで、一人ひとりの世界観が伝わり、とても刺激を受けました。
ロシア出身で15歳の時に来日した私は、異文化の中で感じた思いや自分の目を通して見た世界を、絵画として表現してきました。「制作することは生きること」と日々感じている私にとって、先生や仲間と様々な意見を交わしながら自由に考え、のびのびと制作して自分を進化させていける大阪芸術大学美術学科は、最高の環境です。これからも住む国や場所に関わらず、息をするように制作を続けていきたいと思っています。