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10代の思い出を語る【作家 呉勝浩】 10代の思い出を語る【作家 呉勝浩】

映像学科, 文芸学科 / その他
2021/06/11

活きた言葉を蓄積することで、自分の血肉になる

映画『セブン』に衝撃を受け、映画監督を志していた


17歳の頃の夢は作家ではなく、映画監督でした。


きっかけは中学生のときに観た『セブン』という映画。映像美、サスペンスとしての完成度が揃った強烈な作品で、「自分も映画をつくってみたい」と。ただ、高校には映画研究会などがなく、何をすればいいかまったくわからなくて。祖父の形見のビデオカメラはありましたが、映画を撮るなんて無理でした。ひとりでシナリオを書いて、新人賞に応募したくらいですね。

映画監督を志すきっかけになった映画『セブン』。『セブン』デジタル配信中 ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込) 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント Seven© 1995 New Line Productions, Inc. All rights reserved. © 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ミステリー小説は小学生の頃から読んでました。最初は姉が持っていた有栖川有栖先生の『月光ゲーム』と『孤島パズル』。アガサ・クリスティーの名作『アクロイド殺し』にも衝撃を受けました。大沢在昌先生の『新宿鮫』シリーズや藤原伊織先生の『テロリストのパラソル』なども好きでしたが、映画に興味を持ってからは、ほとんど読まなくなって。映画を語り合える仲間もいないし、17歳は暗黒の時期でしたね。


10年間の過酷な日々を経て、作家デビューなので大阪芸大に入学したときは、映画の話が出来る人がいること自体がうれしくて。撮影や編集など、実践的な授業が多かったのも性に合ってました。シナリオの講義で「コメディは登場人物が笑っていてはダメ。必死になってないとおもしろくない」と言われたことも印象に残っています。そういう生きた言葉を100個、1000個と蓄積することで、少しずつ自分の血肉になると思うので。


ただ、将来像はまったく描けませんでした。学生時代につくった映画は誇れるものじゃなかったし、就職する気もなく。在学中に商業映画の制作のバイトをやったんですが、過酷な肉体労働についていけず、「これは無理だな」と。映画の現場は根性が必要。僕にはそれがありませんでした。作家デビューするまでの約10年間は最底辺の暮らしでした。大阪芸大で映画を学んだことは今も生きているし、結果的にはあの学校に行ってよかったと思っていますけどね。


芸大や美大をめざす人には、「学校が何かしてくれると思うな。最後は自分次第。そんなに甘くねえぞ」と言いたいです(笑)。


●呉 勝浩(ご かつひろ) 1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2015年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。20年に『白い衝動』で第20回大藪春彦賞を、20年に『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞を受賞。ほかにも直木賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞の候補になるなど、話題作を発表し続けている。

大阪芸大1年生。映画づくりをしていた頃。
作家デビューのきっかけとなる江戸川乱歩賞を受賞したのは34歳の時だった。

小学生の頃に愛読していたミステリー小説は原点。

『月光ゲーム』 (有栖川有栖著/創元推理文庫)
『孤島パズル』 (有栖川有栖著/創元推理文庫)
『アクロイド殺し』 (アガサ・クリスティー著、羽田詩津子訳/ハヤカワ文庫)