Topics
今、経済も含めた新しいモノ・コトは、アート的思考から生まれている。時代が求めているのは、既成の枠に囚われない自由な発想で、今までになかったものを生み出し、人々に新鮮な感動や気づきを呼び起こしていく才能だ。
そこで『O Plus』では、各ジャンルで、そのオリジナルな発想によって新時代を切り開く人々を追ってみた。
三人目は、革新的なデジタルアートで世界的に評価されているチームラボ代表の猪子寿之氏。アートへの壮大な想いを語ってもらった。
森ビルとチームラボが共同で運営するミュージアム「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」は、ボーダレスの名のとおり、ミュージアム全体が、境界のないひとつの世界。たとえば、作品と鑑賞者の境界をなくし、鑑賞者も作品の一部になって溶け込めるという斬新な空間だ。
「そもそものアートの起源について考えると、僕は人間が花を“美しい”と感じたときだと思っている。男が女性を美しいと思うのは、種の保存という本能に基づくもので、生物に共通する美の概念です。
しかし、なぜ花を美しいと感じたのか…。未だに説明がつかない。衣食住と無縁な存在である花に特別な感情を抱いた理由が不明なのです。生殖対象である異性を見るのと同一概念で、人は花を美の対象とした。その瞬間に、美の概念は拡張されたわけです。自然に対する畏敬の概念も、おそらく花を美しいと感じたことに端を発していると僕は思う。そこから神という概念も生まれたのでしょう。
つまり、人類は花を美しいと感じて美を拡張することから、創造性を発揮し、文明を築いて繁栄してきた。美の概念を拡張させたから、滅んでいないのだと僕は思う。創造性を発揮して美の領域を拡張させることこそが、アートなんだ。ピカソが登場する以前は欧米社会の一面的な美の概念が世界を覆っていたわけで、今のように物事を多面的に見ることがカッコいいとなったのは、ピカソの功績なんだよ」
壮大な視点でアートを語る猪子さんの着眼点は新鮮だ。今後、ピカソのように大きな変革はあるかもしれないが、それが2020年の時点で起こり得る可能性は少ないだろう。
「僕らもアート全体も、今と変わらないないと思うよ。今回のミュージアムにしても、何でコレをつくったのか、自分でもよくわからないし…(笑)。ただ、つくるプロセスをとおして、美を拡張させるということ、自然と人間との関係を知ることができたらいいと思いながらつくっている。
2001年にチームラボをつくったときから、デジタル社会において、どう美を拡張させたらいいかを僕らは模索してきた。世界全体にとって意味のあることをしたいと…。当初は評価されなかったけど、2011年くらいから世界の美術館に呼ばれるようにはなった。とにかく、今後も僕らは世界にとって、意味のある活動をしていきたい。アートには、それだけの可能性があると思ってるからね」
猪子さん率いるチームラボの志は、創立当初から変わっていないはず。ただ、世界がチームラボにようやく追いついたのだ。そして、2020年の時点で、彼らがアートの先端を走り続けていることは疑う余地がないだろう。
●猪子寿之(いのこ としゆき)チームラボ代表。1977年徳島県生まれ。大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授。2001年に東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボを創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。チームラボは、アートコレクティブ。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団。