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2021年11月28日、兵庫県立芸術文化センターにおいて「声優学概論 声優進化論2 —未来に繋ぐものー」が開催されました。
「声優学概論」は、放送学科声優コースと短期大学部 メディア・芸術学科声優コースの学びの集大成ともいえる晴れの舞台で、今回で第10回目を迎えます。学生たちが学びの成果を発揮する第1部のステージと、声優界で活躍するスター教員や卒業生による第2部のシンポジウムで構成されており、声優コースのパワフルな魅力を堪能できるイベントです。真摯で情熱的な「声」への思いが会場いっぱいにあふれ、演目ごとに観客の方々から惜しみない拍手が送られました。
第1部は、『外郎(ういろう)売り』(指導:放送学科 伊倉一恵客員教授)の群読で幕が開きました。アナウンサーや俳優が滑舌や発声の鍛錬に使うことで有名な演目で、薬売りが薬について滔々と講じる長台詞が特徴です。難解な早口言葉も飛び出し、一瞬の隙も許さない緊張感に満ちたステージ。リズミカルで力強い展開、キレの良い言葉、若々しいエネルギーで会場を魅了し、自分たちで考案した創作パフォーマンスを交えながら、声と身体で「外郎売り」の世界を見事に表現しました。
続いて、短期大学部 メディア・芸術学科声優コースの学生たちによる『えんとつ町のプペル』(作:西野亮廣 演出:メディア芸術学科 西原久美子先生)、放送学科声優コース3年生たちによる『古事記』(脚色演出:放送学科 佐藤正治先生)、『透明人間』(作:H・G・ウェルズ 脚本・構成・演技指導:放送学科 平野正人客員教授)の3つの朗読劇を上演。
人気絵本で映画にもなったプペルの物語では、台詞の1つ1つに感情をのせ、ゴミ人間と少年の友情を伝えます。童話の世界に引き込まれ、クライマックスのシーンでは会場からすすり泣きが聞こえてきました。
日本最古の書物である『古事記』をアレンジした朗読劇では、稗田阿礼の語りとスクリーンのイラストが一体となり、神話の世界へと観客を誘います。悠久の時代を表現するという難しい演目ですが、凛とした声音に学生たちの理解の深さが伺えました。
『透明人間』は、声だけでなく全身の表現力も要求されるアクティブな演目。一人ひとりが役になり切って、スリリングなSFの古典に挑みました。
衣装選びや楽曲選び、映像編集などいたるところで自分たちの想いを込め、心を1つにして演じ切った朗読劇。あたたかな拍手に包まれて、会場には学生たちの「やりきった感」が充満していました。
第1部の最後は毎回会場を沸き立たせる人気のアテレコ実習です。オーディションで選ばれた放送学科声優コースの3年生たちが「金田一少年の事件簿R〜獄門塾殺人事件〜」(c天樹征丸・さとうふみや・講談社/読売テレビ・東映アニメーション)のダイジェスト版のアテレコ(指導:放送学科 松野太紀客員教授)に挑戦しました。
実技指導に力を入れる放送学科声優コースにおいて、アテレコは学生の実力が問われる正念場。登場人物の口の動きと数秒でも違えば、ストーリーのリズムが崩れます。また喜怒哀楽を声だけでリアルに表現しなくてはなりません。スクリーンのアニメを見ながら、プロの声優さながらの動きで、学生が次々とセリフを当てていきます、テレビや映画で金田一一役を演じている松野先生の実践的な指導により、熱のこもった練習を続けてきた学生たち。本番では息の合ったチームワークで、場面に応じてさまざまな声を使い分け、緊迫した推理ドラマの魅力を存分に伝えました。
第2部に登場するのは、日本のトップ声優として幅広いメディアで活躍している教員たちと豪華なゲスト声優、若手声優として邁進している声優コースの卒業生たちです。
卒業生は清水健佑さん、三野雄大さん、篠塚理子さん。声優アイドルグループの活動やゲームのキャラクターなど、現在の仕事について元気に語ってくれました。
そしていよいよ花形声優たちによる待望のシンポジウムがスタート。司会進行役を務めるのは杉山佳寿子先生(アルプスの少女ハイジ/ハイジ役など)です。パネリストは真地勇志先生(秘密のケンミンSHOW極/ナレーションなど)、伊倉一恵先生(CITY HUNTER/槇村香役など)、松野太紀先生(金田一少年の事件簿R/金田一一役など)、渡辺菜生子先生(ちびまる子ちゃん/たまちゃん役など)の放送学科の教員に、ゲストの大場真人さん(ONE PIECE/ナレーションなど)が加わるという豪華なメンバー。それぞれがキャラクターの声色であいさつすると、会場がワッと盛り上がり、割れんばかりの拍手が響きます。
AIのめざましい進歩、合成音声が普及する中で、初音ミクのようなボーカロイドも定着し、有名歌手の声そのままにAIが歌う時代。生の人間が生み出す声の必要性とは?……今回のシンポジウムは声優の「進化」と「未来」についてのトークです。まずコロナ禍の「声」の現場の状況を、一人ひとりが報告。人が密になってはいけない状況は、声優にとっての危機だと話します。さらに「合成音声のモトになる声の仕事を経験しました」と語る真地先生や、「機械のような音声を依頼されたことがあります」という松野先生のエピソードには、肉声と機械音の境界線が曖昧になっていることが伺えました。「声優にとってAIは強敵」という状況に、杉山先生は「私たちは相手の息づかいを感じ、相手の気持ちを受け取って言葉を発するけど、機械にはできない。決められたことしかできません。発音も不自然で、抑揚が少なく一方的」ときっぱり。パネリスト一同、心が通じ合うことが声優の強みであると改めて認識しました。
真剣に語り合ったあとは、舞台上の教員や卒業生たちがぶっつけ本番で役に挑むサプライズショートストーリーを上演。その場で受け取ったオリジナルの台本を即興で演じるという、まさにサプライズな企画です。杉山先生のハイジをはじめ、おなじみのキャラクターたちがいろんなスポーツに挑戦するというお話で、どんな展開になるかは誰にもわかりません。そんな緊張感の中でも抜群のノリの良さを発揮し、笑いあり、アドリブあり、掛け合いありでスイスイと進めていく様子はまさにプロフェッショナル。実際のアニメではありえない夢の共演に大きな拍手が鳴り響きました。
そして全員が舞台へ集まり、感動のフィナーレへ。兵庫県立芸術文化センターというすばらしい会場でのかけがえのない体験は、学生一人ひとりの将来に向けて大きなステップになることでしょう。見守る教員たちのあたたかな眼差しも印象的でした。
『声優学概論』の特徴は、振り付けや衣装、構成なども学生たちが主体となって作り上げていくこと。だから現役生の時は“むちゃくちゃ大変!”という印象でした。練習の時に学生同士で劇の解釈や演じ方について議論したり、振り付けを考えたり…時には意見が衝突することも。こうして内容をブラッシュアップして、作品を完成させていく訳です。でも声優になった今では、そのハードな体験がいかに大切かを実感しますね。すべて声優の夢を叶えるためのトレーニングなんですよ。ぼくはあの時に「頑張ろう!」と思ったことで、プロの道に進むことができました。大ホール公演を経験させてくれた大阪芸大に感謝しています。
『外郎売り』のパフォーマンスに加え、『透明人間』ではケンプ博士役、『金田一少年の事件簿R』では塾生の中屋敷学役を担当しました。初めての大ホール公演で、幕が開くまでは不安でいっぱい…ところが本番で照明が当たった瞬間に、舞台特有のライブな空気感に包まれ、会場と一体になったと感じました。絶対に失敗できない緊張感の中で、お客さまに「声」をお届けできたことがうれしい!声優のおもしろさとともに奥の深さを実感しました。
群読『外郎売り』と『透明人間』の主人公の元婚約者エミリーを演じました。エミリーの役作りに悩み、特に泣くシーンでは感情がついていかず本番ギリギリまで模索しました。平野先生には授業外の自主稽古でもご指導いただき、とても感謝しています。一般のお客さまの前で演じる機会は貴重です。舞台上でどれほど自分が冷静でいられるか、身をもって知ることができました。本番ではあまり緊張せず、舞台ならではの空気を思いきり楽しめました。