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このお城は、何を物語って行くのだろう【里中満智子】 このお城は、何を物語って行くのだろう【里中満智子】

キャラクター造形学科
2022/10/24

2021年秋、大阪に新しい白亜の城が生まれた。童話シンデレラや白雪姫、手塚治虫が生み出したサファイア姫、最近のディズニーアニメ「アナと雪の女王」… そう、城こそ、古今東西の人間の長い歴史の中で、豊かな物語を生み出す宝庫であり間違いなく、人とは何か?を見つめ、語られる場所であり続けてきた。そこには、幾多の夢が生まれ、希望が語られ、幾多の恋が咲き、愛がつぶやかれた。ときには、挫折があり、嫉妬や虚栄心という自問があり、諍いを勝ち残る姫たちの物語もあった。21世紀に大阪芸術大学のキャンパスに生まれた城は、キャラクター造形学科の校舎である。まさに人間を見つめ、人間を語るエンターテインメントを生み出す才能を育む城として生まれたのだ。これから10年、100年。この城は、何を物語っていくのだろう。マンガ家・里中満智子氏に、これから、この城が育てる未来への可能性と、夢の行き先を聞いてみた。


Photograph: Kazuyoshi Usui
Text: Wakako Takou

「好き」というだけで才能
「好き」なことを一生懸命できない人が、
「好き」じゃないことをできるはずがない

変化を求め続け、「本質」を求める続け表現の進化と多様性を求め続ける


16歳で漫画家デビューした「天才」であり、日本の漫画界を牽引してきた「求道者」で「先駆者」。そして、大阪芸術大学のキャラクター造形学科学科長として若き才能たちを育てている「教育者」でもある里中満智子。そんな彼女は、漫画・アニメ業界の変化をどのように見つめてきたのだろうか。「この業界は変化し続けるのが当然で、変化が止まったらおしまいです。日本の漫画やアニメがなぜこんなに世界に広まったかと言うと、変化し続けてきたから。そして、世界基準に合わせなかったからだと私は思います」


世界中に漫画と同じようなものはたくさんあったが、子供向けとして、理想の子供の在り方や、教育的内容が描かれるものが主流だった。しかし、日本の漫画は、手塚治虫を象徴とするように、勝てないヒーロー、裏切られるヒーローや、アンハッピーエンドの残酷な物語も多い。こうした日本で発展したヒーロー像やストーリーに込めた価値観は、70年代、漫画が米国進出を目指した際には、わかりやすさ、努力で勝ち取る「アメリカン・ドリーム」を好むアメリカに受け入れられなかった。しかし、そこであせることなく、漫画が「マンガ」として独自路線で進んできたことが後の評価につながったと語る。


「子供相手として目線を下げるのではなく、子供相手だからこそ難しいテーマを子供にもわかるようドラマとして真剣に組み立ててきたことで、オリジナリティに溢れた作品が生まれました。それに、お金がなかったから、『鉄腕アトム』などのアニメも、口だけ動かし、他は端折ったことで、手抜きだ、貧乏くさい画面だとアメリカに椰楡されましたが、端折る動きや線が、逆にリアルに縛られず、キャラクターの自由なデザイン性や自在な動きを作っていったわけです。持っていないものを嘆くよりも工夫するところから発展してきたのが、日本の漫画・アニメだったと思います」


幼少時から漫画や図鑑、小説、歴史、ノンフィクションなどに至るまで読み漁ってきた人だ。表現の多様化、ポーダレス化が進む今、モノ作りする者たちが求められるもの、学ぶべきことを聞いてみると「一番大切なのは、『好き』という気持ちです。自分には向いていなかった、才能がないと、言い訳したくなるときもありますよね。でも、『好き』だけで才能なんです。あとは努力しかない。才能があるかないかなんて、誰にもわからない。まして自分で決められることではないと思います。才能がなかったと思うなら『思ったほど好きじゃなかった』のです。好きは理屈ではないですし、好きなことを一生懸命できない人が、好きじゃないことなんてやれるはずがないですよ」


また好きな気持ちを育てるためには、「同じ夢を持つ人たちと一緒に学ぶ」環境も重要だと語る。


「同じ夢を持つ人たちと交流することで刺激になりますし、いろんな見方があるという多様性、バラエティに気づきます。自分の幅がいかに狭いかを知るためにも、他の人がどんな表現をするのかを知ることはとても大事なことなんです」


これからの時代に、必要なことはなんだろう、と問うと「デジタルスキルを磨くこと」「食わず嫌いをやめること」と答えがあった。
「これからの漫画家は、デジタルスキルはどうしても必要です。その上で、自分も磨く。漫画家になりたいからといって、漫画ばかり読んでいてはダメ。漫画でもアニメ、ゲームでも、その分野で何かを作るということは、職人になることではなく、『クリエイター』になることです。何かを成し遂げたいのであれば、その分野の気に入ったモノを2つ3つ触れれば十分。それよりも現在までスタンダードとして残っているものには、本質があるわけですから、世界の古典文学くらいは読んでおくべき。また、自分の興味のあることだけ追っていくと、どうしても狭くなってしまいますから、まずは1日分だけでも新聞を隅から隅まで読んでみること。いかに世の中が、様々なドラマで溢れているか、そしていかに自分が何も知らないかがわかるはずです」

●里中満智子(さとなかまちこ)

1948年、大阪府生まれ。マンガ家。漫画の神様・手塚治虫の作品に魅了され、16歳で発表した漫画『ピアの肖像』で講談社新人漫画賞を受賞しデビュー。その後、『アリエスの乙女たち』『あすなろ坂』『天上の虹』などのヒット作を生み出し、日本の少女漫画界を代表する作家に。現在は大阪芸術大学キャラクター造形学科長として、後進の育成に力を入れる。