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2021年秋、大阪に新しい白亜の城が生まれた。童話シンデレラや白雪姫、手塚治虫が生み出したサファイア姫、最近のディズニーアニメ「アナと雪の女王」… そう、城こそ、古今東西の人間の長い歴史の中で、豊かな物語を生み出す宝庫であり間違いなく、人とは何か?を見つめ、語られる場所であり続けてきた。そこには、幾多の夢が生まれ、希望が語られ、幾多の恋が咲き、愛がつぶやかれた。ときには、挫折があり、嫉妬や虚栄心という自問があり、諍いを勝ち残る姫たちの物語もあった。21世紀に大阪芸術大学のキャンパスに生まれた城は、キャラクター造形学科の校舎である。まさに人間を見つめ、人間を語るエンターテインメントを生み出す才能を育む城として生まれたのだ。これから10年、100年。この城は、何を物語っていくのだろう。株式会社海洋堂取締役専務・宮脇修一氏に、これから、この城が育てる未来への可能性と、夢の行き先を聞いてみた。
Photograph: Kazuyoshi Usui
Text: Mika Nakamura
国内フィギュア制作のパイオニアにして最大手であり、近年のホビー(フィギュア)業界の方向性を激変させた造形集団・海洋堂。同社の取締役専務でありながら、大阪芸術大学キャラクター造形学科の教授、吉本興業の所属タレント、世界最大の造形の祭典「ワンダーフェスティバル」実行委員長など、さまざまな立場からフィギュア界を牽引している“センム”こと宮脇修一。フィギュア界のエヴァンジェリストとして精力的な活動を続ける彼が見据える、フィギュアの未来とは何か?
「2022年は、海洋堂がフィギュアビジネスをはじめて40周年となります。僕らが商売を始めた頃は『いい大人がおもちゃに夢中になって』と、冷めた視線を世間から送られていました。1999年のチョコレート菓子『チョコエッグ』についた玩具の大ヒットをきっかけに、フィギュアに対する認知度も高まってきましたが、まだまだです。さらに評価を高めるには、これからの歴史が必要。『まだまだ満足なんかできるか!』って感じですね」
目の肥えたファンをも唸らせるクオリティのフィギュアの生みの親でもあるのが、原型師と呼ばれるクリエイターだ。「綺羅星のように輝く天才がひしめき合う漫画、アニメ業界と異なり、フィギュア業界はまだまだ分母の少ない世界です。今なら、才能さえあれば注目も浴びるし、成功への道も見えやすい。SNSが発達し、すぐに作品を発表できて評価される時代。素晴らしい才能との出会いがあれば、すぐに海洋堂で仕事して欲しいと、常々思っています。
また、CGソフトと3Dプリンタを使用する造形スタイルが登場したことで、新次元の作品を生み出す作家が頭角を現してきています。実際のプラモデルは組めない、色も塗れない。けれどもコンピュータソフトの上では、ものすごいモデルを作り上げることができるという、ニュータイプが現れている。世界で活躍するアーティストとの垣根もだんだんなくなっている感じがします。やっとフィギュアの置かれている地位も大きく変化しているのは実感しますね。本当に、今、そしてこれからが面白い状況です。とは言え、BOMEや木下隆志、松村しのぶといった日本のフィギュア業界を牽引した弊社のベテラン造形作家は、まだまだ現役。彼ら、そしてこれから活躍する新時代のクリエイターのためにも、フィギュアの魅力を発信しつづけて行きたいですね」
●宮脇修一(みやわきしゅういち)
1957年生まれ。株式会社海洋堂取締役専務(愛称:センム)。大阪芸術大学キャラクター造形学科教授。世界最大の造形の祭典「ワンダーフェスティバル」主催(実行委員長)。海洋堂創設者宮脇修の実子。2000年頃に食玩ブームを巻き起こし、フィギュアという言葉を一般層に広げた。著書に『造形集団 海洋堂の発想』(光文社)、『「好きなこと」だけで生きぬく力』(WAVE出版)がある。