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2021年秋、大阪に新しい白亜の城が生まれた。童話シンデレラや白雪姫、手塚治虫が生み出したサファイア姫、最近のディズニーアニメ「アナと雪の女王」… そう、城こそ、古今東西の人間の長い歴史の中で、豊かな物語を生み出す宝庫であり間違いなく、人とは何か?を見つめ、語られる場所であり続けてきた。そこには、幾多の夢が生まれ、希望が語られ、幾多の恋が咲き、愛がつぶやかれた。ときには、挫折があり、嫉妬や虚栄心という自問があり、諍いを勝ち残る姫たちの物語もあった。21世紀に大阪芸術大学のキャンパスに生まれた城は、キャラクター造形学科の校舎である。まさに人間を見つめ、人間を語るエンターテインメントを生み出す才能を育む城として生まれたのだ。これから10年、100年。この城は、何を物語っていくのだろう。ゲームデザイナー・上田文人氏に、これから、この城が育てる未来への可能性と、夢の行き先を聞いてみた。
Photograph: Akira Kitajima
Text: Shinobu Tanaka
ゲーム業界に身を置き感じているのは2つの大きな変化だ。
「ゲームグラフィックとゲーム産業そのもの、この2つに大きな変化があったと感じています。僕が学生だった頃のゲームは2Dが主流で、表現する先としてもそれほどメジャーなものではありませんでした。やがて3Dが主流になり、さまざまな業界の人が参画することで、産業として映画や音楽よりも大きな市場を得ることができました。いまや、かつてはゲーム業界とは無縁であったGoogleやAmazonといった大手企業が参入する状況になっており、ゲームがごくあたりまえの存在になったことはとても大きい変化だと実感しています」ゲーム制作は映画以上とも言える時間のかかるクリエイティブワークだ。プレイする側の時間を多く使わせるものでもある。だからこそ、強く思い続けていることがあるという。
「目指すのは暇つぶしじゃない作品を作ること。僕の作品を心から楽しみにして遊んでもらえるよう、クオリティはもちろん、リアリティもある程度以上に作り込む必要があると考えています。制作には3、4年費やすことも当たり前。自分の人生のそれだけの時間を割くからには、それに見合った価値のあるものにしたい。時間がかかるからこそ時代の影響を受けないものをめざして取り組んでいます」
ピジネスの環境も変化している。この15年ほどで海外のゲーム業界の水準上昇を実感し、勝つための“厳選”が常に脳裏にあるという。
「海外では投資額や制作規模が大きく、ゲーム制作に対するバックアップ体制も整っています。開発そのものやノウハウの言語化が昔からとても上手い。そういった蓄積が大規模開発にはとても有効に機能するんです。日本の場合はどうしても属人性が高くなってしまいがちで、規模が大きくなったときの障壁があるのではないかと思います」
生まれた時から3Dゲームが身近にある若い世代が作り出す、新しいゲームに可能性を感じつつも、自身が生み出す作品との違いにも触れた。
「映画も音楽も漫画も小説も、記録したものを再生するメディア。ピデオゲームはプログラムで動くものなので、そういった「記録芸術」とは異なります。僕の中では、ライブやスポーツに近いイメージです。生まれた瞬間から記録芸術ではないものに触れて育った世代が作り出す作品には、僕とは違う感性を持ったものになる“可能性”を感じています」
●上田文人(うえだふみと)
ゲームデザイナー。1970年兵庫県生まれ。大阪芸術大学美術学科卒業後、コンピュータグラフィックのスキルを独学で学ぶ。代表作は『ICO』、『ワンダと巨像』、『人喰いの大鷲トリコ』。いずれの作品も国内外で高い評価を受けている。現在は新規タイトルを鋭意制作中。