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このヒトにグッときた このヒトにグッときた

放送学科
2021/06/11

●馬場典子(ばば のりこ)1974年東京都生まれ。フリーアナウンサー。大阪芸術大学放送学科教授。1997年、日本テレビにアナウンサーとして入社し、2014年よりフリー。NHK「あさイチ」、CBC(TBS系列)「ゴゴスマ」、BS日テレ「歌謡プレミアム」、TBS「東大王」、MBS「プレバト‼」などに出演中。

vol.1 一流の俳優とは? 謙さんから教わったこと

渡辺謙さんには何度かインタビューさせていただきましたが、はじめてお会いしたとき、オフィシャルな場では苗字が礼儀と知りつつ、お許しを得て「謙さん」とお呼びすることになりました。ここまではよくある話ですが、謙さんは「僕は何とお呼びしましょうか」と聞き返され、私は図々しくも「馬場ちゃん」とお願いし、和やかなスタートになりました。一流の方は、相手の緊張を解すだけでなく、心を掴むのがお上手です。 


作品とは関係のない話、たとえば豚のしゃぶしゃぶのお湯の温度で盛り上がったことも本当に意外でした。一流の方は、当たり前の日常のなかで、いいものを追究したり、小さなことも大切にされる感性をお持ちなのだと感じました。 


とくに印象に残っているのは、台詞について伺ったとき。謙さんは、食事のときや、ふと振り返ったときなど、日常の何気ない瞬間に台詞を口に出してみるそうです。なぜなら、言葉とは、思いから発してつい出てしまうものだから。言おう言おうとしていないときに口にしてみると、意外な発見があるのだそうです。 


「日常は真面目に、仕事は適当に」との謙さんのお言葉。ひとりの人間として身が詰まっていてこその俳優なのだ、と解釈しました。真の一流とは、特別な何かではなく、日々の積み重ねにほかならないと教わりました。

vol.2 幅広く活躍するには? 篠原さんの姿勢からの学び

現在、タレント活動にとどまらず、ユーミンのステージ衣装を手がけるなど幅広く活躍している篠原ともえさん。出会いは、お互い舞台好きで、劇場でお会いすることが重なり、篠原さんがやさしく声をかけてくれたことでした。 


私たちのご縁はそんな偶然でしたが、篠原さんの今の活躍は必然と知りました。会うたび、夢を実現するためにはどうあるべきかを教えてくれます。まず、夢を語ること。臆せず素直に、これをやってみたい、と口にします。自信があるかないか、うまくできるかどうかではなく、やってみたいかどうかだけ。夢というより胸の内にある想いや具体的なアイデア、と言った方が正確かもしれません。 


次に、デザインを描きためたスケッチブックをつねに持ち歩いていること。チャンスはいつどこに転がっているかわからないので、すぐに想いを届けられるように。 


さらに、普段からテレビと変わらずお洒落なこと。自らが広告塔であることも知っていて、決して手を抜きません。隙あらばスッピンになりたい私とは大違いです。 


最後に。彼女の原動力が、自分が評価されること以上に、アイデアを形にする喜びにあるのも大切なポイントです。アナウンサーでも、自分が主役と思って話している人と、情報が主役と思って話している人では、言葉の深みや届き方が異なってくるのに似ています。

vol.3 山瀬まみさんから教わった、自分の才能を輝かせる心得

「火曜サプライズ」で山瀬まみさんとご一緒したとき、桂文枝さんや志村けんさんなどの大御所に鋭く突っ込む姿からは想像出来ない、繊細さと謙虚さに驚きました。大ベテランなのに、スタッフの意図をきちんと汲み取るまで打ち合わせを重ねます。アクセントが分からないときは、私を頼りにしてくださいましたし、本番で原稿を読むときは、いつも微かに手が震えていました。その真摯な姿勢に触れるたび、こちらの身が引き締まりました。 


一方で、山瀬さんが「悪口は気にしない」ということに驚きました。曰く、「悪口を言われるということは、見てくれていて、気にしてくれているということ。良いことを言われる方が嬉しいけれど、何も言われないより、何も思われないより、ずっと良い」。ネガティブな感想に触れるだけでくじけそうになる私は、その強さに感動しました。繊細さゆえに弱い人も、鈍さゆえに強い人も、たくさんいますが、繊細な人がしなやかな強さを兼ね備えていることに静かな感動を覚えました。 


さらに「なぜ初心を忘れず一生懸命頑張り続けられるのか」を伺った時の、「私は歌手になりたかったから」というお答えにグッと来ました。才能に恵まれ、私の目には眩しく映る山瀬さんのような人でも、元々の夢が叶っているわけではなかったのです。与えられた場所で今の自分に出来ることを精一杯頑張っているからこそ、第一線で輝き続けているのだと知り、目から鱗が落ちました。

vol.4 荒川静香さんから学ぶ、自らを成長させる方法とは

司会者として、講演を拝聴したときのこと。日本人・アジア人として初のフィギュアスケートオリンピック金メダリスト・荒川静香さんは、子どもの頃から文武両道で、書道、エレクトーン、水泳、バレエなど、たくさん習い事をしていたそうです。


そのなかでもいちばん得意だったのがフィギュア!……かと思いきや、じつはいちばんできなかったというから驚きました。 


並の人なら、すぐできることや人に勝てることを選びそうなものですが、荒川さんは、簡単にできるものより簡単にはいかないものに挑戦すること、人に勝つことより自分が成長していけることに、やり甲斐を見出していたのです。それも、わずか5〜6歳のときに。実際、簡単にできることはすぐ飽きてしまい、続かなかったそうです(笑) 。


トリノでの演技は、勝負の世界にいながら、自分の全てを出し切ることに集中していたように感じました。本当の意味での成長や自信は、誰かに勝つことではなく、自分に打ち克つことで生まれる。荒川さんはそんなことを教えてくれた気がします。

vol.5 思わぬアクシデントで垣間見えた、
浜田雅功さんの機転と優しさ

毎週木曜夜7時放送のMBSの人気番組「プレバト‼︎」。私も、俳句・水彩画・消しゴムはんこ・色鉛筆など、苦しくも楽しく奮闘している番組です。


司会はダウンタウンの浜田雅功さん。じつは、俳句の査定結果を踏まえてどの順番で発表するのかは、浜田さんの匙加減ひとつ。つまり即興で、いちばん盛り上がる構成を考え、発表していくのです。その鮮やかな司会ぶりを間近に見られるなんて、私は幸せ者です(半分は、査定結果が気になってそれどころではありませんが……苦笑)。


ある日のこと。前説を終えたお笑いコンビ・どりあんずさんが引き上げてきたとき、停電が起きました。番組スタッフが、しばらく待ってもらうよう説明したものの、なかなか回復しません。そのとき、不安そうなお客さんの前に出て行ったのは、浜田さんだったのです。お客さんの相手をする役割の後輩に恥をかかせないよう、どりあんずさんを伴いながら。


あまりにも自然で温かな振る舞い。浜田さんの優しさは、その場にいた皆に染み渡りました。一流たる理由が、司会やお笑いの技術だけではないことを知りました。