大阪芸大と映像業界のプロがタッグを組んで、テレビドラマや映画を制作する産学協同プロジェクト。11作目となる今回は、学生がシナリオを担当。大阪芸大卒業生で客員教授を務め、多数の映画賞を受賞する熊切和嘉先生ら実力派の監督がメガホンを取って、3つの作品によるオムニバス映画『メイソウ家族(仮)』を制作します。2025年の公開に向け、撮影が順調に進んでいます。
映像学科では、映画会社やテレビ局と連携する産学協同プロジェクトとして、映像のプロスタッフである教員と学生が力を合わせ、一般向けの映像作品を制作。これまでに8本の連続テレビドラマと2本の映画を手がけ、高い実績を積んできました。11作目を数える今回の企画では、日本アカデミー賞優秀監督賞をはじめ数々の受賞歴を誇る映像学科長の田中光敏先生が制作統括を担当。熊切和嘉先生と金田敬先生が監督を務め、新たな劇場映画制作に取り組んでいます。
今回は新たな試みとして、これまで映像学科のシナリオの授業で書かれてきた学生作品の中から優れた3本の作品をセレクトし、在学生が脚色。1本目の『YUI』と3本目の『UMI』は熊切和嘉先生、2本目の『モノス』は金田敬先生の監督のもと、3つの短編がリンクするオムニバス映画として制作することとなりました。
プロジェクトに参加した学生たちは、演出・撮影・照明・録音・美術・衣装・記録・制作・進行など、映画を支える様々なセクションに分かれ、それぞれプロとして活躍する映像学科教員の指導を受けながら、現場での仕事の流れを体感していきます。
2023年11月、熊切和嘉先生が監督を務める『UMI』の撮影がスタート。女子中学生と教師とのふれあいを描いた作品で、廃校になった小学校など様々な場所でロケーション撮影が行われました。セットの作り込みや小道具の配置、照明やカメラの調整など、各部門のスタッフが総力をあげ、ワンシーンごとにチェックを繰り返しながら、監督のOKが出るまで何度も撮影。学生スタッフがエキストラとして出演する場面もあり、演者としても貴重な経験を積みました。
約1カ月後には、4人家族の人間模様を描く『YUI』がクランクイン。総合体育館のガラス張りのスペースを父親の勤務先に見立てるなど、学内外でのロケが順調に進み、最終日には、大型セットを組んで人工的に雨を降らせるシーンを撮影しました。作品の要となる重要な場面で、何度も撮り直しができないため現場にも緊張感が漂います。学生たちもしっかりと集中。スタッフ・キャストが一丸となってのぞみ、無事にクランクアップを迎えました。
2024年2月には、金田敬先生のもとで『モノス』の撮影を実施。それぞれにテイストの異なる3つの物語がつながるオムニバス映画『メイソウ家族(仮)』は、2025年5月に公開予定です。ぜひご期待ください!
この産学協同プロジェクトは、学生時代の恩師である中島貞夫先生(元映像学科長)が始めたものと聞き、僕自身も力が入って、脚本制作からじっくりと関わらせてもらいました。担当した2本のうち、『UMI』はシンプルで映画的な初恋の物語、『YUI』はブラックユーモアのあるホームドラマと両極端な作品。前者は抑制した大人の感覚で丁寧に、後者はかなり突き抜けた感じで撮影しており、自分のフィルモグラフィにある2タイプの作風を象徴していると言えるかもしれません。 映像学科長の田中光敏先生をはじめ大阪芸大関係者も多数出演していますが、どの役柄もキャラクターとしてきちんと存在するよう意識して撮りました。せっかく劇場公開するのですから、関係者だけでなく、ふらりと見にきた方にも面白いと思ってもらえたら嬉しいですね。 学生たちと一緒に制作するのは今回が初めて。特に演出部の学生との接点が多かったのですが、みんな真面目に取り組んでくれ、日に日に成長していくのが頼もしかったです。撮影には色々なスタイルがありますが、事前にできるだけコンテを出すのが僕のやり方。それが現場で生身の俳優によってどう変わっていくのか、学生スタッフにも体感してもらえたのではないでしょうか。ただしそれを鵜呑みにせず、良いと思った所は取り入れ、反面教師にもしてほしい。今の時代、もっと軽やかに自分らしく撮る人もたくさんいるでしょうから。 そして、撮影だけでなく、脚本や編集も大事な「映画づくり」であることも知ってほしいですね。映画は編集で完成するもので、バラバラに撮った映像を編集して並び替えると、別の時間の流れが立ち上がる。そんな「映画が生まれる瞬間」にも触れてもらえたらと思います。 僕は、シナリオの書き方やフィルムの装填をはじめ、映画制作の基本はすべて大阪芸大で教わりました。学生時代の出会いも大きく、今も一緒に仕事をしている仲間も多い。昔の撮影所のような活気のある雰囲気の中で切磋琢磨した当時の記憶は、今も鮮明に残っています。 ある意味で外の世界から隔絶された大阪芸大は、やりたいことに集中できる特殊な環境です。ここで過ごす4年間は「映画に狂える」時期ですから、とことんのめりこんでほしい。本当に夢中になれることに出会えると、とても充実した人生を過ごせるはずです。
私は『UMI』の脚色を担当しました。これまでオリジナルしか書いたことがなく、卒業生の脚本をアレンジするのは難しかったけれど、熊切和嘉先生とやり取りしながら細かく指導していただいて、すごく貴重な経験ができました。3作の中でも『UMI』は変更が多く、先生と自分の描くイメージのすり合わせに悩むことも。時には私の提案を「こっちの方がいいね」と採用してもらえる場面もあって、とてもやりがいのある挑戦でした。先生の作品の中でも私の好きな『658km、陽子の旅』のように、絵がきれいで繊細な作品になりそうで、完成が本当に楽しみです。 当初は脚本だけの予定でしたが、在学中にこんな大規模なプロジェクトに関われるのは二度とない機会なので、美術部スタッフとして撮影にも参加。現場ならではの空気感を味わい、時には失敗したり叱られたりしながら実践的に学べて、大きな糧になったと思います。各部署のチームワークの大切さとともに、映画は総合芸術なのだとあらためて実感。監督の気持ちや気遣いが伝わるコミュニケーションの取り方も、とても勉強になりました。 私は映画監督をめざして映像学科に入学したのですが、脚本がやりたいと気づいて途中で方向転換。脚本の山田耕大先生の親身なご指導には感謝でいっぱいです。また今回の現場では、美術担当の宇山隆之先生から、長年培われた知識や技術を惜しみなく伝授していただきました。映画を心から愛するプロの先生方が情熱をもって教えてくれるのが、映像学科の一番の魅力。やる気を持って積極的に参加すれば、先生方や仲間が引っ張ってくれます。このプロジェクトで得たものをいかして、脚本家という目標にチャレンジし、ずっと映画の世界に関わり続けたいと思っています。
将来は映画監督や演技指導の仕事を志望している僕は、演出部の一員としてプロジェクトに参加しました。撮影準備から後片付けまでやることがとても多い部署で、はじめは思うように動けず、経験や力量不足を痛感。体力的にもハードでしたが、めげずに頑張り続けるうちに、少しずつ要領をつかめるようになりました。人にまかせることが苦手という自分の壁を克服し、仲間と力を合わせたからこそ乗り越えられたと思います。撮影後には熊切和嘉先生が「頼れるリーダー的存在」と言ってくださったと聞いて、本当に嬉しかったです。 現場では「プロってすごい」と驚くことばかり。監督の様子を間近で見て、臨機応変な対応やスタッフへの信頼、徹底したこだわり、判断力の確かさなど、日々圧倒され、発見の連続でした。今回はスタッフがエキストラを務めた場面が多く、僕も『UMI』で中学生役を演じたのですが、監督に指導していただき、エキストラの演技づけで場面がさらに生きてくることも学べました。これまで大学の授業や自主企画で監督を務めた経験はあるものの、劇場公開作品に参加するのは初めて。自分が関わった映像や名前のクレジットを映画館で大勢の人に見てもらえるのが待ち遠しいです。 映像学科を選んだのは、高校生の時に対人関係で悩み、映画やドラマを通じて同じような悩みを抱える人とつながりたいと考えたのがきっかけ。入学してから本音で何でも言い合える仲間ができ、彼らと一緒に映画を作りたいという思いが強くなりました。芸大は、変人であればあるほどそれが強みになる場所です。たとえ人から笑われそうな夢や趣味でもあきらめず、思い切って飛び込めば、きっと本当の自分を認めてくれる仲間に出会えますよ。