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2022年4月13日、改修が完了した音響・映像による先進的な表現を試すことができる「新・実験ドーム」の完成披露会が行われました。全天周映像投影やサラウンド音響を用いた表現が可能だった実験ドームが、新たに最先端の17.4ch立体音響システムを備え、リニューアルしました。完成披露会の翌週には、音楽学科 客員教授evala先生による、新・実験ドームを活用する実践授業がスタートしました。
大阪芸術大学は、1960年代後半にNHK電子音楽スタジオに携わる教授陣が、日本の大学で初となる電子音楽スタジオを設立し、電子音楽や音響工学を専門に学べるコースを設けた歴史を持ちます。音楽分野において強みを持つ芸術大学として、1981年に新たな表現を探究するために「実験ドーム」を内包した、情報発信の拠点「芸術情報センター」が建てられました。常に最先端の音楽と映像を追求してきた半球型サウンドシアター「実験ドーム」が、設立当時のユニークな思想や建築機構を継承しつつ、この度、新たに世界最先端の立体音響システムを備え、制作・実演・配信などの技術を総合的に学ぶことができる施設として生まれ変わりました。
改修の総合ディレクションを手がけたのは、音楽家・サウンドアーティストであり音楽学科 客員教授のevala先生です。空間音響に加え、映像や照明も最新鋭システムにアップグレードし続ける新・実験ドームは、総合的に空間音響が学べる世界最先端の学習環境として、音楽学科をはじめ、写真学科や舞台芸術学科などで活用されます。
完成披露会には関係者やメディアが集まり、テープカットや実験ドームの改修ポイントの説明などが行われました。また、evala客員教授が主宰する新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」として、2021年に文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞した作品、インビジブルシネマ『Sea, See, She – まだ見ぬ君へ』の実験ドーム 17.4ch ver トレーラー特別版が披露されました。
新・実験ドームには、創立当初の機構を最大限生かし、ドーム型環境において極めて高い表現が可能となる17.4chサウンドシステムを導入。併設するプレビュールームには、空間音響制作の理想的かつ柔軟性の高いシステムが設置され、8+2.1ch制作スタジオとなり、床面や天井、カーテン、什器なども一新され、スタイリッシュな内装にリニューアルされました。また、制作から発表、配信までカバーする音響プログラムが設計され、スピーカーの数や配置が異なる環境でも同じ空間音響作品の再生が可能です。さらに、空間音響をバイノーラル化するHPL技術が採用され、配信側に特別な設備や、受信側に特別な音響機器を用意する必要がなく、従来の2chステレオデータでの立体音響作品を世界へ発信することが可能となります。
プレビュールームは理想的な制作環境を整えている反面、ドーム型の作品発表環境は、半球型空間という形状から特有の音響反響が生じるため、まさに「理想」と「現実」が互いに作用し合っていると言えます。
この2つが隣接することで、理想を追求する制作だけに留まらず、欠点を避ける音作りや、その反射を利用した作品作りなど、新たな考えや発見、実験制作へとつながります。新・実験ドームは、従来のスタジオを飛び出し、実社会を見据え、どのように社会に空間音響を実装していくかを考える新しい視座を養う学習環境となります。
新・実験ドームを舞台に、音楽学科の学びの柱の1つである「サウンドアート」を総合的に学ぶ授業が年間を通じて実施され、授業は「音楽・音響デザイン2」として展開します。evala客員教授が新作を制作し、そのプロセスを学生に公開、12月の完成をめざします。evala客員教授のもと、サウンドアートの背景知識および制作のための技術実習によって理解を深め、プロジェクトベースドラーニング(実践型体験授業)により、これからの音楽業界や社会に必要な新しい視座を持つことを目的に授業が行われます。受講生は、30人程度で、実験ドームやPCルームなど大学内施設を複数使用し、隔月の座学授業と夏と冬の集中講義が行われる予定です。
音楽家・サウンドアーティストのevala客員教授は、新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」を主宰し、立体音響システムを駆使して独自の空間的作曲により先鋭的な作品を国内外で発表。音が生き物のように躍動的に感じられる現象を構築しています。完全な暗闇の中で体験する音だけの映画、インビジブルシネマ『Sea, See, She – まだ見ぬ君へ』で、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、空間音響アルバム『聴象発景 in Rittor Base -HPL ver』でプリ・アルスエレクトロニカ2021のDigital Musics & Sound Art部門栄誉賞を受賞。公共空間、舞台、映画などにおいて先端テクノロジーを活用した独創的なサウンドプロデュースを手がけています。
この実験ドームは、その名の通り実験精神に溢れ、既存のフォーマットに縛られることなく自由な発想で創作ができる場として活用されてきました。今回、改修するにあたりリサーチを進めていく中で、当時最先端の技術を取り入れようとする挑戦的で創作意欲に溢れた設計思想を目の当たりにし、それをそのまま受け継いでいくことにこだわりました。改修と言っても、古いものを全部新しくしたということではなく、現代のテクノロジーをもって設立当初の思想をアップデートしたという感じです。リニューアルされた実験ドームでは、最先端の立体音響が体験できることに加え、創作することができます。また、教室で制作したものを実験ドームで発表することも可能となりました。
教育現場では、教授陣が一方的に知識や技術を与えるのではなく、学生たちと共に手を動かし一緒に何かを作り上げるプロセスの中で、彼らが第一線の創作の現場にある圧倒的な技術力や発想力を垣間見ることができ、それが一番の学びになると思います。特に芸術大学では、最前線で活躍する現役のアーティストやクリエーターたちが教育に「現場」で携わるということが大切だと考えています。
目に見えない「音楽」や、ひいては「音」そのものを現代のテクノロジーで創作することには無限大の可能性が溢れているため、そこを探求していくことが、次の時代をつくる音楽家には求められるでしょう。それには例えば、楽譜の構成や演奏の手法を教える従来の音楽教育だけではなく、音そのものを空間として捉え、それをどのように作曲し、社会のさまざまなものに接続して新しい可能性を見出していくのかという視座が重要となります。そしてそれを社会実装していく技術と発想。音楽を知らなくても「音が好き!」というだけで十分なのです。そこから広がる可能性をどのように創作していくのか、実験ドームを活用した授業を通して学生と共に探求していくのを楽しみにしています。これまでの20世紀型ではない、新しい音楽家を育てていきたいですね。
新・実験ドームでインビジブルシネマを体験した際、さまざまな方向から音が聞こえてきて、新しい感覚ですごく面白いなと思いました。電子音響については、大学に入学してから初めて知り、学び始めましたが、とても興味深く個人的に好きな分野と言えます。今後、新しくなった実験ドームを活用した授業やイベントが行われることが楽しみです。また、自分が制作した音楽を再生させる機会があればうれしく思います。
実験ドームが改修される前に一度、evala先生の作品をそこで体験したことがあるのですが、今回リニューアルされて参加した体験会は、以前と全く違う印象で、背中がゾクゾクするような感覚と目には見えていないものを耳で感じる初めての体験でとても新鮮でした。私は、映画の環境音の道に進みたいと思っているので、第一線で活躍されているevala先生の、新・実験ドームを活用した実戦授業を受けられることをすごく楽しみにしています。
新・実験ドームで体感したevala先生による作品は、立体感と音の距離感がすごいと思いました。イヤホンやヘッドホンで音を聴くと、左右のみの方向で一方通行な印象がありますが、実験ドームでは、まさに360度の立体音響を感じることができ、ものすごくリアルでした。evala先生の実践授業を履修するにあたり、そこで新しい作品を制作すると伺っているので、そのプロセスを間近で見て学習できることがとても楽しみです。