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【卒業生の活躍】ファンタジーライトノベル界の新進気鋭作家、美紅が原作を手掛けたアニメが大ヒット! 【卒業生の活躍】ファンタジーライトノベル界の新進気鋭作家、美紅が原作を手掛けたアニメが大ヒット!

放送学科
2023/07/07

高校生にして作家デビューした美紅さんは、大阪芸術大学放送学科声優コースの卒業生。大阪芸大卒業後まもなく「進化の実 ~知らないうちに勝ち組人生~」がアニメ化。小説投稿サイトに連載中だった「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」は、第3回カクヨムWeb小説コンテスト SF・現代ファンタジー部門で大賞受賞するなど、学生作家として目覚ましい活躍を見せていました。高校時代に作家デビューを果たしておきながら、なぜ声優コースを選んだのか? 声優コースで学んだことが創作活動に生かされているのか? など、在学中の印象的なエピソードや創作スタイルを美紅さんにお話いただきました。

2023年4月よりTVアニメ放送開始。総監督・シリーズ構成は「ベルセルク」などで監督を務めた板垣伸、キャラクターデザインは木村博美など、話題作を手掛けたスタッフ陣がそろう

大ヒットの秘訣は声優コースで学んだ役作り

ライトノベルを書き始めたきっかけを教えてください。

母が読書家だったので、家に本はたくさんあったのですが、実は子供の頃から読書が苦手でした(笑)。だから、書き始めた直接の契機はライトノベル(以下:ラノベ)を読んで感動したからではなく、中学の時に見たアニメにはまったからです。見はじめると続きが気になって、気になって…。原作を調べてみたらラノベでした。その作品の最新刊まで読み終えてみると、僕だったら次はこんな展開にしたいな、キャラクターはあんな設定でなど、自然とイメージが膨らんできたんです。小説投稿サイトを見つけて、オリジナルを書きはじめたのは中学生の頃でした。

高校生にして初の書籍化!どんな気持ちでしたか?

書き始めた時は、小説というカタチが分かりませんでした。他の作品を読んでみると、投稿サイト特有の表現手法があって、最初は手探り状態。何作か書き続けているうちに、投稿サイトの運営側からメッセージをもらいました。それは執筆中だった「進化の実 ~知らないうちに勝ち組人生~」の書籍化の打診。相談した両親は、「大丈夫なの?」と最初はかなり不安に思っていたようでしたが、担当者が丁寧に説明をしてくれたことで同意してくれました。僕は正直、宝くじにでも当たったような気分で、その時点ではこの先、どう活動していくかといったことはまったく考えていませんでしたね。

そして、大学進学。なぜ声優コースを選んだのですか?

僕が執筆したアニメに、自分が声優として出演したかったからです。本当にシンプルにそれだけ。大阪芸大にキャラクター造形学科や文芸学科があることは、入学後に知ったくらいです(笑)。

そもそも、僕は特別な勉強をして作家になったわけではないので、大学で文章を学ぶという発想はありませんでした。アニメはラノベを書くモチベーションでもあり、僕にとっては大切な存在です。大学に行くなら声優コースがある大学一択。いろいろ調べて、講師陣のラインナップや講義内容が充実している大阪芸大への受験を決めました。

声優コースで学んだことは、実際の創作活動に役立ちましたか?

さまざまな面で有意義な時間でした。中でも、自分が演じるキャラクターの背景や性格をじっくりと深慮し、理解を深めていく役作りは特別に有益でした。というのも、書く作業もまったく同様で、登場するキャラを自分なりに深掘りしていくプロセスがとても重要なんです。いろいろな先生から演技指導を受けることで、より多面的なアプローチができるようになり、キャラクターに豊かな奥行きが出せるようになりました。

2023年5月のオープンキャンパスでは、恩師の松野太紀先生と「キャラクターつくることと、演じること」をテーマに特別対談を開催

松野太紀先生の指導から、執筆のヒントを得たとうかがいました。

はい。実際に映像の前に立って、アフレコの練習をする松野先生の授業は印象的でした。その時に気づいたのは、文章のリズム感がいかに大切かということ。実際に自分がセリフを覚えてみて、長々とした説明くさいセリフはなかなか頭に入らなくて、感情表現にまで辿りつかないんですね。

逆に、テンポがよく、グルーヴ感があるセリフは、インパクトも強いので、スッと頭に入ってきます。それからは、リズム感を意識して執筆するようになりました。これは、僕にとって、とりわけ大きな収穫だったと思います。

ほかにも印象的な学びはありましたか?

3年生の時、イギリスの劇作家、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」に取り組むことになり、僕は神様の役を演じることになったんです。ご存知のように、これは幸福な王子像と彼の宝石を貧しい人々に届けるツバメの博愛と自己犠牲の物語。死んだツバメと王子を天国へと導くのが神様の役割です。いろんな解釈があるうえに、何と言っても相手は神様ですから(笑)。あーでもない、こーでもないと、神様の深掘りに四苦八苦していた時期、佐藤正治先生の授業にインスパイアを受け、「表現には“こうでなければならない”という決まりなんてない。より自由に、自分なりの表現にチャレンジすればいい!」と気づいたんです。自由に演技をする楽しさを知ったことも、貴重な体験だったと感じています。

美紅さんの著書第二作目にあたる「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」の第1巻は2018年12月に発売

1作目「進化の実」を執筆するにあたって苦労した点は?

これが意外と苦労した記憶がないんです。一般的には先にプロットと呼ばれる物語の筋を作っていくスタイルが多いそうですが、僕は頭の中に出来上がった状態で書き始めるタイプ。イメージやストーリーが浮かばなくて苦労した経験はあまりありません。ただ、スイッチが入らないと筆が進まないので、エンジンのかかりは悪い方です(笑)。頭にあるものをアウトプットする、その作業が億劫になってしまうのかもしれません。

 でも、もともと息抜きの趣味として始めたこともあって、書いている方がストレスを感じないというのが本音です。「進化の実 ~知らないうちに勝ち組人生~」は卒業後にアニメ化が決まり、最終的に全15巻の長編になりました。

2作目の書籍化、アニメ化の経緯を教えてください。

新しいことをやってみたい気持ちがあって、「進化の実」と同時進行で、いくつかの作品を別のペンネームで投稿していました。2017年3月から連載をはじめた「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」もその中の1つ。投稿サイト内で人気が出てきたので、思い切ってコンテストに応募したところ、SF・現代ファンタジー部門で大賞をいただくことができました。“蒼”というペンネームを使っていましたが、書籍化するにあたり著者名を“美紅”に変更。2018年12月に第1巻が発売され、現在は14巻まで進んでいます。アニメに関しては、「進化の実 ~知らないうちに勝ち組人生~」第二期のTV放映が終了する2023年4月にスタートしました。

2023年6月には「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」の14巻が発売

人との出会いや体験がアイデアの源泉

次々のヒット作、アイデアはどんな状況から浮かんでくるのですか?

一番多いのは、お風呂の中。あと、友だちと話をしたり、映画を見たり、基本的には好きなことから生まれてきます。音楽を聞いている時に、アニメのオープニングイメージが湧き上がってくることもあります。もちろん、妄想ですが(笑)。

他のラノベを読むとか、文字情報から得るアイデアは、さほど多くはないかもしれません。やはり、何かを体験したり、人と接したりしながら、自分の感情がどう動くのか? それを振り返り、紡いでいくことが僕の創作スタイルなのだと思います。

異世界がモチーフですが、特別な思い入れなどありますか?

ネット小説は文化的にゲーム世界系が多く、異世界ものもポピュラーなテーマ。特別なこだわりはありませんが、シンプルに読んで面白いし、僕にとっては入り込みやすい世界観ですね。僕のラノベは“名作”と呼ばれる作品とは対極的で、その時の気分でフワッと読みやすいものを提供したいと思っています。個人的にもスカッとする話しが好きなので、テンポが良くて、痛快なストーリーが自分の特徴なのではないでしょうか。

これから取り組んでいきたい目標はありますか?

ワクワクするような壮大な目標があればいいのですが…、淡々と仕事をこなしていきたいというのが正直な気持ちです。というのも、1作目・2作目ともにアニメ化されるという幸運なスタートではありますが、まだまだ駆け出しの身。今は、シリーズが続いている「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」を丁寧に書き進めていきたいですね。

「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」のエピソード中で登場する“フード男”の役で声優を演じた美紅さん

後輩たちにメッセージをお願いします。

入学当初、僕は滑舌が悪かったのですが、基礎練習を繰り返すうちに何とか克服することができました。このように技術的なことは練習でどうにかなるので、本当に大切にすべきは人との交流だと思います。先生や同級生、他の学科の学生など、人から受ける刺激や感情は格別なもの。大阪芸大は、幸いにしてユニークなキャラクターの人が多く集まる場所。いろんな人と話して、自分の世界を広げてほしいですね。

僕の作ったアニメに、大学時代の同窓生が声優として出演する〜そんな可能性があるのも、各方面で活躍する卒業生がたくさんいる大阪芸大ならではの魅力ではないでしょうか。

Profile

美紅

山口県生まれ。中学生からラノベを書きはじめ、高校生の時「進化の実 〜知らないうちに勝ち組人生〜」(双葉社・モンスター文庫)でラノベ作家デビュー。大阪芸術大学放送学科声優コース在学中も執筆活動を続け、「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」(KADOKAWA・ファンタジア文庫)で第3回カクヨムWeb小説コンテスト SF・現代ファンタジー部門で大賞受賞。同作はシリーズ累計250万部の大ヒット。アニメ化に続き、Blu-ray&DVD BOXの発売やゲーム化が決まるなど、気鋭の新人作家として注目されている。