今、経済も含めた新しいモノ・コトは、アート的思考から生まれている。時代が求めているのは、既成の枠に囚われない自由な発想で、今までになかったものを生み出し、人々に新鮮な感動や気づきを呼び起こしていく才能だ。
そこで『O Plus』では、各ジャンルで、そのオリジナルな発想によって新時代を切り開く人々を追ってみた。二人目はライゾマティクスの有國恵介氏。有國氏がディレクションを手がけた屋上展望空間「SKY STAGE」（東京・渋谷）にて話を聞いた。
Photo：Maciej Kucia
Text：Mirei Takahashi
渋谷の夜空に巨大な光の柱がかかる。それは、2019年11月に開業した大規模複合施設・渋谷スクランブルスクエアの屋上から発信されるサーチライトだ。
同施設の「SHIBUYA SKY」と呼ばれる展望施設には、14階のエントランスに始まり、地上47階に位置する屋外展望空間「SKY STAGE」、そして46階の屋内展望回廊「SKY GALLERY」がある。企画から設計、演出、広告まで多岐にわたるディレクションを手がけたのは、テクノロジーを駆使した新たなクリエイションを得意とするライゾマティクスの有國恵介氏が率いるチームである。
「世界中の聖地と呼ばれる場所には、高みから景色を展望する場所が多数存在します。そこにどんな意味があるかをまず考え、リサーチを重ねていきました」と有國氏は語る。
その答えを見つけるべく、自ら山を登って聖地をめぐり、人間の根源的な欲求について考え続けた。人々が非日常を求めて「登る」という行為の先には、一面に広がる空と地上を見渡す圧倒的な景色が待っている。SHIBUYA SKYもまた、2020年以降の渋谷を象徴する聖地としてそれにふさわしい体験を得られる場所にしたいと有國氏は考えた。
「体験者がたどるストーリーとして、SHIBUYA SKYでは日常から離れて最上階を目指し、屋外展望空間で視界一面に空が広がる圧倒的な体験を得る。そして再び日常に戻るまでといった一連の流れを基に、それぞれの空間の役割を規定していきました。展望空間に至るまでのプロセス自体をコンテンツにすることで、“見る”という行為の可能性を広げたかったんです」。
その実現は一筋縄ではいかなかった。設計者や関係者とも数百回におよぶ会議や深夜作業が続いたという。
「屋上に出た瞬間にはっとするような開放感が必要だと考え、できるだけ視界に余計なものを入れたくなかったんです。あえて屋上にも余計なものを設置せず、自由に回遊でき、のびのびと寝転んだりできるような演出設計を練り続けました。従来であれば、我々のような演出に携わるチームは設計がほぼ完成した後から参画するのが常ですが、今回は比較的早い段階から参加できたことが功を奏したと思います」。
開業して間もないSHIBUYA SKYは今後、どのように人々に受け入れられていくのだろうか。目指すイメージの起点となったのは、1957年に創業し、長らく渋谷駅の文化的なアイコンとして愛されてきた「五島プラネタリウム」だ。
「クライアントのひとつである東急の方々にお話を伺いながら、渋谷の街の歴史を入念にリサーチする中で、皆さんが愛着を持って語る五島プラネタリウムの存在を知りました。東急の『良い街には人が育つ文化が存在する』というコンセプトを受け、SHIBUYA SKYもただの展望施設ではなく、ここで映画や音楽を楽しめるなど、さまざまなカルチャーが生まれていく場所にしたいと考えるようになりました。
100年に一度といわれる渋谷再開発の象徴として、ここが未来を見通す場所へと育っていったらいいなと思います」。
●有國恵介（ありくに けいすけ）株式会社フロウプラトウ（旧ライゾマティクス）。プロジェクトディレクター/プランナー。東京造形大学卒業後、イベント制作会社、大手広告代理店を経てライゾマティクスに入社。最近の主な仕事にSHIBUYA SKY のトータルディレクション、心斎橋大丸「D-WALL」の企画制作、SHIBUYA CASTの常設インスタレーション「AXYS」の企画制作、東京駅100週年記念TOKYO COLORS総合演出、経済産業省『FIND/47』企画制作など。
