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制作に真摯に取り組む卒業生自ら運営する「工芸のちから2024」 制作に真摯に取り組む卒業生自ら運営する「工芸のちから2024」

工芸学科
2024/08/05

工芸学科の卒業生たちが主体となって、2024年6月26日から7月2日までの1週間、あべのハルカス近鉄本店で展示販売会「工芸のちから2024 卒業生51名による展示販売会」が行われました。今回参加したのは金属工芸、陶芸、テキスタイル・染織、ガラス工芸の出身者の51名。会場には、様々な技法が駆使された作品の数々が展示され、大勢の来場者でにぎわいました。

また、展示販売会と連動するかたちで5月13日から5月24日に大阪芸術大学 芸術情報センターで「工芸のちから -教員・スタッフ展-」を開催。5月19日はオープンキャンパスと重なったこともあり、多くの来場者が訪れました。

工芸学科卒業生の多くに広がりつつある「工芸のちから」

若手作家の発表の場を作ろうと「ガラス工芸の新進作家展」が2016年に開催されたのが「工芸のちから」の原型。翌年には陶芸が加わり、2019年には金属工芸、テキスタイル・染織も加えた工芸学科全コースの卒業生が作品を出展する現在のカタチになったことで「工芸のちから」とタイトルを改め、現在に至ります。2019年には43名だった出展者も、2021年には45名、そして今年は51名と徐々に参加者を増やし、工芸学科の卒業生の活動の場として根付いてきています。

卒業生が自発的に運営する「工芸のちから」のブランディングとは

今回の「工芸のちから」が今までと違うのは、あべのハルカス近鉄本店との折衝や会場のレイアウトや出展者への連絡といった実行委員としての仕事を卒業生が主体となって進めていったこと。もちろん、今までも卒業生も関わってきましたが、卒業生が自走するカタチで運営するのは今回が初めてです。実行委員が目標とするのは、「工芸のちから」のブランド価値をさらに高め、在学生たちが卒業後、展示販売会に参加することを目標とするようなステータスのある展示販売会へと育て上げること。それには例年、大阪芸術大学芸術情報センターで行われる、もう一つの「工芸のちから -教員・スタッフ展-」と、いかに連携していくかが、目下の課題です。

ウイング館9階のフロアの南側エリアに多彩な工芸作品が展示されました
来館者の皆さんに作品作りの意図や制作方法などを丁寧にプレゼンテーションする出展者たち

オープンキャンパスで開催された、もう一つの「工芸のちから」

オープンキャンパスに合わせて5月13日から12日間行われた「工芸のちから -教員・スタッフ展-」では、金属工芸の西村正徳さん、テキスタイル・染織の加賀城健さん、陶芸の日野田崇さん、ガラス工芸の十川賀菜子さんと各分野で活躍する工芸学科の卒業生を招聘。個々のオリジナリティあふれる卒業生や教員の作品を在学生やオープンキャンパスの来場者に印象付けることができました。教員・スタッフ展と近鉄百貨店での展示販売会、この2つの「工芸のちから」が両輪となり、工芸学科全体の活動領域を広げていきます。あべのハルカス近鉄本店での卒業生たちの活動が徐々に根づきつつあることがうかがえます。

工芸学科の教員陣だけでなく、スタッフや卒業生の作品の数々が一堂に会した教員・スタッフ展
銀澄を溶着した吹きガラスの表面にイメージを描くことで静謐な世界観を生み出した山野宏学科長の作品
常に自然と向き合うランドスケープアート、リビングアートを手掛けている卒業生の西村正徳さんの作品
工芸学科 学科長
山野 宏 先生

あべのハルカス近鉄本店での「工芸のちから」展は、故内村先生の発起により「ガラス工芸展」としてスタートしてから10年以上が経過いたしました。今回の展覧会は、各コースの卒業生に加え、在学中の院生など幅広い制作者が参加し、個性的で自由な雰囲気のなか、一般の人々の興味をそそる展覧会が開催されたことは工芸学科の将来にとって大きな収穫です。そして、ガラス工芸の大西さんや陶芸の西さんなど実行委員のみなさんが中心となっての運営がしっかり軌道にのってきていることも私たちにとっての大きな喜び。この展示販売会が始まった当初の想いは、若手工芸作家の活躍の場を作りたいということでしたから。今後は学内での教職員展とあべのハルカス近鉄本店での展示販売会を両輪として、工芸学科全体を盛り上げていきたいと考えています。

「工芸のちから」実行委員  ガラス工芸コース 2007年卒業
大西 未沙子 さん

私はガラス工芸コースの一期生で実行委員を努めています。故内村由紀先生の「若手作家に発表の場を」という呼びかけで開催された2016年のガラス工芸新進作家展から参加しているので、「工芸のちから」には格別の思い入れがあるんです。だから、参加することが目標となるような展示販売会になるよう運営していきたいと思っています。そのためには毎年開催できるように体制を整えることが最優先課題。そうすれば、来場してくれるお客さまにとっても「工芸のちから」の開催時期だから近鉄百貨店に顔を出してみようという動機付けになるし、出展する作家の年間スケジュールに組み込めると思うんです。だから、卒業生にとっても「工芸のちから」の時期に合わせて新しいものを作ろうと思ってもらえて、在学生にとっては作家として独り立ちする登竜門として位置付けられるようにしていきたいですね。

金属工芸コース 2017年卒業
池原 大貴 さん

一番最初に参加した2019年の「工芸のちから」では、売り上げがゼロというすごくショックな結果に。そこで、自分が本当に作りたいのは、どんな作品なんだろう、ということを見つめ直すことから始めました。手を動かし作品を作り続けながら、考え続けて辿り着いたのが、今まで作っていたものとはまったく違う「スチームパンクと宇宙」というテーマ。精度感のある工業的に制作したかのようなレトロフューチャーなデザインを一つ一つ丁寧な手仕事で作っていくというスタイルでした。他にも商品ディスプレイでの見せ方、お客様へのアプローチや接客方法まで、すべてをアップデートしてきました。その成果か、今では順調に売り上げが立てられるようになって、2023年にはSIGMAというブランドで独り立ちすることができました。これからも少しずつアップデートし、自分らしい作品を作り続けたいと思っています。

陶芸コース 2013年卒業
⻄ 崇 さん

大阪芸大を卒業後、会社勤めをしていたのですが、自分の手で素材に触れ、形を作っていく陶芸の面白さが忘れられず1年も経たずに舞い戻ってきました。僕が馴染めず思い悩んでいるときに陶芸の世界に舞い戻ってくるきっかけを作ってくれたのが恩師の田嶋先生。思い切って仕事を辞めて先輩陶芸家のアシスタントをしたり、母校に戻って副手をしたりしながら経験を積んで陶芸作家として独り立ちできるようになりました。このプロセスで作家としてどう生きていくかというノウハウが蓄積できたんだと思います。学生時代は色や形をイメージ通りにどうやってコントロールするかに注力していました。でも今はスタンスが大きく違ってきました。土や釉薬という素材が窯の火のなかで、自分が意図していなかった表情を見せてくれる面白みに気づいたんです。しばらくはこの炭化焼成という手法を突き詰めていきたいと思っています。

テキスタイル・染織コース 2000年卒業
内田 晴子 さん

私は実行委員の大西さんや西さんたちと一緒に大阪市立クラフトパークで指導員として働いています。それと並行して、晴布(はるぬの)という屋号で、動物や植物など様々なモチーフを染めたアイテムを展開してきました。心がけているのは自分らしさや技法にこだわらず、色々なテイストでTシャツやバッグ、スカーフなどを作っていくこと。いわば1人セレクトショップです。今までは「工芸のちから」の展示販売会に参加してこなかったのですが、大西さんたちから誘われて初めて参加しました。とても楽しく、誘ってもらえて本当に感謝しています。初参加にも関わらず実行委員にも就き、同窓の皆さんと一緒に活動できたのは貴重な経験。だから、次回も、ぜひ参加したいと考えています。そして、ゆくゆくは「工芸のちから」だけでワンフロア使えるぐらいの大きな規模に育てていけるとうれしいですね。

ガラス工芸コース 2016年卒業
三浦 由起子 さん

小学生の頃に出会ったトンボ玉の美しさに魅せられて、ガラス工芸の道に足を踏み入れました。大阪芸大を選んだのは、ガラス工芸の充実した設備をオープンキャンパスで目の当たりにしたから。在学中は徹底的に基礎を学んで、卒業後は子どもの頃から憧れていた富山にある蜻蛉玉丙午(とんぼだまへいご)の小暮紀一氏、林裕子氏の元で研修生として学びました。そして今は故郷の和歌山で工房を営み、作家として活動しています。作品作りでは、ひと目見てお客さんの顔が思わず、にこやかにほころんでしまうようなユーモラスな作品づくりを心がけています。「工芸のちから」には2017年のガラス工芸の新進作家展の頃から毎回参加しています。他の作家さんの色の組み合わせや素材の使い方にも興味が引かれますし、色々な情報交換の場ともなっているので、これからも参加し続けたいですね。

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