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今、多くの才能が、間違いなく「笑い」の周囲に集まっている。芸人は、舞台やバラエティのひな壇から飛び出し、TVのニュースショーのMCとなり、映画監督、脚本、作家、そして絵画や造形などのアート作品まで、まさに垣根を超えて、ボーダレスに活躍する範囲を拡げている。それは、SNSや動画サイトを通じて国内そして海外まで広がり、芸人サイドからだけではなく、さまざまなジャンルのアーティストたちや、公共機関さえ「笑い」というコミュニケーションに、「笑い」を生み出す才能に、何かを期待し、なんらかの関係を持とうとしている社会現象のようだ。O Plusは、今、大きな過渡期を迎えている「笑い」を、そのど真ん中から探ってみようと考えた。「笑い」最前線の現場にいる彼らや彼女たちは、今何を考えて「笑い」をつくろうとしているのか。「笑い」を生活の中に溶け込ませている世代は、これからどうその関係を育てようとしているのか。そう、今ボーダレスに拡がる「笑い」をアート目線で見ていくと、相当面白い未来が見えてくる!
Photographs: Kazuyoshi Usui
Styling: Junya Hayashida, SIGNO
Hair & Makeup:Hiroyuki Sumide
Text: Yuki Yoshioka
3歳からバレエの道を歩み、そして2015年に『金の卵オーディション』で吉本新喜劇に入団した“バレリーナ芸人”松浦景子。幼い頃から芸術大学まで学んだ芸術、バレエを「笑い」へと再構築した稀有な才能の持ち主だ。
「バレエ界での目標はなく、ずっと辞め時を失い続けるなか、大学で私より圧倒的にバレエに向いている同期に出会った時、自分はバレリーナに向いてないと悟りました。ずっと真剣にバレエに向き合ってきたけど、そこからバレエを楽しもうと。真面目に練習する人や先生をいかに笑わすかにシフトチェンジ。何かが吹っ切れた感じがしたし、自分のポジションをそこで見つけたような気がします」
吉本新喜劇に入団したものの、当初、実はそう甘くはなかったと言う。
「バレエを売りに、となんとなく思っていたけれど、同期の中で埋もれていました。このままではダメだ、もっとバレエで努力しようと。バレエのコンクールに出て優勝してそれを武器にしようと決意しました」
結果、見事に優勝。今までバレエだけをやっていたころは優勝に今一歩のところで届かなかったが、目的が明確になったとたん、肩の力が抜けて何も考えずに踊っていたという。
そして今の自身をこう話す。
「私は芸人の中でもだいぶクリエイティブ寄りのところにいて、バレエを売りにしている者としてはバレエを汚すわけにもいかず、キレイ目な線を保ってギリギリの品格は大事にしているつもりです。私を見てバレエを始めたお子さんのファンも多いので、おもしろくバレエの良さを伝え、元気を与えてっていう教育目線の発信もあります。挫折してバレエを辞めていた人が大人になって、私を見て再開したっていう方もたくさんいますし。私自身の素質の無さに悩む中、お笑いに支えられたから、今バレエを頑張っている人たちの応援になればいいなって」
そんな松浦が、いつしか、「バレエ」という芸術と「お笑い」というエンタテインメントのボーダーを超える存在になってきた。
「私のやっていることはすっごいふざけているんですけど“バレエってなんでこんなガリガリでおもんなさそうな顔してんねん”って思う、その層に刺さっているのかも。できれば、私のことはマスコット的、アイコン的に扱ってもらえたらいいな」
今後の目標を聞いた。
「根本芸人というのを忘れずに、すべてのことを両立したい。近い目標としては賞レースでチャンピオンになること。もし私みたいなのが優勝したら、いろんな人の勇気にもなるはず。自分で人生を変えたいですね。やりたいことがいっぱいで、野心がヤバいです」
●松浦景子(まつうらけいこ)
1994年4月20日、兵庫県生まれ。吉本新喜劇座員。特技は3歳から習ったクラシックバレエ。2015年、「金の卵8個目オーディション」に合格し、吉本新喜劇に入団。同年、座間全国舞踊コンクールクラシックバレエ部門で優勝する。