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これまで地元テレビ局とタッグを組み、連続テレビドラマを制作してきた映像学科の「産学協同プロジェクト」(製作研修Ⅰ・Ⅱ)。10作目を記念して劇場映画作品『虹の彼方のラプソディ』の制作に取り組み、2019年10月から11月、2020年の2月から3月の延べ4か月間、撮影が行われました。映画業界と大学とが協力して技術教育を高める産学協同プロジェクトとして、プロのスタッフと学生でひとつの映画をつくります。
『虹の彼方のラプソディ』は、キャラクター造形学科の里中 満智子学科長原作の歴史漫画『天上の虹』の舞台化準備をする舞台芸術学科の学生たちと、そのドキュメントを撮影しようとする映像学科の学生とのあいだに巻き起こる、友情や恋愛、進路の行方などを描く青春群像劇です。
著名な映像学科の教員陣と、学外から招いた俳優の直接指導をうけ、映像学科の学生たちがカメラ、美術、衣装、スクリプター(記録係)など、映画製作にまつわる業務をそれぞれ担当。全学オーディションで決定した主役となる男女学生9人にプロの俳優、森川 美穂教授(演奏学科ポピュラー音楽コース)、マーク・パンサー教授(演奏学科ポピュラー音楽コース)もゲスト出演し撮影が進行しました。
「製作統括」として指揮をとるのは、映像学科の大森 一樹学科長。学生時代からその才能を高く評価され、『風の歌を聴け(1981)』『ゴジラvsキングギドラ(1991)』など、数々の名作を世に送り出した日本を代表する映画監督の一人です。
3月1日は数々の映画やドラマで活躍する俳優の津田 寛治さんが、教授役として学生たちに授業を行うシーンなどの撮影が大阪芸術大学構内で行われ、スタッフと演者、合わせて50名以上の人員が集まりました。
津田 寛治さんが授業を行うシーンは、被写体を撮るカメラが水平に動くことで、印象的なカメラワークを生み出す手法である「移動撮影」で撮影を行いました。カメラを動かすスピードに細心の注意を払いながら、同じシーンを何度も撮影し、理想のカメラワークを実現します。
演出の教授の「撮影開始」の声が教室に響くたびに、真剣な面持ちでカメラを構えるカメラ担当の学生。撮影した動画はその場でチェックが入るため、現場には緊張感が走ります。
何気ないシーンであっても、作品のクオリティに大きな影響を与えることから、シーンの撮影前には、演出の教授から演者役の学生たちに細やかな演技指導が入ります。
プロの現場では、俳優やスタッフのスケジュールも考慮しながら現場が進行するため、よりスピード感が求められます。カットの合間には小道具係の学生たちが何人も忙しく撮影現場に出入りし、次のシーンに必要な機材を揃えセッティング。大型の機材を搬入する際は、声を掛け合い力を合わせて数人がかりでスピーディーに運ぶなど、スムーズな進行のためにチームワークで柔軟に乗り越えます。
また、多くのライトを使って室内の照度を調整するため、撮影現場は室温が変化しやすくなります。空調ひとつとっても、演者が演技に集中できる環境づくりの一環として、ライティングに合わせて都度、温度調節を行うのです。カメラ担当の学生の周りに他の学生スタッフが集まり、うちわを使ってあおぐなど、チーム一丸となって制作に取り組む姿勢が見える場面もありました。
映画館で実際に上映される映画制作にスタッフとして参加し、現場を体感しながら学ぶ、映像学科の「産学協同プロジェクト」。撮影の合間もプロの俳優と学生が雑談を交えるなど、アットホームな雰囲気もありつつも、スタートの声がかかると現場は一気に緊張感に包まれます。
プロの技術を間近で学びながら学生主体でつくりあげる映画『虹の彼方のラプソディは』2020年に公開予定です。
僕は「美術」担当として今回のプロジェクトに参加しました。美術は物語に必要なシーンを実現するために、時には大がかりなセットを組むなど、映画撮影において重要な役割です。かなり体力が必要なポジションですが、美術指導の宇山 隆之先生(大阪芸術大学技術指導員)が、とても親身になって指導してくださり、最後まで撮影をやり抜くことができました。
今回はアマチュア作品ではなく、実際に劇場で公開される映画の撮影現場なので、当たり前ではありますが、先生たちの指導にも普段より熱が入っているように感じる場面もあります。実際に公開される映画の撮影でたくさん仕事を任せてもらえるのは、自分の能力を伸ばすまたとないチャンスだと感じました。
作品づくりの面ももちろんですが、第一線で働くプロと長期間、常に一緒に行動することで、社会人として必要な常識も身に付きました。
宇山先生はとても熱く、ときには厳しく指導してくれましたが、僕たちが社会に出た後、厳しい指導者の下についたときにへこたれないように、と話していました。先生の気持ちに応えられるよう、社会に出てからもどんな現場でも精一杯働きたいです。
私は演出部の「衣装」係として、役者の着替えのサポートや、衣装の管理などを担当していました。
普段は自主制作で、学生同士で作品づくりを行なってきましたが、今回のプロジェクトに参加して初めてプロと作品をつくることになり、第一線で活躍されてきたさまざまなジャンルの専門家の意見を知ることができました。
私は俳優との距離が近いポジションで働いていたのですが、先生方は役者の当日の体調など、細かいところまで気を遣い撮影を進めます。私は現場でのケアの重要さが認識できていなかったので、技術面だけでなく、しっかりと気配りのできるようになりたいと思っています。
私はまだ1年生なので、普段の授業では座学中心で映画の基礎を学んでいますが、今まで言葉だけではイメージしきれなかった部分が、現場の流れを見ることで理解できました。数々のドラマや映画で活躍されてきたプロの俳優が参加することで変わる現場の空気感などは、普段の授業だけで理解できないままだったと思います。映画撮影に参加してみて、映画そのものの魅力だけでなく、プロの方々の気配りや連帯感、作品に取り組む熱意など、映画に関わる人たちの魅力もあわせて、学ぶことができました。
私は「スクリプター」という、撮影の場で1カットの時間を記録し、映画全体の時間管理をする役割でプロジェクトに参加していました。
スクリプターは一般の方には耳慣れない単語ですし、授業で学べることもごく一部ですので、私は1年生のときにスクリプターの専門家である岡崎 洋子先生(大阪芸術大学映像学科講師)に頼んで、指導してもらっていました。スクリプターは監督の一番近くで演出を学べるポジションなので、今回実際に監督の近くで仕事ができたのは、今までの勉強が実を結んだと思える経験でとても嬉しかったです。『虹の彼方のラプソディ』では、製作統括の大森先生以外にも、あわせて8人の監督が撮影を進行していたのですが、それぞれの監督の近くで多様な映画演出の手法を学べたのは、将来映画監督を目指す身としてとても勉強になりました。
「映画監督」は演出の面でももちろんですが、撮影の進行方法、俳優への指示の出し方など、それぞれが個性をもっています。今回、いろんな映画監督のスタイルを知ることができたので、自分が映画を撮影する際には、このプロジェクトで学んだ技術を目いっぱい生かして撮影に挑みたいと思います。
この「産学協同プロジェクト」での作品制作は今回で10回目になります。今はインターンシップで映画づくりの現場に参加する機会も増えてきていますが、どうしても「見学者」という立場になってしまい、スタッフの一員として働く感覚は薄くなります。その点でいうと「産学協同プロジェクト」は、現役の学生がスタッフの一員として現場で働ける、貴重な機会だと思っています。現在のような形態になるまでに時間がかかりましたが、今の「産学協同プロジェクト」は学生主体の映画づくりが成立しています。映画業界でも、本学卒業生の良い評判を聞く機会が多く、嬉しく思っています。僕自身、このプロジェクトを介して「現代の映画のつくり方」を、学生から学んでいます。
僕が映像学科で指導するようになって10年以上が経ちますが、やはり座学で学ぶこととと現場で学ぶことには距離があると身をもって実感しています。座学も大事ですが限界があるので、このようなプロジェクトで映画づくりの現場のことを学んでほしいと願っています。
作品づくりの才能ももちろんですが、「大きな目標を、大勢と共に成し遂げる」という経験を経て、コミュニケーション能力やマナーなど、どの職種でも必要な能力や気配りが身につくよう、指導を続けています。
「学びとは、真似ること」という言葉があるように、先輩たちや過去の巨匠たちの仕事を知るのは、とても重要なことです。自分の考えを形にすることだけが「才能」と思われがちですが、どれだけ斬新なことでも、既に先人が表現している面が多々あります。大阪芸術大学は、映像学科以外にもさまざまな芸術の道を志す学生が切磋琢磨している総合芸術大学なので、本学に通う4年間で「芸術」を日常のものにして、たくさんのことを学んで感性を育てていってほしいですね。