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工芸のちから2023 工芸のちから2023

工芸学科
2023/07/28

工芸学科の教職員の作品を展示する「工芸のちから2023」と、今年初の試みとして在籍する4年生50名による展示「工芸のたまご」が2023年5月15日〜26日に開催されました。会期中の5月21日に行われたオープンキャンパスでは、本学工芸学科の卒業生で2013年に国の重要無形文化財(人間国宝)に認定された前田昭博客員教授によるスペシャルレクチャーが行われました。

蝋をヤカンに入れて注ぎダイナミックなイメージを生み出した、故本野東一教授のろうけつ染めColor No.5

百花繚乱たる作品が咲き誇る教職員の作品展「工芸のちから2023」

今回の「工芸のちから」は、芸術情報センターで開催されました。工芸学科の二代目学科長を務めた、故本野東一教授の「Color No.5」が展示ホールのエントランスすぐに据えられました。差し向かいには、現学科長の山野宏教授の「Drawing on the Vessel」が展示されています。自然のなかに見られる一瞬をガラスに閉じ込めたような山野先生の作品と、躍動感を表現した本野先生の作品が好一対をなしています。会場の奥へと歩みを進めていくと、陶とガラスを組み合わせた陶芸コースの田嶋悦子教授の作品、そして金属工芸コースの長谷川政弘教授の力強い造形と葉脈の描写が美しいロータスのマケットと、小野山和代教授のテキスタイル作品が続きます。展示壁を回り込んだ控えめな位置に展示してあったのが、前田昭博客員教授の手でふくよかで柔らく形作られた「白瓷捻面取壺」。伝統にのっとった精緻な細工から、視覚を直接呼び覚ますようなオブジェまで工芸学科という範疇に収まりきらない多彩な作品が展示されました。

銀澄を溶着した吹きガラスの表面にイメージを描くことで静謐な世界観を生み出した山野宏教授のDrawing on the Vessel
滑らかでしっとりとした質感に面取りが陰影をあたえる前田先生の白瓷捻面取壺

白磁の本場ではない鳥取で制作し続けてきたからこそ生まれた独自性

AVホールで行われた前田昭博客員教授のレクチャーは美術教師だった前田先生の父親の作品である雪景色の木版画の話から始まりました。「父のように美術に関わる仕事に就きたい」と大阪芸大に入学した当時は、工芸学科が開設されて間もない頃のこと。土を捏ねるのも、ろくろを挽くのも初めてという初学者としての新鮮で驚きに満ちた経験や白磁と初めて出会った学生時代のお話から、開設当初の工芸学科の活気ある雰囲気がありありとうかがえます。卒業後、前田先生が制作の場として選んだのは白磁の本場ではない郷里、鳥取。「有田などの本場で修行していなかったからこそ、こんもり積もった雪のような今の形を生み出すことができたのだと思います」と語る前田先生。その言葉は、数えきれない失敗と、それを克服するための独自の技術を生み出してきたからこそ、身についた自信に裏打ちされたものでした。

前田昭博先生のレクチャーには多くの観客がつめかけた
誠実な口調で白磁に取り組んでいった日々を語る前田昭博先生

卒業制作に向け学生たちが確かな手応えを得た「工芸のたまご」

2023年から新たな企画として工芸学科の4年生全員が参加する作品展「工芸のたまご」を開催。金属工芸、陶芸、ガラス工芸、テキスタイル染織の4コースから2名ずつ実行委員を選出し、展覧会のコンセプトやタイトル決めから展示まで、学生主体で運営していきます。この学生展から、今までにない発想や新しい美しさを生み出していきたいという想いを込めて「工芸のたまご」と名付けられました。会場となったのは芸術情報センターのアートホール。広い空間に自らの作品をどう展示していくかも大きな課題です。そこで、すり鉢のように階段状になっているメインホールだけでなく、その周囲を巡る回廊にも作品を展示し、回遊することで高い吹き抜けが開放感を生み出す空間を鑑賞者に味わってもらえる展示プランを立案。会期中は学生たちが交代で会場に立ち、鑑賞者とコミュニケーションすることで確かな手応えを得ることができました。

吹き抜けから陽光が燦々と注ぎ込むアートホールに学生たちの作品が展示された
展示スペースの置くまで鑑賞者を引き込むよう回廊のエントランスにはテキスタイル・染織コースの作品を中心に展示
工芸学科 学科長
山野 宏 先生

工芸学科は1970年に開設され50年以上の歴史を持っています。当初は金属工芸と陶芸、染織の3つの専攻コースでスタートし、1981年にテキスタイルデザインコースを設置。2003年に、染織とテキスタイルデザインが統合され、さらにガラス工芸コースを増設して総合的な工芸教育のできる充実した体制を整えてきました。
「工芸のちから」は卒業生たちの活動をサポートしようと始まり、コロナ禍という大きな障壁を乗り越えて、今に至っています。今回、学内で行われたのはオープンキャンパスの開催にも合わせて大阪芸術大学での学びの方向性を示す教職員と学生の作品展を開催しました。
しかし、「工芸のちから」にはもう一つの側面があります。それが、一般の方たちに大阪芸大出身の作家たちが生み出す造形美を広く知ってもらうことを目的としたあべのハルカス近鉄本店での展示販売会の「工芸のちから」です。展示販売会は今後、卒業生が主体となり運営していく活動として根づきつつあります。

工芸学科 専任講師
田中 雅文 先生

今までも工芸学科では様々なかたちで作品展を行っていました。しかし、それは各コースごとにバラバラで開催していたものでした。今回の「工芸のたまご」展のように卒業制作展以外で工芸学科の学生がまとまって展覧会をするというのは初めての試み。昨年秋に金属工芸と陶芸の2コース合同で行ったMETA×POTE(メタポテ)展がきっかけになって、学科全体で展覧会をしようという企画が持ち上がりました。やはり、展示のボリュームが大きくなると色々な方向性の作品が集まり、たくさんの方に興味をもってもらえるのではないかと思います。
今年はオープンキャンパスと日程が重なって、より多くの方に展示をご覧いただける絶好のタイミング。どんな作品を作るかだけでなく、どのように見てほしいか。つまり、展示の方法を意識するという意味でも様々な発見があったと思います。
2021年から展示空間を含めて作品を考えるインスタレーション演習が始まりました。その授業を通して得た学びを生かした展示を実践している学生たちが多くいたのも収穫です。卒業制作に向け、実践的な経験を積み大きく跳躍するステップになるという意味でも今回の試みは大きな意義を果たしたのではないでしょうか。

焼成を経て計算し尽くせない素材そのものの表情が表れる田中雅文先生のSQUARE SQUARE
工芸学科 陶芸コース 4年生
中村 幹 さん

工芸学科4コースが一丸となって行う作品展は初めてです。でも、昨年開催された金属工芸と陶芸合同のメタポテ展を見て面白いなと思っていたので各コースから2名選出される実行委員をやろうと思ったんです。今回のような規模の大きい展覧会のタイトルを考えるのも、告知ポスターの制作や展示計画の策定も何もかも初めての経験だったので、すごく勉強になりました。
僕の作品は器だって生きているかもしれないという世界観を感じてもらえるように、展示台ではなくフロアに直接置くという展示方法をとりました。これもアートホールという広い空間を贅沢に使えるからこそのアプローチです。立ったままの姿勢からしゃがみこんでカモの視点でも見てもらえるよう足の部分には金彩を施しました。実際に鑑賞者の方々が膝をついて見ていらっしゃる姿を見て、すごくうれしくなりました。

ティーカップセットをカモの親子行進に見立てた中村さんの作品「Tea set-Dug」