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声優学概論 声はパワー!! 声優学概論 声はパワー!!

放送学科
2023/05/01

2023年1月22日、兵庫県立芸術文化ホールにて「声優学概論 声はパワー!!」が開催されました。

 放送学科声優コースと短期大学部 メディア・芸術学科声優コースの学生たちにとって、学びの総決算ともいえる大舞台。第1部のステージでは、ダンスや朗読劇など、さまざまな演目で学生たちのパフォーマンスが繰り広げられました。第2部では、教員のほか、声優として活躍する卒業生を交えたシンポジウムが開かれ、仕事に対する心構えや裏話をたっぷりと披露。約3時間にわたる充実のプログラムとなり、訪れた観客にとっても声優という仕事の奥深さを知る貴重なひとときとなりました。

演劇要素も取り入れた
エネルギッシュなパフォーマンス

第1部のオープニングを飾ったのは、恒例となっている『外郎売り』(指導/伊倉一恵先生)の群読。歌舞伎十八番の一つで、アナウンサーの滑舌訓練にも使用されており、声を職業にする人にとっては必須ともいえる演目です。今回は大幅なアレンジが加えられ、長尺な薬売りの口上がアグレッシブなダンスやヒップホップ調のリズムに乗せて表現されました。チームごとに分かれた学生たちが入れ代わり立ち代わりステージに現れる展開が目を引き、幕開けにふさわしい気迫あふれるパフォーマンスで一気に会場をヒートアップさせました。

『「あらしのよるに」より』では、暗闇の中、お互いの素性を知らずに友人になったヤギとオオカミの心の交流や葛藤が描かれる。

続く朗読劇のコーナーでは、『「あらしのよるに」より』(演出/西原久美子)、『悟空参上!』(脚色・演出/田中亮一)、『ネネムとブドリの伝記』(脚本・構成・演技指導/平野正人)の3本を上演。

『「あらしのよるに」より』では、短期大学部 メディア・芸術学科声優コースの学生たちが、きむらゆういち原作の絵本シリーズから、ヤギとオオカミの種族を越えた友情という名場面を情熱的に演じ、感動の涙を誘いました。

『悟空参上!』では、自由奔放な孫悟空と、それを諌める三蔵法師、どこか憎めない猪八戒の掛け合いが観客を楽しませた。

『悟空参上!』は、中国の旅物語『西遊記』から、序盤部分を抜粋。傍若無人な孫悟空が釈迦如来によって五行山に監禁され、500年後に三蔵法師玄奘と邂逅。弟子として行動を共にし、もうひとりの弟子となる猪八戒と出会うまでを描いています。日本でも人気の高い作品だけに学生たちも自分なりの解釈で個性を発揮。衣装や武器でそれぞれのキャラクターに扮し、殺陣も見せるなどエンタメ要素満載の一幕となりました。

『ネネムとブドリの伝記』では、孤児からばけもの世界の裁判長に出世したネネムが、ふとしたことから人間世界に送られ、火山噴火の危機に立ち向かう

『ネネムとブドリの伝記』は、宮沢賢治の小説『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』と、それを改変することで生まれた『グスコーブドリの伝記』の2作品が並行世界の物語であると解釈し、一つの作品として融合。ばけもの世界の裁判長・ネネムと人間世界の火山技師であるブドリという、本来、相容れることがない主人公同士が共演する実験的な試みが行われました。賢治作品の独特な世界観がユーモラスかつドラマチックに表現され、個性的なキャラクターたちの扮装も舞台を彩りました。

松野太紀先生の指導による
プロフェッショナルなアテレコ実習

続いての演目は、こちらも恒例となっている『アテレコ実習』(指導/松野太紀)。松野太紀先生が主演を務める『金田一少年の事件簿R〜獄門塾殺人事件〜』(c天樹征丸・さとうふみや・講談社/読売テレビ・東映アニメーション)のダイジェスト版を題材に、オーディションで選ばれた3年生がアテレコに挑戦しました。事件解決に至るクライマックスで、状況説明やトリックの解説、容疑者の独白など緊張感の高い場面が続き、学生たちも熱のこもった演技で登場人物の情感を表現しました。アニメーションの動きに合わせて的確に声を当てるという高等技術を要するアテレコ。オーディションを勝ち抜いて参加した学生たちは、松野先生の指導で鍛え上げられた実力を存分に発揮していました。

歴戦のベテランたちが語る
アニメ・声優業界の制作エピソード

第2部では伊倉一恵先生が司会を務め、プロの声優として活躍する教員たちによる『花形声優のシンポジウム』を開催。真地勇志先生(秘密のケンミンSHOW極/ナレーションなど)、松野太紀先生(金田一少年の事件簿R/金田一一役など)、渡辺菜生子先生(ちびまる子ちゃん/たまちゃん役など)、大場真人先生(ONE PIECE/ナレーションなど)に加え、放送学科声優コース、短期大学部メディア・芸術学科声優コースのOB・OGから、若手声優として注目を集める祖山桃子さん、三野雄大さん、奥谷楓さんもパネリストとして参加しました。それぞれが担当するキャラクターの声で挨拶すると、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

今回は特別ゲストとして『名探偵コナン』や『シティーハンター』など、数々の名作アニメを世に送り出してきたプロデューサーで、芸術計画学科の客員教授でもある諏訪道彦先生が登壇。37年間にわたってアニメの現場に携わってきた諏訪先生への質問を中心に、アニメ・声優業界に関する貴重なエピソードが次々と披露されました。

冒頭から「オーディションで選ばれる決め手は?」という核心を付く質問が飛び出し、諏訪先生も「いきなりヘビーだね!(笑)」と驚かれていましたが、審査の基準を丁寧に解説。原作のイメージをはみ出たところに注目要素があるという言葉には、パネリストから感嘆の声が上がっていました。松野先生が『金田一少年の事件簿』、伊倉先生が『シティーハンター』のオーディションを受けた時の思い出話にも花が咲きました。

「これからの声優に求められるものは?」という質問に対しては、実写の映画・ドラマに声優のキャスティングが増えてきた現状をふまえ、「今後は俳優と同じような立場になっていくのでは」という諏訪先生の持論を展開。さらに「制作担当者との会話の中で、自分の志向や特性をはっきり示すことが仕事に繋がっていく。オールマイティーは求められていない」と解説し、若手声優チームも身を乗り出して聞き入っていました。

 「今後のアニメ界はどうなる?」という質問では、現在、多チャンネル化でアニメ作品の本数が大幅に増えていることや、それゆえに個々の声優の活躍に注目が集まりにくいことについて、さまざまな意見が飛び交いました。また、1980年代のアニメがリメイクで注目を集めている現状については、「作品をリアルタイムで見ていた世代が40〜50代となって、制作を担う立場となってきた」という状況を説明。伊倉先生も自身の出演作がリメイクされる現場で、スタッフ陣から「子どもの頃に見ていました!」と声をかけられたことについて感慨深い思いであったと話していました。

エンディングでは、パネリストたちが本イベントの感想や仕事への想いを語り、渡辺先生からの「これからはチャンスが多い時代!」、松野先生からの「今日の学生たちの成果は、頑張って基礎を積み重ねたから完成したもの。興味がある人は、ぜひオープンキャンパスに!」など、後進を激励する言葉も聞かれました。放送学科の学科長である石川豊子先生からも学生や登壇した教員、来場者への感謝の言葉が述べられ、充実のプログラムを締めくくりました。


声優コースの学生が、築き上げてきた実力を発揮する「声優学概論」。今後もさらに新しい才能が生まれる場として、開催が期待されます。

放送学科 声優コース教授
真地 勇志 先生

声優コースの学生は、1年生での座学を経て、2年生から本格的に声優になるための勉強を始めます。「声優学概論」は、学びの中で実力をつけてきた学生たちにとって、大舞台でパフォーマンスができるというめったにない機会。舞台度胸をつけることができるし、学生時代の思い出にもなるので、非常に意義深いイベントです。
声優コースには、私が所属している青二プロダクションからさまざまな先生が教えに来ており、「優れた声優は優れた俳優でもある」という事務所の理念を授業の中に取り込んでいます。一つの役を演じるにも、実際に舞台に立ってセリフがどんな動きとリンクしているか把握しなければ適切な表現方法が見つかりません。朗読劇でも台本を持たず、衣装を身に着けて動き、芝居の要素を学ぶことが声優をめざす上で必須だと考えています。『外郎売り』も体を駆使しながら早口言葉を話すという難易度の高いパフォーマンスですが、学生たちも楽しみながら演じていますし、毎年、声優学概論の目玉の一つになっています。
声優コースを志望する高校生や、その親御さんからは、「どのような勉強をしておけば良いですか?」とよく聞かれるのですが、私は決まって「喜怒哀楽のある生活を送ってください」と答えています。喜んだり悲しんだり、怒ったりという日常生活で生じる感情をはっきり表現することで俳優としての基礎が身についてきます。あとは一人の世界に閉じこもらず、さまざまな人とコミュニケーションを取って、さまざまな経験をすること。それさえ大事にしていれば大学入学前に特に演技の勉強はしなくていいと思っています。
私自身はアナウンスブースで、マイクの向こう側にいる人たちに、どれだけ楽しんでもらえるかを意識しながら仕事に取り組んでいます。声優コースの学生たちも、自分が楽しみながら、マイクの前に立ち、日々の授業に臨んでもらえればと思っています。

放送学科 声優コース卒業生
祖山 桃子 さん

小学生の頃にとあるアニメのラジオドラマを聞いて、見たことがない作品だったのに光景やシチュエーションが想像でき、そこから声優というお仕事があることを知りました。その後はハリウッド俳優に憧れ、吹き替えの仕事がしたいと思ったことも声優をめざすきっかけになりました。
高校時代は独学で声優の勉強をしていたのですが、入試受付の締め切りギリギリで大阪芸術大学の放送学科に声優コースができたことを知り、受験を決意しました。私は声優コースの1期生として入学したのですが、当時は新設されて間もなかったこともあり、学生たちはみんな、「自分がいちばんおもしろい!」「絶対にプロになってやる!」というエネルギーに満ち溢れていました。最初は、テレビでいつも見ていた人たちから教えてもらえるというミーハーな気持ちもありましたが、先生がたが私たちを一人の役者として見るので浮かれている暇はなく、実力不足の現実を突きつけられる中で、授業やレッスンに必死にくらいついていきました。やる気のある人たちに囲まれて切磋琢磨したことが、今のキャリアに繋がっていると思います。
声優コースの授業でも特に印象に残っているのが、杉山佳寿子先生による、あらゆる感覚や感情を瞬時に呼び起こせるように追体験していく訓練です。杉山先生のメソッド演技の教えは、すべて現在に至るまで仕事に活きています。
「声優学概論」は、私も学生時代に出演した当時と同じ演目もあり懐かしさを感じました。しかし構成や脚本、音楽に衣装までさらにレベルアップしていて、声優コースが新しいことにどんどん挑戦して行く姿勢に期待を感じています。

放送学科 声優コース3年生
上田 翔太 さん

昔からアニメやゲームが大好きで、声優の仕事にも興味を持っていました。高校生の時に大学進学について家族と話して、母の母校である大阪芸術大学に声優の勉強ができる学科があると聞いて声優コースを志望しました。
授業では、「役を演じる時、感情は出すものではなく勝手に出てくるもの」という教えが印象に残っています。一人芝居では事前に演技プランを組んで実践しますが、二人以上の場合、掛け合いになるので、相手が自分の考えていた表現とは違う感情をぶつけてきた場合、それに応えられるよう感情表現の蓋を緩ませ、瞬発力や柔軟性をもって対応することが大切であると学びました。「内的動詞を読み解く」という先生の言葉にも大きな影響を受けました。舞台上ではすべての動き行動に意味が生まれ、そのためには、どういった意味、感情を持ってキャラクターが動くのかをセリフから読み解くかが重要で、今後の自分にとって基礎として生き続けていくかと思います。
今回の「声優学概論」では、大半の作業を自分たちで取り組んだことが印象深かったです。特に『外郎売り』に「和洋ダンスバトル」というコンセプトを持たせ、振り付け、フォーメーションチェンジや音楽、歌詞、衣装などを一からすべて作りました。苦労もありましたが、みんなの魅力を一つにまとめ、1つのゴールに向かう充実感は、何にも代え難い喜びであり、自分達の中でも成長を実感する事が出来たと思います。
将来は歌やダンスなどマルチに活動できる声優をめざし、楽しい時間・空間を作ることに励んでいきたいと思います。

放送学科 声優コース3年生
山本 侑以 さん

中学3年生の頃に進路目標を提出するという課題があり、従姉妹に相談をしたところ「自分が興味を持っていることを学んでみては?」というアドバイスを受けました。それが私にとっては声優とアニメで、当時、大好きだった作品から「声でさまざまな役になることができる、役に命を吹き込むことができる」と感動したことが声優をめざすきっかけになりました。
声優コースに入学して、最初は新型コロナウイルスの感染拡大でほとんどの授業がリモートでした。徐々に対面授業が復活する中で、短い戯曲を通した「言語としての身体表現」に取り組んだことがとても印象に残っています。セリフの内的動詞や、なぜそのような動きをするのかなどを生徒に質問し、答えを導き出させて演技に繋げるという内容で、自分にとって新鮮かつ大きな成長を得るものとなりました。2年生の岩鶴恒義先生の授業で聞いた「優しい人は演技のできる人」という言葉も胸に響いて、その後も先生の聴講に参加させていただいています。
今回の「声優学概論」では、『ネネムとブドリの伝記』『アテレコ実習』『外郎売り』に参加し、緊張しながらもなんとかやり遂げることができました。本番ではセリフを間違えてしまったところもあったのですが、そこで咄嗟に訂正する言葉が出るなど、リカバリーできる力が身に付いていたのは自分でも驚きでした。また、ブドリを演じたことで表現力を増すことができたのも大きな手応えでした。
この1年間、授業や実習を通して、自分は役者ではなく人をサポートすることが性分に合っていると感じるようになりました。将来はマネージャーとしてアニメ・声優業界を支える立場になれたらと思っています。