大阪芸術大学 ウインド・オーケストラ 第44回定期演奏会 大阪芸術大学 ウインド・オーケストラ 第44回定期演奏会
今まで著名な演奏家やオーケストラによって数々のコンサートが行われてきた、ザ・シンフォニーホールにて「大阪芸術大学 ウインド・オーケストラ 第44回定期演奏会」が2023年10月18日に開催されました。大阪芸術大学ウインド・オーケストラは、演奏学科の管弦打コース管打楽器専攻の学生を中心に編成された吹奏楽団です。
大盛況となったホールは、詰めかけた観客の熱気で満ち満ちています。このコンサートのプログラム構成と指揮を担当するのは演奏学科教授の伊勢敏之先生。どのような演目で学びの成果を披露してくれるのでしょうか。
作曲者の意図を的確に読み取った
演奏へと進化させる特別講義
演奏へと進化させる特別講義
第44回定期演奏会に先立つこと3週間前の10月2日、本年度から客員教授に就任された酒井格先生による特別講義が行われました。演奏者には楽譜から作曲者の意図を読み取り、感じ取りつつ、独自に解釈して自分の音楽として表現することが求められます。今回の演奏会で、第一部のラストを飾るのは酒井先生作曲の「森の贈り物」。この楽曲に込められた酒井先生の意図をダイレクトに聞いたうえで、その思いを的確に汲み取り演奏に生かすプロセスを学んだ経験は、演奏家として大きな資産になったのではないでしょうか。
当日、14号館ホールの特別講義会で、学生たちが通して演奏した「森の贈り物」を聴いた酒井先生は、いかにハーモニーを正しく響かせるか、そしてハーモニーのキャラクターに合わせた音色をいかに奏でるか、を学生たちに話してくださいました。曲の構造にフォーカスした酒井先生の講義を学生たちはぐんぐん吸収し、演奏に落とし込んでいきます。本番では、その学びの成果が華々しく披露されました。
吹奏楽の醍醐味を伝えるため
趣向を凝らしたプログラム構成
趣向を凝らしたプログラム構成
毎年、ウインド・オーケストラの定期演奏会では、学生たちの学びのきっかけとして、そして観客の皆様に吹奏楽の魅力を知っていただくという観点から、演奏曲が選ばれます。まず第一部では、アニバーサリーイヤーを迎える3人の作曲家の楽曲をフィーチャー。1曲目は巨匠、三善晃氏の生誕90周年を記念して「吹奏楽のための『クロス・バイ・マーチ』」、生誕100周年のフランク・エリクソンの「序曲祝典」、生誕110周年のモートン・グールドの「ジェリコ〜シンフォニックバンドのためのラプソディー〜」へ。そして、特別講義での成果が楽しみな酒井先生作曲の「森の贈り物」へと続く構成です。第二部は壮大な交響曲に定評のあるジェームズ・バーンズ氏の楽曲で構成。1曲目はバーンズ氏の名を日本で知らしめた「アパラチアン序曲」、そして約40分にもなる大作「交響曲第3番 作品89」で締めくくられます。
数々の名演が繰り広げられてきた
ザ・シンフォニーホールを舞台に
ザ・シンフォニーホールを舞台に
コンサートホールの1階席は、老若男女を問わない幅広い年齢層の吹奏楽ファンで満席に。満席時には残響2秒となるよう設計されたザ・シンフォニーホールのベストコンディションに近い環境です。
楽器を手にした楽団員たちが舞台に現れたのを目にした観客の皆さんの拍手が大きく響き渡ります。その拍手が静まると「吹奏楽のための『クロス・バイ・マーチ』」のストレートで力強い旋律と壮快で鋭いリズムがホールの空間に響きます。そして、明るく快活な曲調の「序曲祝典」から、旧約聖書の戦いのエピソードを表現した「ジェリコ〜」が物語そのままに城壁が崩れ落ちるような壮大なクライマックスへと雪崩込んでいきます。第一部のラストは、10月2日に行われた特別講義で格段のレベルアップを遂げた「森の贈り物」へ。美しい森の景色をハーモニーの連なりとして正しく奏でると、客席から惜しみない拍手が送られました。観客席で見守っていた作曲家の酒井先生が、伊勢先生に紹介されて立ち上がるとさらなる拍手がわき起こり第一部は幕を閉じました。
第二部はトランペットのファンファーレが華々しい「アパラチアン序曲」で始まります。続いては40分にも及ぶ大作「交響曲第3番」へ。第4楽章が希望に満ちたエンディングを迎えると、観客の皆さんからは万雷の拍手が送られました。アンコールの声を受けて、指揮者の伊勢敏之教授が再登場すると「詩的間奏曲」がおごそかに始まります。味わい深い音色の響きで、充実した学びの時間を締めくくることができました。
今回のコンサートでは、私が作曲した「森の贈り物」が第一部の最終曲として演奏されました。伊勢先生から、作曲家の意図をしっかり受け止めて演奏する経験が大切なので特別講義をお願いしたいとのお話を頂き、すぐにお受けしました。10月2日の特別講義では、指揮台とピアノの間を往復しながら、パートごとに切り分けて解説していきました。私が学生の皆さんに一番伝えたかったのは、ハーモニーの重要さです。楽曲の構造を支えるハーモニーが正しく奏でられてこそ、メロディが美しく響くのです。「森の贈り物」は8分に満たない曲ですがパートごとに、ハーモニー、つまり曲の構造を解説していると1時間の講義時間はあっという間に過ぎていきました。
今回の演奏会では、特別講義で伝えたことを学生の皆さんがどうハーモニーを響かせてくれるのかに注意して耳を澄ませていました。軽やかに響くコルネットやサックス、フルートの旋律を支えるハーモニーの響きに、学生の皆さんの成長の跡を実感。第一部の最後を飾る「森の贈り物」の演奏後、観客の皆さんの万雷の拍手が嬉しかったです。
中学校の吹奏楽部の体験入部で演奏してくれた先輩方がかっこいいなと思ったのがトランペットとの出会いです。私は地道にひとつのことに取り組むよりも色々なことに手を出して、たいてい三日坊主で終わっていたのですが、不思議とトランペットだけは違ったんです。自主的に練習したり、色々な音楽を聴いたり。そんな毎日を過ごすなかでもっと専門的に勉強したいと進学先を探していて、音楽以外にも色々なジャンルの芸術を学ぶ人たちがいる大阪芸大を選びました。
今回の演奏会で一番力を入れたのは、ミュートをつけて繊細な音色を吹くパート。ミュートを付けるパートと、付けないパートの息遣いの違いに神経を使いました。「ジェリコ〜」ではトランペットのユニットだけで演奏するパートもあるのですが、そこは思い切りよく吹けたと実感しています。そして「森の贈り物」でもトランペットが目立つパートがありました。特別講義で作曲者の酒井先生が繰り返されていたように、曲の構造を形作る和声やピッチに気を配って演奏できたので満足しています。
最初にファゴットに出会ったのは、吹奏楽部に入部する際の楽器選びを欠席してしまったという、なんとも言えないきっかけでした。でも、長年付き合い続けるうちに、ファゴットの魅力にはまっていきました。それは、この楽器が奏でる通奏低音が入るとバンドの音色がより表情豊かに美しく響くからなんです。そういう縁の下の力持ち的な楽器を担当してきたからなのか、10月2日の特別講義で酒井先生が「森の贈り物」を題材に解説してくださったハーモニーを正しく響かせることの大切さが胸に響きました。また、作曲する際に込めた思いやお話を聞いて隠された工夫を知ることができたのも、曲に感情を乗せるうえで大きな力になりました。
「交響曲第3番」は、作曲者バーンズが幼くして亡くした娘ナタリーを思って書き上げた曲。この第三楽章にファゴットのソロがあります。ファゴットは繊細な感情をのせるのにぴったりな楽器。そこでバーンズとナタリーの対話をイメージして哀しみを表現しました。
卒業後は、地元の中学校で音楽教員になります。今まで培った経験を生かして、生徒たちが音楽に親しめるような授業を作っていきたいと思います。