新・実験ドームのポテンシャルを引き出すevala×真鍋大度のコラボ作品が完成 新・実験ドームのポテンシャルを引き出すevala×真鍋大度のコラボ作品が完成
音楽家・サウンドアーティストとして活躍する、音楽学科 客員教授のevala先生の総合ディレクションのもとに、2021年より大規模改修が行われてきた、半球型サラウンドシアター「実験ドーム」。2024年5月15日、この新・実験ドームの完成を記念し、evala先生と、ライゾマティクス主宰・アートサイエンス学科 客員教授の真鍋大度先生のコラボレーション作品披露会が開催されました。今回披露されたコラボ作品は、実験ドームのシステムをチェックする“テストパターン”がコンセプトとなっており、制作の様子は、2023年12月に授業の一環として音楽学科/アートサイエンス学科の学生にも公開。学生にとっても初めての完成作品の視聴となり、AVホールでは、evala先生による新・実験ドーム説明会と、両先生によるクロストークが行われました。
次々と切り替わるテストパターンに釘付け!
完成披露会は、学生および教員向けの作品体験会からスタート。“テストパターン”と聞くと、テレビ放送の休止時間帯に流れる、「ピー」という音とカラーバーが映し出された試験電波放送を思い浮かべますが、新・実験ドームの最新設備をフル活用した両先生による作品は、ドームいっぱいに展開される多彩な映像と立体的な音楽が次から次へと切り替わり、気づけば、息をするのも忘れるくらい引き込まれる迫力です。真鍋先生は作品体験会の直前まで映像の制作を行っていたそうで、まさにできたてほやほやの作品が披露されました。
大学のシンボル的存在である実験ドームを現代にアップデート
続くAVホールでの新・実験ドーム説明会では、まずevala先生が、実験ドームの歴史について説明しました。1960年代後半に、NHK電子音楽スタジオに携わる教授陣が日本の大学で初となる電子音楽スタジオを設立し、電子音楽や音響工学を専門に学べるコースを設置した、音楽分野において強みを持つ大阪芸術大学。「新たな表現を探求するために」と、1981年に芸術情報センターの地階に設置されたのが実験ドームで、1970年に開催された大阪万博の鉄鋼館内にあった、音楽ホール「スペース・シアター」がモチーフだと言われているそうです。
evala先生は着任前から実験ドームに興味を持ち、実際に足を運んでみたところ、その独自性に可能性を感じたと言います。
「実験ドームは、挑戦的でユニークな思想をもって設計されたドーム型のサラウンドシアターであり、大阪芸術大学のシンボル的存在でした。しかし設立から40年が経ち、改修前は施設のポテンシャルが生かされていなかったため、現代にアップデートすることが重要と考えました」と、実験ドーム改修プロジェクトの出発点を語りました。
17.4ch立体音響システムによる「360°全球サラウンド空間」の実現
設立当時のユニークな思想や建築機構を継承しながら、改修工事をスタートしたのは2021年のこと。まずは音響設備の大規模な改修が行われました。ドーム環境において極めて高い空間表現を可能にする、“360°全球サラウンド空間”を追及した世界最先端の17.4ch立体音響システムが導入され、また隣接するプレビュールームは、空間音響制作の理想的かつ柔軟性の高いシステムを採用した8+2.1chの制作スタジオとなりました。
PC教室で2chのヘッドフォンを用いて作った音源を、8chのプレビュールームでも17.4chの実験ドームでも、簡単な操作で変換して聞くことができ、総合的に立体音響制作を学べる学習環境が整いました。evala先生によると、同じ音源でも、例えば美術館と屋外では、全く違う聞こえ方をすることは当然で、「この環境の違いを学内で体験し、この環境ならばどうすればいいかと考えられることは、学生にとってプラスの経験になるのではないかと考えています」と語りました。
音・光・映像のシームレスな連携が創作の可能性を広げる
2022年より実験ドームを使った授業を開始したevala先生は、2023年に、映像システムや照明設備のアップデートに着手しました。まず映像設備については、以前の実験ドームでは、特定のフォーマットに合わせた映像以外は再生することができませんでしたが、改修後は外部入力も可能で、持ち込みのパソコンをつないで、全天周映像や8Kカメラで撮影した映像なども投影することが可能に。また照明設備に関しては、フルカラーLED照明への総入れ替えを行い、パソコンや調光卓でのコントロールができるようになったと言います。スモークマシンやレーザー、UVライトなど、空間演出を可能とする新しい照明機材も導入。一般的なドームシアターは映像投影のみをメインで使用することが多いそうですが、新・実験ドームでは、映像のみならず照明演出によってさまざまな実験制作が可能となります。
これまでの実験ドームは、音響・映像・照明それぞれのセクションが独立しており、連携のむずかしさが課題となっていました。そこで、evala先生が掲げたのが「音、光、映像を等価にあつかってクリエーションする時代の最先端をいく学習環境へ」というコンセプト。新・実験ドームでは、改修工事で導入した新しいシステムによって、各セクションがシームレスにつながるようになりました。evala先生の授業でも、早速作曲ツールを使って音楽を作るように照明をコントロールすることに挑戦していくのだそう。今後も、新・実験ドームで創作の可能性はますます広がっていくことでしょう。
テストパターンを先端のアーティストが作るとこうなる!
音・光・映像を等価にあつかえるクリエーション環境が整った新・実験ドーム。この施設のシステムをフル活用して制作されたのが、今回の作品披露会で発表されたevala先生と真鍋先生によるコラボ作品「TEST PATTERN FOR EXPERIMENTAL DOME」です。evala先生と真鍋先生によるクロストークでは、まずevala先生がテストパターンをコンセプトとした作品を作った経緯について話しました。
「一連のシステムをチェックするためのものが必要だというところから始まり、これを先端のアーティストが作品として作るとどうなるか、ということで、世界を牽引する真鍋先生にコラボレーションを依頼しました。テストパターンという目的をしっかりと果たしながら、実験ドームのポテンシャルを体感してもらうデモンストレーションのような作品となりました」
真鍋先生は今回の作品について、「実験ドームの白の特性を生かしたり、ブレンディング(映像のつなぎ目を目立たないようにする調整機能のこと)部分をあえて確認できるようにしたりなど、実験ドームではこういうことができてしまうんだよ、というのをわかりやすく見せました」とのこと。また、evala先生は半球型のドームの特徴として、“すべての音が中心部に集約してしまうこと”を挙げ、「こんなに音がかたまるんだとか、こういうやり方をすると音がちらばっていくんだとか、ハードウェアのチェックというよりは、実験ドームの環境を知るためのテストパターンのような部分も含まれています」と話しました。
新・実験ドームで空間音響の贅沢な学びを
ラスベガスに、裸眼でバーチャルリアリティ体験ができるような巨大半球アリーナ「Sphere」が誕生したのも記憶に新しいところ。クロストークでは、さらにドーム型環境における創作の可能性について、両先生に質問が投げかけられました。真鍋先生によると、ドーム型環境のスイートスポット(音響も映像も最高の状態で楽しめるエリア)は、ドーム中心の非常に限られたスペースに限定されているとのこと。「実験ドームであれば、真ん中に10人くらいが収まるほどのスペースです。しかも立ってではなく、寝転がりながらゆっくりと視聴するのが一番だと思います」と真鍋先生。音響的には、音が中心部に集まりやすいため、音楽を演奏するには難しい環境にあるそうですが、evala先生は「ドーム型で音が立体的に聞こえづらい環境であることが、現実世界をイメージでき、空間音響を学ぶにはむしろ適している環境だと思います。商用流通するフォーマットの中だけでなく、リアルな表現空間の中での実験を目的に、学生たちに利用してほしいですね」と続けました。
実験ドームで制作したい作品についての質問には、「一日中寝転がって見るような作品がいい」と真壁先生が回答。「イマーシブな(=没入感のある)環境で、しかもVRではなく裸眼で映像をじっくりと楽しめる機会はなかなかないですからね。プラネタリウムに近い感覚かもしれませんが、これをお酒も飲みながら体験できるといいですね」すると「最高ですね。もう決まりましたね、次!」とevala先生も笑顔。早くも両先生による第2弾のコラボ作品への期待が、会場中に高まりました。トーク終了後は、両先生の周りに学生たちが集まり、質問をしたり感想を述べたりする熱心な姿が。実験ドームでは再度作品が上映され、寝転がりながら作品を視聴する学生も数多く見られました。
生まれ変わった実験ドームは、音楽学科やアートサイエンス学科をはじめ、写真学科や舞台芸術学科など学科を横断し、evala先生や真鍋先生の授業以外でも、新たな作品制作や発表の場として活用されます。
今回披露した作品は、100%音から作り出しました。evala先生が職人的に作った音に合わせて、実験ドームの機材をフル活用して。なので、言ってみれば自由演技ではなく、規定演技ですね。映像に関しては、いろいろ作って、良さそうなものを選びました。新しい実験ドームはevala先生の総合ディレクションによって誕生した教材であり、贅沢な遊び場のような場所でもあると思うので、学生たちにはいろんな実験にチャレンジしてもらえたらと思っています。僕自身は、あまりツールにはこだわりがなく、AIを含め、新しいツールをいろいろ使って試しています。ここで皆さんへのアドバイスなのですが、ツールを使うときに忘れてはならないのが「制作の大きな柱となるようなコンセプトを常に持つ」ということ。ツールにふりまわされると、いざ作品を作ってはみたものの、「自分は何を作りたかったんだ?」みたいなことにもなりかねないので、シンプルなコンセプトを明確に持つことはすごく大事だと思います。
昔からあるものを上手く活用しつつ、最新のシステムを導入して、遊び心ある改良をした実験ドーム。ここで、アーティストとして活動されているevala先生がどのような作品を発表するのだろうと、興味を持っていました。テストパターンは、普段作品として発表されるものではありませんが、あえてこれを作品として作ったのは、ドームならではの音へのこだわりがあったからなのかなと感じています。実際に作品を視聴すると、evala先生のとらわれない音への探究心が伝わり、とてもよかったです。また立体音響という点では、音像の動かし方にとても個性が出るなと思いました。今後自分で立体音響作品を作るときは、作品に合った実験ドームの生かし方ができているかを、客観視しながらとり組んでみたいです。またレーザーや映像など、あまり音響とは関わりがないシステムも、活用しながら作品が作れたら面白いと思いました。
2023年に行われたevala先生による集中講義を受講し、その際に今回発表される作品のプロトタイプを拝見して、非常に興味を持っていました。システムチェックとしての作品がどういう形になるのか想像できなかったのですが、間違いなくシステムチェックとしての機能を果たしつつ、ひとつのアート作品として完成されていたので、すごく感動しました。実験ドームを使いたいと思っている学生は非常に多いと思いますし、音楽学科とアートサイエンス学科が合同で授業を行うのもいいなと思いました。もちろん自分自身も実験ドームにとても興味があるので、授業で積極的に活用されたらとてもうれしいです。私はアコースティックの作曲をメインに学んでいるのですが、例えばオーケストラのソロ奏者が感じている音像が、ソロが変わるたびに切り替わるようにするなど、アコースティックのよさを生かした立体音響作品を作ってみたいと思いました。
2023年12月に実施された、evala先生と「See by Your Ears」制作チームによる、3日間の集中講義を受講しました。そのときに、今回披露された作品の音源を少しだけ聞く機会があり、ぜひ完成した作品を視聴してみたいと思い、実験ドームに足を運びました。evala先生と真鍋先生のコラボレーションによる、新しくなった実験ドームのシステムチェックを兼ねて作られた作品でしたが、こんなにも多方面から音を感じることができるのかと、とても驚きました。また床が、7mも上下する昇降式になっているので、これも使って、いわゆる4Dの映画のような映像作品を制作するのも面白いのではないかと思いました。これまで以上に、実験的な音楽探求ができるようになるのではないかと、今からワクワクしています。僕が実験ドームで流してみたいと思ったのは森の中の音。バイノーラルで録音し、それを調整して、17.4chの立体音響システムで聞いてみたいです。
もともとアーティストのPerfumeが好きで、ライブにも行っているのですが、そのライブのテクノロジーを担当している真鍋先生の作品ということで、これは視聴するしかない!という思いで作品披露会に参加しました。実際に作品を体験すると、モスキート音のような、表現が難しそうな音まで鮮明に聞こえてきたことに驚き、音の聞こえ方の違いを調べるためにドームの中を歩き回っていたのですが、どこで聞いても音質が均一になっていたことにさらに驚きました。クロストークでは、真鍋先生のクリエイターとしての人となりを垣間見ることができ、特に真鍋先生が自らを職人気質と語っていたのがとても興味深かったです。僕はデザイン学科の学生ですが、実験ドームでの授業は、大阪芸術大学でしかできない、とても価値のある時間になると感じました。そして今回の作品披露会で僕自身も、イマーシブな作品制作に興味を持ったので、学園祭などの行事で小規模ながらも挑戦してみようと思いました。