第17回オオサカデザインフォーラム─デザインの多様性や大阪・関西万博に言及 第17回オオサカデザインフォーラム─デザインの多様性や大阪・関西万博に言及
国内外で活躍するデザイナーや建築家など、クリエイターを招いて開催される「オオサカデザインフォーラム」。第17回となる歴史あるイベントが11月19日、国の重要文化財であり文化の発信地でもある大阪市中央公会堂で開催されました。このフォーラムは、学生らが運営などを手がけ、大阪芸術大学デザイン学科の授業の1つであるハイパープロジェクトの一環として取り組まれています。今年は、建築家の坂茂氏、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務める建築家の藤本壮介氏、プロダクトデザイナー/大阪芸術大学デザイン学科教授・藝術研究所所長の喜多俊之先生、アートディレクター・デザイナー/大阪芸術大学デザイン学科客員教授の古平正義先生が登壇し、トークセッションや講演を実施。イタリアの建築・デザイン誌「INTERNI」の編集長ジルダ・ボイヤルディ氏によるビデオメッセージの上映も行われました。
学生企画実行委員として46名が参加
オオサカデザインフォーラムは、デザイン学科の7つの専門コースを横断して行われるハイパープロジェクトの1つです。デザイン学科プロダクトデザインコース 准教授 道田健先生の指導のもと、学生たちが「デザインとは何か」というテーマに主体的に取り組むことを目的に実施されています。エントランスに掲示されたポスターやスタッフパスのデザインは学生たちが制作しました。来場者をスムーズに会場内に誘導するのも学生たちの役割の1つでした。進行・会場アナウンスをはじめ、フォーラム後に行われた登壇者や関係者が集まる懇親会の準備なども学生が中心となり運営を手がけました。
今後ますます発展するデザインの役割
プロダクトデザイナーとして50年以上のキャリアを持つ喜多先生が、オオサカデザインフォーラムのこれまでの歩みや、2025年に開催される大阪・関西万博を前に、今デザインに対する多くの可能性が持たれていることを語り、開会のあいさつを行いました。喜多先生は「今回のフォーラムは、コロナ禍を経てますます注目を集めているSDGs、世界の人々が未来社会を創造する場である万博での可能性など、今だからこそのメッセージが登壇者から語られます。建築をはじめ、幅広い分野でデザインの役割と未来への可能性を考えるフォーラムになれば素晴らしいと思います」と話しました。
続いて、同フォーラムを後援する在大阪イタリア総領事館のマルコ・プレンチぺ総領事が登壇。「このフォーラムは、デザインの分野で活性されたものに価値を与えるだけでなく、デザインの将来の方向性を理解するための重要な機会であると考えています」とあいさつ。イタリアと日本のデザインに多くの共通点があることや、40年以上続く大阪とミラノの姉妹都市提携について述べました。そして、大阪・関西万博におけるイタリアパビリオンのテーマ「アートは命を再生する」を、イタリアの建築家マリオ・クチネッラがイタリア・ルネサンスの理想都市「Citta Ideale」の現代版として表現していると紹介。2025年の万博はこれまで培ってきた両国の関係性をより一層深める良い機会になると発言しました。
多様性やグローバルな視点を持つことが重要
喜多先生がデザインした椅子とサイドテーブルが設置されたステージで、喜多先生と坂氏によるトークセッションが行われました。坂氏は「地政学の建築―作品づくりと社会貢献の両立をめざして」というテーマで、写真を紹介しながら、これまで手がけてきた建築プロジェクトを紹介。坂氏は、世界各国で震災や紛争などによる被害を受けた場所で仮設住宅を建設するなど被災者支援活動を行っています。「建築物によって多くの人命が失われたことに建築家としてある種の責任を感じた」と言います。1996年に被災地や難民支援を目的とするNGOボランタリー・アーキテクツ・ネットワークを設立し、継続的にボランティア活動が行える体制を作り上げました。再生紙を使用した紙管や、避難所で避難民のプライバシーを守るための間仕切りシステムを開発。「建築家の役割は問題点を解決し、住み心地の良い美しいものを作ることで、それは仮設でも変わりません」と坂氏は語ります。また、坂氏は2025年の万博に向けて、釘を使わず軽くてリユースが効くカーボンファイバーや再生可能な紙や竹を使用した建築物などを手がけています。
続いて行われた喜多先生の活動や作品紹介の中でも、丈夫で耐久性に優れた竹を使った家具など、生活や環境に配慮したプロダクトデザインについての説明がありました。イタリアと日本での制作活動を紹介し、実用性を追求しつつ職人芸や未来産業を考慮する必要性などが語られました。喜多先生は「デザインする上で大切な点は、さまざまな要素のバランスをとること」と言葉を続けました。そして、グローバル化が進む中、近年日本の若者が海外に進出しないのは危機的状況だという話題から始まり、世界に目を向けることや多様化する社会に適応することの重要性、AIなどがデザインの分野にも進出してきていることなど、多岐にわたるトピックが展開されていきました。坂氏は「技術の進歩と建築の進歩は逆行していると思う。良い建築物を作るのは最新技術だけではない。テクノロジーなど使えるものは活用すべきで、時代を読んでいくことが大切な一方、デジタルに食われないようにデザインする必要がある」と発言。喜多先生は「心や気を入れて制作できるのは人間だけ」と言葉をつなぎ、トークセッションは幕を閉じました。
展開を広げるグラフィックデザインの領域
次に登壇したのは、大阪芸術大学デザイン学科客員教授も務める、アートディレクター・デザイナーの古平先生です。映像・ウェブサイト・展覧会の会場構成・建築のサイン計画などを手がける古平先生は、グラフィックデザイナーとして30年以上のキャリアを持ちます。グラフィックデザイナーは文字を扱うプロフェッショナルであるという考えや、印刷物のデザインを中心に手がけていた昔と比べ、近年はグラフィックを動かすアート作品を制作するなど、グラフィックデザイナーの仕事自体が変化してきたことについて、自身の作品を紹介しながら説明。美術館のポスターや、広告・CM、音楽・ファッション関連、「BAO BAO ISSEY MIYAKE」とのコラボレーションバッグ、不要になった布を使用して新しいビジュアルに再生させたポスター制作など、デザインの領域が幅広く展開されていることを紹介しました。
日本とイタリアで共通するデザインの概念
休憩を挟んで行われたのが、「INTERNI」の編集長ジルダ・ボイヤルディ氏によるビデオ講演です。INTERNIは、1954年にイタリアのインテリアデザイン誌として創刊され、現在デザインと建築雑誌として世界的な存在となっています。ボイヤルディ氏は、「イタリアと日本の関係は親密であり、産業だけでなく職人技により優れた製品を輩出するなど、両国のデザインには共通点を見出すことができ、アイデアやプロジェクトを考えるための土壌が似ていると言える」と話しました。また、イタリアの建築家マリオ・クチネッラによる大阪・関西万博のイタリアパビリオンについて、「デザインは、イタリアパビリオンにおいて重要な役割を果たすもの。デザインには、アート、テクノロジー、エンジニアリング、ライフスタイルや哲学までも内包され、現在のイタリア技術革新の基礎となるデザインと職人文化の強いつながりも表現される。職人文化は日本のデザインにおいても同様のことが言えると思う」と続け、日本とイタリアで共通するデザインの概念について触れました。
気候や風土をリスペクトし建築を自然と調和させる
最後に登壇したのは、2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)に続き、2015、2017、2018年にもヨーロッパ各国の国際設計競技で最優秀賞を受賞するなど、世界的に活躍する建築家の藤本氏です。「Between Nature and Architecture」と題し、自身が手がけたプロジェクトについて講演を行いました。藤本氏は「自然と建築というのは、単にグリーンを建築に持ち込むということにとどまらず、内部と外部を分けるのではなく、どのようにつなぎ合わせるのか、両者が持つシンプルさと複雑さをどう重ね合わせ、より豊かなシンプルさと豊かさを生み出すかがポイント」と発言。フランス・モンペリエにある集合住宅「L'Arbre Blanc」や、ハンガリー・ブダペストの音楽施設「House of Hungarian Music」、福岡県の太宰府天満宮「御本殿」の大改修に合わせ誕生した3年限りの「仮殿」について、建設の経緯などを解説し、現在進行中のプロジェクトであるJR博多駅前に誕生する施設・公園も紹介。建築物が建つ場所の気候や風土をリスペクトし、建築をどのように自然や季節と調和させるかについて語りました。また、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務める藤本氏は、万博のプロジェクトについても話題を展開。万博のシンボルとなるリングは、会場内のパビリオン全てにアクセスできる主動線となる構造物です。持続可能かつ最先端の素材として世界で注目されている木造建築の大きなリングは、多様でありながら1つという万博の理念を表現したと説明しました。
全ての講演が終わると、学生企画実行委員会のメンバーが登壇。代表を務めた永家若菜さんと、グラフィックデザイナーであり大阪芸術大学デザイン学科学科長を務める高橋善丸先生によるあいさつでオオサカデザインフォーラムは幕を閉じました。
私は、永家さんと共に昨年このプロジェクトの副代表を務め、今年は道田先生からお声掛けをいただいて、代表として参加することになりました。リーダーとして、主にファーラム後に行われた懇親会の準備を担当しました。学生が運営しているこのファーラムに、第一線で活躍する建築家やデザイナーの方々が登壇してくださるのはとても光栄なことです。登壇してよかったと思っていただけるような運営になるよう責任感や緊張感がありました。そして、このプロジェクトは、学生だけでなくさまざまな方々の協力のもと成り立っていることを実感しました。普段は率先して前に出るタイプではなかったけれど、積極的に行動できるようになったと思います。このプロジェクトを通してリーダーの役割を知ることができたので、この経験を今後につなげていきたいです。
私は、昨年もこのプロジェクトに参加し記録係として学生スタッフの働きを写真に収めていました。今年は、イベント企画に深く関わる立場となって段取りや全体の動きを考えていけたらと思い参加を決めました。フォーラムに深く携わる立場を経験し、企画の難しさを学びました。それと同時に大きなやりがいを感じるプロジェクトでした。この貴重な経験の機会をいただけたことに感謝し、今後の学びにつなげていけるようにしたいです。また、日頃から、第一線のクリエイティビティを間近に見て学べる点については、良い刺激をもらえる環境だと感じています。本やインターネット上で情報を見るのではなく、デザイナーの方々から直接話を聞くことで情報量は格段に増えます。その情報が創作する上での引き出しの量につながり、より良い作品作りにつながると考えています。