2003年から毎年開催され、大阪の冬の風物詩として例年多くの来場者が訪れる『OSAKA光のルネサンス2019』の点灯式が、2019年12月14日に行われました。
プロジェクションマッピング作品『Art of Light ~Projection Mapping~』では、大阪芸術大学アートサイエンス学科 村松亮太郎客員教授のもと、アートサイエンス学科の学生が企画、演出、構成を担当。多くの来場者が、点灯式会場となる大阪市中央公会堂前に詰めかけました。
大阪市中央公会堂のプロジェクションマッピング作品制作を大阪芸術大学の学生が担うのは、2016年に次ぎ今回で2回目。
前回と同じく、総合プロデューサーを務める村松先生は株式会社ネイキッドの代表として、これまで大阪・あべのハルカス展望台における『CITY LIGHT FANTASIA by NAKED -Crystal World-』をはじめ、大阪梅田・泉の広場『Water Tree』、世界遺産 二条城での『世界遺産登録25周年記念 FLOWERS BY NAKED 2019 ―京都・二条城―』など、さまざまな環境での作品を手掛けてきたプロジェクションマッピングの第一人者です。2016年に大阪芸術大学の客員教授に就任してからは、アートサイエンス学科でアートとテクノロジーの無限の可能性を学生に伝えています。
今回の『Art of Light ~Projection Mapping~』も、アートサイエンス学科の授業の一環として行われ、アートサイエンス学科の学生と、一般公募で選ばれた高校生らを含むチームが一丸となって、およそ一年にわたり、村松先生の指導のもと、企画・演出・構成などをゼロからつくり上げました。
点灯式当日には村松先生が壇上に上がり、今回のプロジェクションマッピングへの意気込み、制作にかけた思いを語りました。
「今回のプログラムは、『つぐ』というテーマを掲げ、制作にあたりました。次世代に技術や思いを繋ぐ縦の軸である『継ぐ』、繋いだものを世界に発信していく横の軸である『告ぐ』など、さまざまな角度から僕らや学生の取り組みを発信していきたい。このプログラムでいろんな思いを込めたテーマ、『つぐ』を表現することができ、嬉しく思います。」と、プロジェクトテーマに込めた想いを説明する村松先生。オリンピックや万博など、過去に行われた歴史的な催しが新たに開催される今こそが「時代の繋ぎ目」であり、「次世代を担う学生たちに自分たちの技術を継承したい」という信念を来場者に伝えました。さらには「大阪の文化の象徴である大阪市中央公会堂から、自分たちの表現を世界へ発信してほしい」と、長い期間プロジェクトに取り組んだ学生たちにも、未来へ向けてのメッセ―ジを贈りました。
プロジェクションマッピングが映し出される大阪市中央公会堂は、2018年に竣工100周年を迎えた、大阪でも有数の歴史的建築物。ネオ・ルネッサンス様式を基調としつつもバロック的な壮大さをとりいれた建築は今なお高く評価され、2002年に国の重要文化財に指定された大阪の財産ともいうべき建物です。
建物に違和感なく、かつ魅力を引き出しながら映像を映し出すプロジェクションマッピングは、第一に建物の形状を考えなければいけません。制作にとりかかった学生たちは、実際に縦横約1mほどの大型模型を使い、投映を行いながら制作を進めていったそうです。
建物の余白や装飾、すべての要素を考慮し作られたプロジェクションマッピングは、まさに圧巻の仕上がり。水から太古の海、そして陸へと生物の進化を辿り、歴史を軽快なテンポと鮮やかなビジュアルで展開。そして舞台は宇宙から大阪市中央公会堂の「イマ」へと繋がります。『つぐ』のテーマを、不思議な時間の旅になぞらえ、昔から継承されてきた技術や想いが現在、そして未来をつくっていくというストーリーを華やかな演出で描き出しました。
プロジェクションマッピングを楽しみに集まった来場者からは、いつもと違った表情を見せる大阪市中央公会堂に歓声が上がりました。
テクノロジーとアートを交錯させ、新たな作品や表現、サービスを追及し、新たな価値を生み出す手法を学ぶことを目標とする大阪芸術大学アートサイエンス学科。
第一線で活躍する表現者であると同時に、教鞭を執ることで自らの技術を次世代に継承したいと話す村松先生と、その技術に感銘を受け、切磋琢磨しながらスキルを磨く学生たちの思いがひとつになり、また新たな芸術作品が誕生した『OSAKA光のルネサンス2019』となりました。
このような規模のプロジェクトに携わるのは初めてだったので、チームワークの取り方やスケジュール進行など、分からないことばかりで常に手探りの状態でした。でも、私が大阪芸術大学のアートサイエンス学科に進学しようと思ったきっかけが、高校生のときに拝見した村松先生のプロジェクションマッピング作品だったので、尊敬する先生と共に大きなプロジェクトに関われる喜びと学びはとても大きかったです。 授業の中で、渋谷にあるネイキッド本社を訪れたときは、憧れ続けたプロの現場を生で見ることができ、感動しました。まだまだ技術的に未熟な面ばかりですが、この一年を通して、村松先生とネイキッドの皆さんが教えてくれた技術をこれからも伸ばしていきたいです。
僕は祖国の中国でもプロジェクションマッピングに関わる活動をしていたのですが、アートサイエンス学科に留学してから、プロジェクションマッピングを制作する上で欠かせない基本ソフトの使い方などを先生方に指導いただき、選抜メンバーとなることができました。アイデアの出し方や企画の修正など、自分一人では到底身につかなかったであろう細やかな技術面を、第一線で活躍するクリエイターに直接指導いただけたのも、今回のプロジェクトに関われた中での大きな学びだったと思っています。実際に大阪市中央公会堂に映し出される完成作品を見た時は、ものすごく感動しました。
今回のプロジェクトでは、選抜メンバーの中でもいくつかのチームに分かれ、ネイキッドの皆さんの指導を受けていたのですが、初めての「チームを組んで、一つのプロジェクトをつくりあげる」という経験だったこともあり、自分の思い描くものを他者に伝える難しさと面白さを知ることができました。自分が作った映像をショーレース形式で評価してもらえる授業なども、とてもよい刺激になりました。 今日の点灯式で、ネイキッドの皆さんの最先端の技術により、僕が制作した絵コンテが素晴らしいアート作品になっているのを見た時は、あまりの迫力に圧巻されましたが、改めて「このプロジェクトに関われてよかった」と実感しました。
ネイキッドは「クリエイティブカンパニー」として、作品そのものだけでなく、世の中に対する価値づくりも模索しており、次世代のクリエイティビティを育成することも一種のクリエイティブだと捉えています。そのため「学生と僕たちが一緒に作品をつくって、終わり」という意識ではなく、このプロジェクトで色んなことを学んだ学生たちが、これからさらにいい作品を世の中に生み出してくださることを期待しています。 実は、僕も村松も大阪の堺市の出身なので、大阪は慣れ親しんだ街であると同時に、特別な思い入れのある街でもあるんです。大阪で規模の大きなアートプロジェクトが企画された際、東京の有名アーティストを演出に呼んで、プロジェクトを盛り上げたらそれでお終いというのも「イベント運営」という側面で見れば十分な功績なのかもしれませんが、大阪の地に残っていくものがあるのかな、という疑問は常に抱いていました。だからこそ、今回のように大阪芸術大学の学生と作品をつくっていけたのは、ネイキッドにとっても、僕にとっても良い体験になりました。
ネイキッドと初めて共同事業を行ったのは「OSAKA光のルネサンス2016」で、まだアートサイエンス学科が正式に設立される以前のことでした。その時、公募で募集した高校生たちがアートサイエンス学科に入学してくれて今年3年生になりますが、2016年以後も毎年、ネイキッドの皆さんとさまざまなプロジェクトをご一緒しています。 第一線で活躍するクリエイターと、長い期間共同で作業できる貴重な体験を通し、学生には色々なことを身につけてほしいと考えています。教員の立場で授業を見ていると、授業内容も年々密なものになっていってる手ごたえを感じますね。 著名な方々に対する憧れの気持ちももちろん大切ですが、学生には憧れだけでなく自分の実体験を経て、能力をさらに伸ばしてもらいたいです。