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2021年秋、大阪に新しい白亜の城が生まれた。童話シンデレラや白雪姫、手塚治虫が生み出したサファイア姫、最近のディズニーアニメ「アナと雪の女王」… そう、城こそ、古今東西の人間の長い歴史の中で、豊かな物語を生み出す宝庫であり間違いなく、人とは何か?を見つめ、語られる場所であり続けてきた。そこには、幾多の夢が生まれ、希望が語られ、幾多の恋が咲き、愛がつぶやかれた。ときには、挫折があり、嫉妬や虚栄心という自問があり、諍いを勝ち残る姫たちの物語もあった。21世紀に大阪芸術大学のキャンパスに生まれた城は、キャラクター造形学科の校舎である。まさに人間を見つめ、人間を語るエンターテインメントを生み出す才能を育む城として生まれたのだ。これから10年、100年。この城は、何を物語っていくのだろう。アニメーション監督・桑原智氏に、これから、この城が育てる未来への可能性と、夢の行き先を聞いてみた。
Photograph: Kazuyoshi Usui
Text: Shinobu Tanaka
デジタル技術の躍進により、最近の表現においてできることは格段に増えている。だが、アニメーションという作品作りの根幹部分は変わらないと語る。
「新しい技術で表現方法は変わっても、キャラクターを表現するという意味ではそれほどの変化はない。アニメに心が動かされるのは、キャラクターに感情移入ができるから。ゆえに、キャラクターの内面の表現こそ大切にすべきポイントであることは、今も昔もそしてこれからも変わらないと思います」自身も含め、クリエイターはアニメーションでの映像表現の限界を探り続けていると解説する。
「作品を観てくれる第三者を思って作るからこそ、それが生き甲斐になったり、使命感や責任感が出てくるもの。不思議なもので、作品にはその人の内面性が出てしまう。いい加減に作ればいい加減さは出るし、情熱が高ければ観る価値があると認められる。自分の内面を見透かされるのもすごく怖いけれど、とてもやりがいのある仕事です」
ただし、アニメは日本が世界に誇るカルチャーでありながら、その現場の人手不足は深刻だ。
「アニメ業界は働く場所として、決して良いとは言えないイメージが一般的に定着しています。今のままでは制作現場に興味を持ってもらうことすら難しい。だからこそ、未来を担う人たちが夢と希望を持って足を踏み入れられるような現場に近づけられるよう、改革していきたい気持ちを強く持っています。それがこの業界に身を置いてきた自分がこれからやるぺきことと考えています」
技術が進歩しても人間が作っていることを忘れてはいけないと強調する。
「どれだけ素晴らしい技術が生まれても、それを操るのは人間。作品が完成するたびに、出来上がった瞬間から後悔が過り、完璧な作品にはなかなか辿り着けない。でも、それこそがアニメーション制作の醍醐味。次の作品が自分自身のナンバーワンになれるよう、作り続けていくことがクリエイターとしての生き甲斐だと感じ、この年齢になっても、楽しみながらもがき続けています」
●桑原智(くわばらさとし)
アニメーション監督。大阪芸術大学キャラクター造形学科客員教授。手塚プロダクションに入社後、髙橋良輔監督と出会い師事。以降、『遊☆戯☆王』シリーズや『五等分の花嫁』などのヒット作を手掛ける。