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中学1年で完全に進学先を決定しました
わりと早熟だったんでしょうね。小学生のころから歌謡曲が好きで将来は作詞家になろうと思っていて。
でも時代的にバンドなんかが主流になって、松本隆さんのようなプロの作詞家というポジションがなくなってきていた。これだと作詞家はムリなのかなあ、などと思ってたころに出会ったのが吉本ばななさんでした。中1で初めて読んだのが『TUGUMI』だったのですが、小説の内容はもちろん装丁デザインなど“総合的に美しく完成されている”ことに衝撃を受けて。それから「こんな本を書く人になりたい!」と。進路を完全に決めてしまったんです。
調べてみたら、ばななさんは日本大学芸術学部文芸学科の出身でしたが日芸は推薦入学がなかったんです。受験があると文学に関係ない学科の偏差値を上げる努力をしなければならないじゃないですか。その時間はもったいないなと思ったので、総合芸術大学の文芸学科で、なおかつ推薦入学のある大阪芸大に照準を絞ったんです。そこから高校の3年間は、とにかく大阪芸大の推薦をとるための努力の日々です。
多才な他者よりイビツな自分を
それで無事に大阪芸大に入学したものの、入学してからが悩みの連続でした。「本を書く」といっても自分には特に書きたい小説の題材があるわけでもない。「そもそも本ってなんだろう」と苦悩の日々。毎日学内の本屋に通いつめて見つけたのが植草甚一さんの本でした。「散歩や雑学が本になるんだ!?」と新たな衝撃をそこで受けたんです。そこで私も好きな映画や音楽のことをフリーペーパーに書いたりして。卒業後は京都の街歩きのジャンルを強みにして仕事につなげたりと、植草さんの影響は大きいですね。
気がつけば、もう、40冊以上も本を出しているんです。
そんな私が今、ふと思うのは、「17歳の頃にしかない輝き」の存在。私が静岡の田舎で育ったコンプレックスなのか、大学に入ってからは常に最新の、お洒落な情報を得ようということに必死だった時期もあるのですが、今になって「17歳までに好きだったものが永遠なんだ!」という想いが強くなってきました。あの頃の「好きだ!」という情熱って、どうしたって再現できないんですよ。ネット上では“誰かの経験”を経験してしまいがちだけど、イビツかもしれない自分の感性で経験することこそが“宝物”だというのは信じていいと思います。
●甲斐みのり(かい みのり)1976年、静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に執筆活動を行う。著書に『地元パン手帖』『アイスの旅』(ともにグラフィック社)など。雑貨の企画やイベントを行う「Loule」(ロル)の主宰もつとめる。