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2020年に誕生した、アートサイエンス学科の新しい校舎を舞台に「新しいクリエイティブ」を作れないだろうか?そんな相談をアートディレクターの古平正義さんに投げかけた。
そして制作されたのが「大阪芸術大学30号館を浮遊する100の言葉」。このインスタレーションの背景は何か? どんな化学反応によって生まれたのか? 制作を終えた4人に尋ねてみた。すると、その言葉のなかに“クリエイティブの未来”についての答えが、見えてきた。
本企画は古平正義さんとライゾマティクスデザインの木村浩康さんと塚本裕文さん、そして写真家の瀧本幹也さんという4人のクリエイターによって進められた。
「舞台はたくさんの創造性のある言葉が飛び交う大阪芸大の新校舎(30号館)だということと、空間を目一杯使うことを前提に、バルーンで言葉を浮かべるインスタレーションにしようと決めました。あとアートサイエンス学科の校舎なので、ライゾマの二人と共に、言葉の選定や配置のプロセスにテクノロジーを使おうと。そして、最終目的は『O+』の誌面にすることなので表現を定着する撮影を瀧本くんにお願いしたんです」(古平)
完成したのは新校舎に浮かぶ100個の透明なバルーンに吊られたポスター。そのポスターに100の言葉が刻まれている。これは一体なにを意味しているのか?
「題材はビルボード(※アメリカの音楽チャート)の年間チャート上位100位の曲のタイトルのデータです。歌と言葉は密接なものだし、ヒット曲のタイトルに使われている言葉は時代や世相が反映されたもの。まずは大阪芸大ができた1957年から妹島和世さん設計の新校舎が建った2018年までの、62年間分の年間チャート、合計6200曲分のタイトルを解析することにしました」(古平)
「6200曲のタイトルのワード(英語の言葉)を洗い出したところ、その中で利用頻度の最も高いワードは『You』でした。そこで次は『You』というワードが含まれた曲のタイトルだけを洗い出して、そこに一緒に使われていたワードを抽出しました。評価の高い楽曲で使われているワードを浮き彫りにするため、チャートのランキング順にポイントに重み付け(100位=1点から1位=100点まで)をしてリストを作成しました」(塚本)
そこで抽出された100の言葉が浮遊しているというわけだ。しかもこの浮遊するバルーンはその位置や高さまで、すべてデータの結果に基づいているという。前出のデータの結果、ポイントが高い順に「I(9695ポイント)」、「Love(5820ポイント)」、「Me(5583ポイント)」……と100位まで続く。それぞれの言葉の位置がその順位を表す配置となっているのだ。
「100のワードを抽出した後は配列を考えていったのですが、そこが大変でしたね。500ポイントごとにグループ分けすることでレイヤー階層を構築したのですが、それを可視化するための配列にするのが大変でした」(木村)
実は、写真家の瀧本幹也さんの意見がひとつの突破口となったそうだ。
「僕はカメラマンの立場だから、最終的にビジュアルとしてどう定着させるかということを考える。今回も最初はピラミッド型に上位のワードを上に配置するという前提で話をしていたけれど、舞台となるこの校舎なら下から見上げるんじゃないかと思ったんです。だからポイントの高いワードが下にあって円錐状になった方がよいのでは、と」(瀧本)
そうして生まれたのが今回の作品だ。
「いまは、本来のクリエイティブやクオリティよりも、経済性や合理性が重視されて“目立てばいい”“売れればいい”というようなものも増えてしまっている。僕はそこに危機感を持っているんです。その流れだったら、今回のインスタレーションもバルーンやポスターに色をつけて派手にするかもしれないですよね。
でも、歴史のある大阪芸大だからこそ、普遍的に“美しい”とか“かっこいい”と感じられるもの、そしてラボラトリーのようなこの新校舎にふさわしい表現にしたいと思ったんです。だからバルーンは透明にして、言葉のポスターにも色をつけず、建物の美しさや光と影が感じられるように文字をレーザーカットで切り抜きました」(古平)
「新しい校舎」の空間で4人のクリエイターが創り上げた表現には、いくつもの示唆があり、クリエイティブの未来を考えるものすべての背中を、ちょっとだけ押してくれるものに感じる。
●古平正義(こだいら まさよし)アートディレクター/デザイナー。1970年大阪府生まれ。FLAME代表。大阪芸術大学デザイン学科客員教授。主な仕事に、パワーコスメ「oltana」のブランディング、「BAOBAOISSEY MIYAKE」とのコラボレーション、「ラフォーレ原宿」広告・CM、INORAN・GLAY・一青窈・AKB48のアートワーク、「Fender」広告・フリーペーパーなど。東京ADC賞など受賞。
●木村浩康(きむら ひろやす)●木村浩康(きむら ひろやす)インターフェイス・デザイナー。Flowplateaux(旧Rhizomaitks Design)所属。東京造形大学卒業後、Webプロダクションを経てライゾマティクスに入社。最新のテクノロジーの知見を取り入れ、さまざまなデータを活用したテックドリブンなデザイン制作を行う。文化庁メディア芸術祭最優秀賞など多数受賞。
●塚本裕文(つかもと ひろふみ)プログラマー。Flowplateaux(旧Rhizomaitks Design)所属。Webプロダクションを経てライゾマティクスに入社。Webを中心にフロントエンド領域を得意とする。
●瀧本幹也(たきもと みきや)写真家。1974年愛知県生まれ。94年より藤井保氏に師事。98年に写真家として独立し、瀧本幹也写真事務所を設立。広告写真をはじめ、グラフィック、エディトリアル、自身の作品制作活動、コマーシャルフィルム、映画など幅広い分野の撮影を手がける。主な作品集に『LANDSPACE』(13)、『SIGHTSEEING』(07)、『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』(05)など。