小室哲哉氏のプロデュースで1992年に結成されたダンス&ボーカルグループ「TRF」のリーダーであり、日本のDJカルチャー&ダンスミュージック界を牽引する第一人者のDJ KOO先生が演奏学科 客員教授に就任し、2022年1月に初の講義が行われました。
ステージ中央に設置されたDJブースに、おなじみのファッションに身を包んだDJ KOO先生が登壇すると、集まった学生たちが拍手で迎えました。
「今日はDJの視点から、みなさんの脳を刺激する講義にしていきたいと思います。盛り上がっていきましょう!」の第一声で講義が始まりました。
「DJがさまざまなジャンルの人や音とコラボレーション&ミックスすることで、新しい楽曲が生まれます。どんどん上がりエモくなる。みなさんが知っている曲をDJが扱うとどう変化するか」。そう言うと、YOASOBI『夜に駆ける』とAdo『うっせぇわ』のデモンストレーションを行いホール内の空気が一気に急上昇しました。
挨拶がわりのデモが終わると、音楽のプレーヤーや制作に必要なエンターテインメントの話を始めました。必要なのは「スキル」「テクニック」「パフォーマンス」の3要素。スキルは追求心とその知識、テクニックは技術や技そのもの、パフォーマンスは表現力、DJならコール&レスポンスやオーディエンスを煽るMCも表現力の一つ。この3要素には常に「クリエイティブ」が伴っているんだと、聴き入る学生たちに向かって語ります。DJ KOO先生の考える「クリエイティブ」とは、創造性と発想力からオリジナリティが生まれ、喜びと感動が加わっていくこと。その「クリエイティブ」を養い磨いていくには、日々の演奏や曲をつくる中でひらめきを活性化させることがとても重要だと言います。
DJカルチャーの歴史を紐解くと、50年ほどの歴史の中で、80年代初め頃に生まれたのが、DJが演奏せずに音楽をやる“ブレイクビーツ”です。そこで、DJ KOO先生は Official髭男dism『Cry Baby』で実演し、解説しました。それはシンプルなビートに、リミックスやマッシュアップなどを加え、新しい音をつくるというもの。既存曲をサンプリングするには、権利者から許諾を得るなどの必要があるものの、まずは自由に発想していくことでDJカルチャーは広がり、数十人のヒップホップストリートから、大ホール、数万人のスタジアムへとインベントの規模も大きくなっていったのです。そして80年代後半から90年代にかけては、ロンドン発祥の“レイヴ”がムーブメントを起こします。レイヴの波は日本へも届き、小室 哲哉氏が手がけたTRFの『BOY MEETS GIRL』などがミリオンセラーを連発するようになります。ダンスミュージックやEDMの特徴とは、重厚感のあるキックドラムであり「キックで音の世界観が変わる」とDJ KOO先生は考えます。1つのキックから、2つ、3つと音色を重ねたキック音を比較し、ノイズを重ねて4つにしても、個性的なサウンドが生まれることをメカニズムも含めて説明し実演しました。キックドラムを活用したダンスミュージックは大観衆を連動させる威力があることを、理論と重低音のEDMサウンドの実演に乗せて伝えてくるDJ KOO先生に、学生たちは座席に座りながらも音楽に合わせて体を揺らしたり、手で拍子を合わせるなどして応えていました。
さらに、エンターテインメントと向き合い、突出した音楽をつくるための心構えや姿勢についても伝授。スキルやテクニックは養えるけれど、教えられたことをこなすだけではなく、通常の生活やパフォーマンスから「一歩踏み込んでみてください」。その実体験として2つのエピソードを披露しました。
EDMサウンドの興奮のあとはTRF新曲のレコーディング時の話です。DJ KOO先生と小室哲哉氏がロンドンの有名スタジオに訪れた時のこと、急きょ予定にない自身のラップパートをレコーディングすることになりました。現地のエンジニアはもちろんネイティブですから「英語の発音などダメ出しされたらメンタルやられそう…」とひるんだものの、「これは人生の選択だな」と気持ちを切り替え、リズムに乗ってラップもやりきりました。するとエンジニアに「お前のラップにはスキルとフローがある。もっと踏み込んでやってみろ」と後押しされ、さらに思いきった2回目がOKテイクになったそうです。
またTVで見かけることもあるDJ KOO先生は、実はバラエティデビューが52歳。当時は「仕事なくなったのか」「仕事選べよ」などと批判的な声も聞こえていた。そんな頃に、ドッキリ番組でいきなり全身天狗姿に変装し仕掛ける側を演じる仕事がきました。分からないことが多く、とまどいながら入った現場でしたが、深夜収録で大勢のスタッフが、視聴者に面白い映像を届けるために必死で働いてるのを見て思い直し、思いっきりやろうと気持ちは決まります。本番で天狗姿の大立ち回りした結果、自分が驚きと笑いを生み出すエンターテインメントになれることを知りました。クラブでガンガン回すアーティストなんだとかっこつけていた頃の自分は、世の中にはこんなエンターテイメントがあることに気がついていなかった。それからはかっこつけることをやめました。
どちらも「一歩踏み込んだ」ことで、それまでとまったく違う景色がみえてきて、達成感と一体感で満たされました。個人でも、グループでも、トライしてください。それがクリエイティブを養っていくことだと思います。
再びダンスミュージックの話題になり、ここ数年UKをはじめ全世界を巻き込み、音楽の中心になっているEDMのサウンドを演奏し、立ち上がって躍る学生も。「そうそう、そのノリ!!」とDJ KOO先生も躍ります。EDMに続き、今注目しているDJカルチャーが“Future Rave”。EDMでも数々のヒット曲を出しているUKユニットが2019年に開発した新ジャンルです。特徴は、シンセを強調したり、メロディアスであったり、レイヴで使っていた裏ハット・16ビートだったり。そのDavid Guetta & MORTEN『Nothing』を、DJスキル&テクニックを織り交ぜ実演。続いてFuture Raveアレンジでもう1曲、優里『ドライフラワー』。トリのTRF『EZ DO DANCE』では会場の興奮と熱気は最高潮に。「みんなが生まれる前の曲だけど、これが日本初のレイヴといわれる、本当のEZ DO DANCEです!」
最後に学生たちに向けて「人に与えていく喜びや感動を、自分の中でも感じながら音楽に携わってほしい」と語りました。
「一歩踏み込んで何でも聞いて」とDJ KOO先生と学生との一問一答を紹介
Q1:師匠の小室哲哉さんから教わって一番身になっていることは?
A1:音楽環境ですね。あらゆる人や音や情報が集まる場でした
Q2:デモの受付はしていますか?
A2:もちろん!
Q3:そのジャケットはどこで買えますか?
A3:原宿Dog 某海外アーティストも御用達だとか。
Q4:DJをやってみたいけど、とっかかりは?
A4:まず機材を買いましょう
「DJで大切なのは何だと思う?」と逆質問するDJ KOO先生に「ノリですか?」と言う学生。「ノリも大切だけど、僕なら選曲が大事と答えます。曲間のつなぎやミックスは練習次第だけど、選曲だけはDJのセンスが如実に表れる。前曲から次のイントロでグッと上がる、一番かっこよく聴こえるのが正解ですよね」とDJ KOO先生。参加した学生たちは、時代の最先端の音楽を作り出した人の考えやテクニックに触れ、音楽に対する姿勢や熱意に刺激を受けることができた特別講義となりました。
最初に客員教授のお話をいただいたときはうれしかったですね。僕でいいの?じゃなくて、ぜひやらせてください!と。ここでも一歩踏み込む、です。家族も、大学案内を見ながら「こんな楽しそうな大学で講師やるんだ」と喜んでくれました。今日の選曲は大学生の娘に相談して正解でした。みなさんの喜びと感動を掬い出すために、全力で応援していきたいと思います。仕事でも音楽でも人生でも、アップデートしていくことがテーマです。それには、若い世代や所属事務所の後輩たちと絶えず交流することだと思っています。講義で学生さんに感じてもらい、自分もまたアップデートできるのだからありがたい。同じ音楽に関わるみんなに伝えたいというピュアな気持ちが募る自分を発見できたし、心地よく共有し合える空間でした。講義前にキャンパス内を散策したのですが、お城や竹やぶがあったり、あちこちにクリエイティブな発想の源泉がありますね。学生と行き交うたびに「こんにちは!」と元気に挨拶してくれるのも、エンターテインメントの仲間として声をかけてくれているようで、この充実した学びの環境がこんな素敵な学生さんたちをつくっているんだなと感心しました。次回の講義の時期や内容は未定ですが、たとえば、他学科の学生さんにも参加してもらい、校内の会場をクラブに見立て、DJブースや音響、照明などをアレンジしてもいいし、DJ KOOを素材にして学生側が何か演出するのも面白そう。それこそ総合芸術大学ならではだし、そこからまた新しいものが生まれるかもしれません。
刺激だらけのすごく貴重な講義でした。進化してきた音楽のDJパフォーマンスはもちろん、現場でのプロ意識や「一歩踏み込む」という体験談も胸に刺さりました。大人になるにつれて飲み込まれそうになる自分がいたけど、もっと前向きに攻める気持ちを持ち続けていたいです。森川美穂先生の「ステージング」という授業で、パフォーマンスの魅せ方などを教わっているのですが、今日のDJ KOO先生の講義ともリンクしていました。今もステージに立ち活躍されている方だからこその説得力があり、パフォーマンスする側からみえる景色があるんだなと実感しました。高校時代からオルタナティブ・ロックのバンド活動を始め、大阪芸大に入学して世界が広がったし、人とのつながりも増えました。アーティストとして表舞台に立つ大きな夢がありますが、最近は裏方の仕事にも興味を覚えています。いずれにしても音楽関連の仕事に就きたいです。今日のダンスミュージックをはじめ、いろんなジャンルの音楽を聴いてもっと視野を広げたいと思います。バンドは生演奏がメインですが、電子音楽を組み合わせてみるとか、DJ KOO先生が最初に「何かひらめきがあればいい」とおっしゃっていましたが、まさに今すぐ曲づくりがしたい!
かわいい音楽が大好きで、主にベルやピアノを多用する歌付きの曲をつくっています。今日の講義は、これからもっと曲調の幅を広げていきたいと考えていたジャストタイミングでした。ダンスミュージックやEDMのようなかっこいい曲も制作してみようと意欲が湧きました。先生のエピソードの中で、「かっこつけることをやめた」という言葉が印象に残っています。私も無意識でも意識的にでもかっこつけてしまうことがあり、ハッとさせられました。そう言葉にできること自体がかっこつけていない証だし、逆に自然体でかっこいいなと思いました。今までは、努力が実らない場合が気になり、精一杯努力したと胸を張れることが少なかったかもしれません。今後はアドバイスや意見を素直に吸収し、できるところまで何でも挑戦してみたいし、音楽の細かい技術よりも先生のお人柄やお話された内容を音楽制作に生かしたいです。希望する具体的な職業名は決まっていませんが、大阪芸大で音楽を学んでいるのですから、やはり音楽には関わっていきたいです。今はメインにしている作曲以外にも、ライブ演出に携わるなど、音楽をつくる以外のさまざまなことにもチャレンジしたいと思っています。