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●谷尻 誠(たにじり まこと)1974年広島県生まれ。建築家。大阪芸術大学デザイン学科准教授。吉田愛と共同代表をつとめるSUPPOSE DESIGN OFFICEでは、住宅、商業空間、ランドスケープ、インスタレーションなど、多岐にわたり手がける。著書に『1000%の建築』(エクスナレッジ)など。
街を空間化することで生まれる建築や都市との新しい関係
インテリアのデザインをするということは、街の一部をデザインすることでもあります。
この「BIOTOP OSAKA」の室内プロデュースに携わることになったとき、カフェ、アパレル、飲食、グリーンショップがそれぞれ成立しながらも、連続的に展開していく空間について考えました。そして、席を外部に設けることで街を空間化し、都市との親密な関係を構築できるようにしました。この空間が、洋服を着ること、コーヒーを飲むこと、植物に水をやること、といったさまざまな時間とつながっていることに気づいたとき、日常生活はより豊かになります。
インテリアをつくるということが、室内をつくるという価値観だけではなく、社会と接続され、街との連続性を持ったときに、インテリアや建築・都市といったカテゴリーを超えた新しい関係性が生まれることに期待しています。
現代建築家が簡単にまねできない偉大な建築家の手仕事の妙
すばらしい建築は時代を超えていつまでも残っていく。戦前から戦後にかけて活躍した偉大な建築家・村野藤吾氏が設計したものを見る度にそう思います。
梅田地下街の吸気用につくられた「梅田換気塔」も村野氏が手がけた建築のひとつですが、竣工は今から54年前の1963年。それなのに古びた雰囲気は微塵も感じません。それ以外にも、村野氏の作品はひとりの建築家が生み出したとは思えないほどバラエティに富んでいて、ひとつの個性にとらわれない姿勢には感銘を受けるばかりです。
コンピュータ技術が発達した現代では、自分の手を動かして図面を書くことは少なくなりました。もちろん、それが悪いということではないのですが、村野氏の建築には自らの手を動かしたことで生まれるフォルムが確かに宿っていて、人間の手に勝るものはないと感じずにはいられないのです。
設計の意図を形にしたもうひとつの『光の教会』
1989年、光の教会を安藤忠雄さんが設計した。
光で十字架をつくりだすという発明によって、教会という用途と建築が一体となった。しかし唯一、設計者本人は、十字架部分にガラスを入れることは、設計の意図に反しているのでガラスを施工することに反対したが、気候と関係性を考慮せざるを得なく、仕方なく当時はガラスが施工された。
2017年、国立新美術館で安藤忠雄展が開催された。再び再現された光の教会には、ガラスの存在はなかった。長い時間を超えてでも、当時の設計の意図を実現しようとする安藤さんの設計者としての意志に感銘を受けた。設計は常々、機能との折り合いを付けなければならない場面に遭遇する。その折り合いの付け方が、設計者の能力を決めてしまうことも、往々にしてある。思い描いた姿を、どのようにして実現していくべきなのかを深く考えさせられた出来事であった。
意志を持ってデザインすること、そんなことを学生のみなさんにも、少し考えてみてほしいと思う。
あいだについて考えている。
内部と外部、パブリックとプライベート、アトリエと組織、建築家とインテリアデザイナー、まだまだ列挙できるが、そのあいだに興味を持っている。内部のような外部はきっと気持ちいいだろうし、海外の素敵な町並みは個人店の営みがまちに滲み出していることで風景がつくられているように、そのあいだの概念が豊かな環境をつくっているようにも見える。
住宅『天と地の家』は、建築なのかランドスケープなのか、そのあいだにあるのではないだろうか。建築をつくることが風景をつくることにつながり、その風景は地域に豊かな環境をもたらすと共に、生活環境を彩っている。あらゆるあいだについて考えていくこと、それはこれからの建築の可能性を示唆しているのではないだろうか。