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UR都市機構との協働アートプロジェクト「うみかぜ団地2023」 UR都市機構との協働アートプロジェクト「うみかぜ団地2023」

芸術計画学科 / 産官学連携
2024/01/10

芸術計画学科とUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)が協働する「うみかぜ団地」は、コミュニティデザインのナレッジとアートの力で地域活性にアプローチする産学連携のアートプロジェクト。2021年度から3年にわたり、UR泉南尾崎団地のコミュニティづくりに取り組んでいます。住民の方としっかり交流を深めた2023年度は、集大成にふさわしい一体感のある企画を展開。11月18日には“尾崎文化祭”と題し、餅つきや焚火音楽祭など、さまざまなイベントを学生と住民の方々が連帯して執り行いました。

コミュティデザインとアートの力で地域を活性

本プロジェクトは、芸術計画学科の基幹授業「プロジェクト演習」の一環。SDGs(持続可能な開発目標)の目標のひとつ「住み続けられるまちづくりを」をテーマとした地域の活性化に取り組みました。参加した16名の学生は3チームに分かれ、月に1回のペースで住民との交流会を実施。釣り教室や憩いの場づくり、BBQ大会に餅つき練習など、さまざまな企画を通じて、阪南市尾崎町の魅力や住民の興味をリサーチしました。“住民と一緒に作る”地域コミュニティをめざし、試行錯誤を重ねながら企画をブラッシュアップ。その集大成となる文化祭では、自治会主催の餅つき大会を数十年ぶりに復活させた「みんなでお餅つき」、尾崎町の特産品、牡蠣の貝殻をランタンにリメイクする「牡蠣ランタン作り」、交流会で撮影した写真展示とコーヒーを提供する「ほっこりカフェ&写真展示」を開催。フィナーレの「焚火音楽祭」では、学生と住民が一緒になって焚火を囲み、絆を深めました。

会場の設備なども、すべて学生たちが手作りで用意

住民との交流から生まれた企画で活気ある文化祭に

文化祭のトップを飾るのは、「みんなでお餅つき」。7月にまずはもち米を蒸す体験を経て、9月には餅つきの練習をするなど、予習を重ねてきた学生チームが、住民の皆さんと力を合わせて準備を進めていきます。ふっくら蒸し上がったもち米を杵で均一に潰したら、いよいよ餅つきがスタート。“よいしょ!”という元気な掛け声とともに、力強く餅をつく学生たちを見守る住民の方々。次々と集まってきた地域の子どもたちが、大きな杵を抱えて懸命に餅をつく姿に、会場に笑顔が広がります。つき上がったお餅は集会所に運ばれ、熱々のまま成形します。手際良くお餅をまるめる住民の方々から教えてもらい、楽しそうにお餅を作る学生たち。その手付きは対照的ですが、どちらの表情も晴れ晴れとした満足感に満ちていました。

住民の方に指導を受け、まずは杵でもち米を潰していきます
餅をかえす相の手も大切な役割。次第に手付きがこなれていきます
地域の子どもたちも次々に参戦し、餅つき大会は大盛りあがり
ついた餅は火傷をしないように気をつけて熱々のうちにまるめていきます
あんこやきなこ、醤油など好みにあわせて味付けして、みんなで味わいました

「牡蠣ランタン作り」は、“住民の皆さんとワクワクを作りたい!”との思いから、「つくるをつくる」という名前でスタートしたチームのアイデア。UR泉南尾崎団地がある阪南市は、実は大阪湾で唯一の養殖場を有する牡蠣の名産地。牡蠣の貝殻に絵を描いて、ランタンのように飾ったらキレイなのでは?というアートな発想から実現したのがこの企画です。当日はあいにくの天気とあって、グラウンドで予定していた会場を急遽、集会場に変更。子どもから年配の方まで、住民の方がワイワイと楽しそうに、自由に絵を描いていきます。学生と住民の合作、牡蠣ランタンは焚火イベントでお披露目予定。さて、どんな光景が広がるのか?みんながワクワク。“ワクワクを作りたい”チームの目標は、すでに達成されたのではないでしょうか。

子どもたちは思い思いにイキイキとしたモチーフを描いていきます
学生たちのアドバイスを受けて、子どもたちの発想の幅が広がります
このランタンが焚火音楽会でどのように使われるのか楽しみです

「ほっこりカフェ&写真展示」も同じく、集会所で開店。お餅でお腹を満たした参加者から次々とコーヒーの注文が入ります。学生たちが丁寧にハンドドリップしたコーヒーの芳ばしい香りが広がり、会場はリラックスした雰囲気に。このチームは、“教えて!住民さん!”をチーム名に、住民の方々と積極的に交流を図ってきました。住民の皆さんを先生として、7月には釣り教室、10月にはお散歩教室を開催。尾崎や居住者の魅力を引き出すマーケティング係の役割を担ってきました。文化祭では、過去の交流会で撮影した写真展示とともに、9月に行ったほっこりカフェをアップデートした手作り屋台をオープン。予想以上に来訪者も多く、会場のあちこちで談笑の輪が広がっていきました。

丁寧にハンドドリップで淹れられたコーヒーは大好評
うみかぜ団地での今までの活動を記録した写真を展示

夕刻には雨も上がり、美しい夕日を眺めたあとは、文化祭のフィナーレ「焚火音楽祭」です。グラウンドに移動したほっこりカフェの屋台に牡蠣ランタンの明かりが灯り、雰囲気もクライマックスに。展示写真で作ったポストカードを選ぶ人、焼きマシュマロに夢中になる子どもたち、自分の描いた牡蠣ランタンを探す人など、うみかぜ団地のグラウンドが幸せな光景に包まれます。最後は、アコースティックユニット「futarinote(ふたりのーと)」によるライブ。学生と住民が入り混じって一緒に焚火を囲むなか、柔らかなギターの音色と透明感のある美しい歌声が響きます。時間をかけて交流を重ねてきた学生と住民の方々の絆がより深まる、思い出深い一日となりました。

風にあおられ大きな炎があがらないように、小さめの焚火台を用意
うみかぜ団地をテーマにしたポストカードを作成し、住民のみなさんに配布
みんなで作った、お絵牡蠣ランタンが風に揺れてキレイでした
ボーカルとギターという最小限の編成で、あたたかみのある音を出す「futarinote(ふたりのーと)」の演奏
幅広い世代が自由に交流する、なごやかな雰囲気のなかでプロジェクトは締めくくられました
芸術計画学科 准教授
中脇 健児 先生

コロナ禍の2021年にはじまったこのプロジェクト。2年目は住民の方々と関係性を構築する年。そして、3年目の2023年は、地域コミュニティづくりの本質とも言える“住民の方々と一緒に作る”を目標にしました。私は当初、昨年好評だった焚火がメインになるのでは?と予想していたのですが、住民の方々に一番響いたのは実は餅つき。何の知識もない私たちを見て、子どもに手を貸すような優しい気持ちで指導をかってでてくれました。地域コミュニティの創生において、コンテンツはすでにあるんですね。それを、いかに見出し、住民を巻き込みながら盛り上げていくかが大切。こちらが準備しすぎると、単なるイベントで終わってしまいます。

そこで、必要不可欠なのが地域住民の方々とのコミュニケーションです。今年は釣り好きの人に釣りを教えてもらったり、憩いの場を作ったり、阪南市で人気のモルックというスポーツを実施したりと、いろんなアプローチから住民の方々のスイッチがどこにあるのかを手探りしました。コミュニティデザインの醍醐味は、実は結果ではなく副産物。学生たちには、住民の反応を見ながら、微妙にベクトルを変えていくフレキシブルな発想を学んでほしいと思っていました。でも、コミュニティデザインが専門の私には当然な変化球が、学生たちにしてみれば暴投に感じたこともあったようです。それでも試行錯誤を重ねながら、学生たちは地域と正面から向き合い、“住民の方々と一緒に”を成し遂げてくれました。コミュニケーション力も相当に鍛えられたはずです。

今の学生たちの時代は、人口減がさらに加速することは間違いありません。高齢化が進む団地は地域社会の衰退の象徴と喧伝されていますが、高齢の方が支援しなければならない存在だけではないことを、学生たちは肌身で実感してくれたと思います。単に、“文化祭やって、面白かった!“ではなく、住民の方々との交流の中で何を感じ、何を考えたのか?人と人の関わりから生まれる気づきや発想力など、本プロジェクトで学んだことを生かしてほしいと思います。さらには、生まれ育った地元に帰った際、何か地域に貢献できる、自分にできることがあると信じてもらえると嬉しいですね。

UR都市機構西日本支社 技術監理部
坂本 杏子 さん

UR都市機構では、いろいろなプロジェクトを展開していますが、大阪芸大の「うみかぜ団地」は1回で終わりではない点がすばらしいと思っています。4月から月1ペースで居住者とコミュニケーションを取りながら、関係性を築いていく。今回も学生のアイデアと居住者の気持ち、どちらかに偏ることはなく、協調して企画を進めてもらえました。

学生と住民の交流は、私たちにとっても居住者の生の声をうかがえる貴重なチャンス。夕日の美しさ、野鳥をはじめとした自然の豊かさなど、尾崎の魅力をさまざまに話される姿が印象的でした。中には釣りが好きで引っ越してきた居住者の方もおられ、7月には釣り教室を開催するなど、プログラムはすべて居住者に寄り添った内容です。

私たちの立場では二の足を踏んでしまいがちなことも、学生の皆さんは屈託なく飛び込んでいかれます。尾崎の産物を使ったBBQ大会や、自分たちで交渉して手配した牡蠣の貝殻でランタンを作るなど、そのアイデアと行動力には驚かされました。特に、昔は自治会で定期的に開催していたお餅つきの復活は、自治会の方々がイキイキと活躍されたイベント。何か、居住者さんの気持ちを元気づける“きっかけ”さえあれば、何でもできる!と実感できたことは大きな成果です。その“きっかけ”を作ってもらった大阪芸大の皆さんには心から感謝しています。

芸術計画学科 3年生
富澤 雪乃 さん

私は2022年度にもこのプロジェクトに参加し、写真展示を担当しました。2年目の今年は、全体のプロデューサーとしてリーダーを担う大役。さまざまな試練がありましたが、私がもっとも頭を悩ませたのは、中脇先生の考えと学生の想いのバランスをとることでした。双方の意見をしっかり消化したうえで、どう伝えれば理解してもらえるかを考える。自分の一言の重みを痛感し、コミュニケーションの難しさに格闘する日々でした。でも、自分自身の成長をはっきりと実感でき、貴重な体験になったと思っています。

今回、私たちが真正面から意見を交換したこともあって、住民の方との絆は昨年から格段に深まったと確信しています。まず、住民の方々の「うみかぜ団地」に対する熱量が違う。昨年は学生から猛アタックして、やっと反応してもらった感じでしたが、今年は自ら手を上げていただくなど、手応えがまったく違いました。学生からの一方通行ではなく、住民の方々と“一緒に作る”という目標は、かなりのレベルで達成できたのではないでしょうか。

私はもともと空間デザインやショップデザインに興味があって、卒業後はアパレル業界に進むことを決めています。ファッションもひとつのアートのジャンル。大阪芸大で学んだアートの知識に加え、人との関わりやコミュニケーション力を培うことができたこのプロジェクトは私にとって貴重な体験になりました。

芸術計画学科 2年生
池上 慈瑛 さん

数あるプロジェクト演習の中から「うみかぜ団地」を選んだ理由は、住民の方と直に触れ合える内容だったからです。実は、僕は人見知りで、初対面の人との会話は得意ではありません。でも、どんな仕事をするにもコミュニケーション力は必要だと思い、あえて苦手な分野に挑戦しようと、このプロジェクトに参加しました。

最初はやはり話すきっかけがつかめず、緊張していましたが、交流を重ねるごとに住民の方から話しかけてもらえるようになりました。餅つきでは学生全員が餅つきのことを何も知らなくて、住民の方にイチから指導を受けることに。細々した準備に本番にと、気持ちよくサポートしていただき、本当に感謝しかありません。だから、厳密に言うと、自ら人見知りを克服したわけではありませんが、心から楽しんだ自分がいたこともまた事実。頭だけで考えるのではなく、同じ時間を共有する体験そのものが大切なのだと学びました。

どんなジャンルかはまだ模索中ですが、僕は将来、起業したいと考えています。中脇先生に指導を受けてみて印象的だったのは、上手く話しの流れをつくる会話力や人の意見を聞きながらも自分の考えを伝える表現力など、卓越したコミュニケーション力。僕も「うみかぜ団地」での体験や中脇先生の言葉を胸に刻んで、起業の夢を実現したいと思います。