冬の大阪をまばゆいライトで彩り、風物詩として親しまれている「大阪・光の饗宴」。2023年12月14日には、そのコアプログラムで、大阪市役所周辺から中之島エリアで開催される「OSAKA光のルネサンス2023」(以下、光のルネサンス)の開幕式が行われました。会場となった大阪市中央公会堂では、アートサイエンス学科のプロジェクションマッピング上映や演奏学科の合唱パフォーマンスが披露され、集まったギャラリーを魅了しました。
大阪市のランドマークの一つである大阪市中央公会堂は、1918年に竣工し、100年以上もの間、国内外の音楽会や講演会の会場として地域の文化を支えてきました。2002年には国の重要文化財に指定され、ネオルネッサンス様式のゴージャスな意匠は建築ファンからも高く評価されています。
「光のルネサンス」では、大阪芸術大学の学生がさまざまなコンテンツで参加しており、今回の開幕式では、アートサイエンス学科が大阪市中央公会堂をキャンバスとするプロジェクションマッピングが初披露されました。これはクリエイティブカンパニーNAKED, INC.(ネイキッド)のアーティストで客員教授の村松亮太郎先生による創造性育成プログラム「0×0=∞(ゼロ×ゼロ=ムゲンダイ)プロジェクト」の一環として行われているものです。同社の映像ディレクターで、アートサイエンス学科の講師を務める川坂翔先生が、学生たちとアイデアを持ち寄り、授業を通して上映作品の世界観を構築していきました。
開幕式では、大阪芸術大学副学長 塚本英邦先生が挨拶を行い、「光のルネサンス」成功にかける意気込みが語られました。
続いて登壇した川坂先生は、「“シンギュラリティアート”をテーマに映像の構成とモチーフを考え、未来への希望を持てる作品になりました」と手応えを語り、アートサイエンス学科1年生の加茂 熙海さんは、学生を代表して「今回のプロジェクションマッピングでは、さまざまな技術を結集し、多くの人に楽しんでもらえるような作品になったと思います。ぜひ、国内外の人に見て楽しんでもらえたらと思います」と、作品完成の喜びをにじませていました。
続いて行われたのは、演奏学科声楽コースの学生によるゴスペル合唱のパフォーマンス。ヘンデル作曲のオラトリオ『メサイア』から『ハレルヤ・コーラス』がジャズアレンジで披露されました。伸びやかに響き渡る歌声は、ライトアップされた大阪市中央公会堂と共にクリスマスムードを演出し、プロジェクションマッピング上映に向けたムードを盛り上げました。
開幕式も大詰めを迎え、特別ゲストとして2025年に開催が予定されている「大阪・関西万博」のマスコットキャラクターであるミャクミャクが登場。プロジェクションマッピングの上映スイッチを点灯しました。
今回のプロジェクションマッピングには、『Singularity Arts』(芸術の特異点)というタイトルが冠せられ、幻想的な色彩で大阪の街の過去・現在・未来を旅するかのような物語が描かれました。大阪市中央公会堂の壁面に映し出される映像は、自然が生い茂る様子やネオンきらめく景色、未来を連想させるような光、ステンドグラスを思わせる美麗な模様など、さまざまな表現でギャラリーの視線を釘付けにしました。
場面ごとに切り替わる音楽は、音楽学科の学生が制作を担当。流麗なピアノによる穏やかなサウンドからビートの効いたものまで幅広い曲調が次々と繰り出され、空に向かって放たれたシャボン玉と共にプロジェクションマッピングの世界観にさらなる演出効果を加えました。
学科の垣根を越えたコラボレーションにより実現した今回のプロジェクションマッピング。学生たちが新たな表現を模索する上でも貴重な体験となり、今後のアートサイエンス学科の発展にも大きく寄与するものとなりました。
私が所属するネイキッドでは月に1回、アートサイエンス学科の授業を担当しているのですが、今回の「光のルネサンス」での上映作品は、15名の学生と共に2023年5月から準備を始め、5回目ぐらいまではアイデアを出し合ってブラッシュアップしていくことに時間を費やしました。タイトルである『Singularity Arts』は、ネイキッドと大阪芸術大学がコラボレーションするにあたり、近年、目まぐるしく成長しているAIなどのテクノロジーと人間の思考、どちらの良い部分も組み合わせることが未来のアートやエンターテインメントの形となっていくのではないかと思って考案しました。作中では大阪の過去・現在・未来が表現されています。大阪は、大正〜昭和初期の大大阪時代といわれた時代や1970年の大阪万博、そして現代の「光の饗宴」など、常に新しいことに取り組み、発信してきた街なので、そういったエネルギーを形にしたいという思いが込められています。インバウンドも盛んな現在、プロジェクションマッピングを行うなら、どの国の方にも視覚的・感覚的に響くものにしなければと考えたのですが、学生たちもその意図を汲み取ってさまざまなアイデアを出してくれました。プロジェクションマッピングを投影した大阪市中央公会堂も芸術性の高い建築で、その魅力に沿って映像をデザインする作業は非常にやりがいのあるものでした。今後のアートサイエンス学科については、テクノロジーを駆使しつつ、今回の「光のルネサンス」で取り入れたシャボン玉のように、体感性のあるアナログな技術も取り入れる工夫について研究できればと思います。総合芸術大学の強みを生かして他学科とのコラボレーションも、もっと積極的に展開していきたいですね。
僕はもともと理工学に興味がある一方で、芸術で自分を表現したい気持ちもあり、この2つを融合させて学問としていることに惹かれてアートサイエンス学科に入学しました。今回の「光のルネサンス」は、大阪市中央公会堂の造形美にプロジェクションマッピングの映像技術が組み合わされることで、自分がめざす道への第一歩になると思い、参加を決意しました。今回のプロジェクションマッピングでは、2025年の大阪・関西万博を控えた現在、外国の方にどうやって大阪の歴史や文化、未来を紹介するかということを考えてアイデアを出し合いました。一緒に取り組んだメンバーから面白いアイデアがたくさん出てきたので、それを余すことなく詰め込むのが苦労したポイントです。1年生で不慣れなこともあり、ソフトの扱い方や音楽との連携をどのように行えば良いかが分からず悩むこともありましたが、この経験を今後の個人制作にも生かしていけたらと思っています。アートサイエンス学科の学びで大きかったのは、表現の幅は無限に存在するというのを知ったこと。僕は高校時代から自分で音楽を作っているのですが、作曲にプログラミングやAIの技術を掛け合わせると、これまで想像もつかなかった音楽制作ができると知りました。今後は在学中に科学技術や数式を用いてさらに新しい表現方法を生み出し、学会などで発表してアートサイエンスの地位向上に努めたいです。卒業後はゲーム音楽などに携わりながら、クリエイター兼研究者のようなポジションで活動できればと思っています。
今回の「光のルネサンス」は、アートサイエンス学科の学科長から声をかけていただき、参加することになりました。最初にいただいた資料では、自分の担当パートが未来をイメージした映像で、音は「クールなEDMやテクノ」とあったのですが、持ち時間が1分間しかなかったので、音楽的にさまざまに展開してBPMも速いUKハードコアというジャンルを基調にした楽曲を最初に提出しました。しかし、プロジェクションマッピングの制作チームから、「リズムをもう少し落ち着かせてほしい」という要望もあったので、ジャンルをメロディックダブステップに変更。激しくも神秘的な雰囲気にしたいと思い、ブルガリアクワイアの歌声も加えて、当初の想定よりも壮大な楽曲になりました。ここからさらに修正依頼があったので、最終的にカラーベースというジャンルの要素も加えて完成に至りました。これまで2分の枠で曲を作ったことはあったのですが、1分というのは初めてで、短い尺の中で自分の音楽を成立させるという点で非常に勉強になりました。音楽の勉強は入学前から自分でもしていましたが、音楽学科に入ってからは、古典的な音楽や楽式論も学べるようになったので、曲展開やコードへの理解がより深まりました。今は音響デザインコースで、空間や機材の違いによる音の響かせ方やミックスの方法など、工学的なことも研究しています。将来はゲームやドラマ、映画などに楽曲を提供して、作曲家として歩んでいきたいと思っています。