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人気アニメを手掛ける足立慎吾さんの特別講義 人気アニメを手掛ける足立慎吾さんの特別講義

映像学科 / 特別講義
2023/11/01

2023年7月19日、芸術情報センター地下1階 AVホールにて、大阪芸術大学映像学科卒業の足立慎吾さんによる特別講義が行われました。当日はアニメ業界をめざす学生に加え、足立さんが関わられた『ソードアート・オンライン』や『リコリス・リコイル』のファンの学生も数多く来場。映像学科の金澤洪充先生とヒット作の制作秘話から在学中のエピソード、学生へのアドバイスなど、貴重なお話を披露してくれました。

人気アニメのキャラクター設計図に
会場からはどよめきが

人気アニメの設定資料がモニターに映し出されるなど、業界の第一線で活躍するプロならではの講義

足立さんが「自己紹介がわりに」とモニターに映し出したのは『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』のキャラクター設計図。なかなかお目にかかれない資料に、会場からはどよめきが起こりました。その後も、作画監督やキャラクターデザイン担当が原画をどのように修正していくのか、撮影により映像がどう変わるのか、オープニングの制作過程などを資料映像とともに解説。アニメーターから作画監督、キャラクターデザイン、総監督へと、アニメ制作の最前線を駆け抜けてきた足立さんの生の体験談に、会場の空気が一気に引き締まっていきます。


金澤先生は足立さんの先輩にあたり、在学中にも交流があった旧知の仲。学生時代のさまざまなエピソードも飛び出し、軽快なトークを展開していきます。金澤先生の「絵のルーツは?」との質問に、「子どもの頃はドラえもんばかり描いていて、世界で二番目にドラえもんが上手いと豪語していました」と答える足立さん。金澤「えっ?二番目?」、足立「一番は藤子不二雄先生に決まってるじゃないですか。正確に云うとAとFだから、ボクは三番目か」という問答に会場が笑いの渦に包まれるシーンも。

学生時代から交流のある先輩後輩の間柄とあって、テンポの良いトークが繰り広げられます

お二人の学生時代は映画業界を志望する学生が圧倒的に多かったそう。「自分たちはA5の紙に絵を描いて、パラパラマンガを撮影してアニメーションを作っていました。失敗も多かったけど、とにかくたくさん作った。アニメのオープニングを作るのが苦にならないのは、その時の経験があるからかもしれません」と足立さん。若い頃は、荒削りなものでもたくさん失敗をした方がいいことを実感したそうです。

学生たちからの質問に
真摯な対応で的確にアドバイス

講義後半のQ&Aコーナーでは、多くの学生が挙手。まずは、「ストーリーを見てもらうノベルゲームを作りたいのですが、可能性があると思いますか?」との質問が。足立さんは「自分が作ろうとしているものを、お客さんに見てもらうためには、ターゲットを明確にして糸を垂らさないと商業的には厳しいと思います。例えば、『エヴァンゲリオン』みたいな作品が少ないのではないか?と仮定するならば、かっこいいロボットとかわいい女の子、哲学的な男の子が登場する作品を投げれば絶対にかかるはず!とかね?人がやっていないジャンル、供給が少ないジャンルを探すというのもひとつの手では」と助言してくれました。

ときに学生に対して追加で質問をするなど、真剣に回答をかえす足立さん

続いて「学生時代の自主制作が作品づくりに生かされているとインタビュー記事で読んだのですが、具体的にはどのような点でしょうか?」という質問。足立さんは「アニメって、正直メチャクチャ面倒くさいんですね。1人では絶対できなくて、大勢の人にバトンを渡していく仕事。いろんな人が集まって、試行錯誤しながら1本の作品を作り上げていく楽しさを知ったのが、まさに学生時代の自主制作でした。露光を間違えて、画面が真っ白になったり…。大失敗しても、その失敗した体験自体が面白かったんです。プロになっても、その気持を持ち続けることが大事なのだと思います」と言葉に力をこめます。

映像学科以外からも多数の学生が参加し、熱のこもった質問をなげかけました

ほかにも、美術学科の学生からは「原作もののキャラクターデザインをする際の注意点は?」、舞台芸術学科の学生からは「アニメの音響監督に求められるものは何か?」、キャラクター造形学科の学生からは「『リコリス・リコイル』のキャラクターが初期設定から変わった理由は?」など。映像学科以外の学生からも質問が寄せられ、アニメ業界をめざす学生の多さがうかがえました。

プロになっても一緒に仕事ができる
仲間と出会えるのが大阪芸大の魅力

最後に、「在学中、ボクは特別だったわけではありません。何か大作を残したわけでもないし、賞を受賞した実績もない。仲間とアニメを作って、好きな作品を飽きることなく語り尽くしていた、ごくごく普通の学生でした。ただ、今思うのは、気がつくと大阪芸大の同窓生と一緒に仕事をしてたりするんですよね。ここで出会った人の中には、ゲームをやっている人もいるし、デザイナーになった人もいる。そんな同窓生とする仕事は、10年20年後にプロとしてタッグを組んでも、何者でもなかった学生時代とまったく同じ楽しさが経験できます。そういう仲間を今のうちにたくさん作っておくこと。大阪芸大だから出会える人との親交を、ぜひ大切にしてください」とメッセージをいただき、万雷の拍手のうちに幕をおろしました。

一緒に楽しく作品づくりができる仲間がいかに大切かを教授していただきました
映像学科2年生
木寺 澪笛 さん

私は3年生の制作でアートアニメーションを選択するつもりなので、足立さんの講義にすごく刺激をもらいました。特に、画作りに力を入れている作品が多い中で、『リコリス・リコイル』はシナリオの心地いいテンポを大切にして、主人公たちの会話をリアルに表現したという話しには感動しました。世界観からターゲットを決め、ワールドデザインを模索しながら、キャラクターの深掘りをする。そんな奥深いアニメ制作の世界に仲間入りをして、撮影監督をめざしたいと思います!

映像学科2年生
加藤 朱音 さん

私は3年生で表現映像を選択して、ミュージックビデオを作りたいと思っています。だから、アニメ業界をめざしているわけではないのですが、足立さんの講義でプロとして仕事をするうえで、大切なことをたくさん学べた実感があります。一番印象に残ったのは、自分は学生時代ごく普通の生徒だったというコメントです。私も抜きん出た才能があるとは思っていなかったので、それでも第一線で活躍できるチャンスがあるんだと、とても勇気をもらいました。

映像学科 卒業 足立 慎吾 さん

アニメーターからキャラクターデザイン、
作画監督を経て監督へ

ボクがアニメ業界に入ったのは、正確に言うと自らの意思というわけではありません。学生時代は確かにアニメーションを作っていたし、アニメの技術はとても好きでした。でも、当時は今ほどアニメ人気が高くなく、経済的にも将来的にも不安定というのが一般的な見方で、ボクも仕事にしようとはまったく考えていませんでした。就活は普通にゲームの大手などを狙っていたのですが、なかなかうまくいかなくて…。そんな時に、たまたま先輩から声をかけてもらったことがきっかけです。

ただ、今思い起こすと、ボクにアニメを教えてくれた先輩から聞いた「漫画家、イラストレーター、アニメなど、やりたいことがたくさんあるから、最初の入り口は広く構えられるアニメだ」という言葉が印象に残っていたのかもしれませんが、実際は他の選択肢がなかったという案外消極的な理由で、東京のアニメ制作会社に入社したんですよ?


アニメ制作会社の新人がまず任されるのは、ラフな原画を1本の線に忠実にトレースし、原画と原画の間を埋めていく動画マンの仕事です。原画を描きたいボクにとっては退屈で、面白くなかったのでしょうね。何度も辞めたいと思っていました。動画を経験していて良かったと思うのは、総作画監督をやるようになってからで、若い頃の視野ってのは狭い物だと今は思います。

やっと受けられた原画テストも原画よりは動画マンとしての仕事を理由に落とされてしまった事が限界で、一度退職を願い出てますよ(笑)先輩方の助けがあって、なんとか続けられましたが、今思えば「痛い」ですね。思い通りに行かないスタートの数年を乗り越えられるかどうかが、アニメーターに限らず、「芸の世界」の最初 の関門ではないでしょうか。


動画マンの2年半を何とかクリアしたあと、原画を描かせてもらっていましたが、原画は2重3重にミルフィーユのように修正されてしまうんです。自分の絵でアニメが観たいと思いましたね。修正されないためには、作画監督になるしかないわけです。作画監督になれば、自分の絵がテレビで見られる。「わぁ〜、ヘッタクソだな」と思い知るけど、心が踊るんですね。それを続けていくうちに、今度は自分の設計でアニメが作りたくなる。で、次はキャラクターデザインと、少しずつ職域を広げてきました。ボクの場合は、飽きずにいろいろな仕事に取り組めたことで、結果的に長く続けてこられたのだと思います。

地道な経験の繰り返しが
人を育て、プロへと成長させる

アニメーターからスタートして、キャラクターデザイン〜作画監督〜監督と歩を進めてきた今、ボクが実感しているのは、「世の中には理不尽なことが存在すると認めた時、人は大人になる」ということです。例えば、自分より能力が劣っているのに、調子良く周囲から認められる人がいると、理不尽だと感じますよね。自分は不利益を被っていると腹が立つ。でも、成功している人には、自分が評価する能力とは別の“何か”が必ずあるんです。それは、人柄かもしれないし、社会性かもしれない。自分にとって、どうでもいいと感じていた“何か”が、実は周囲から評価されている事実を認めることが、大人=プロへの第一歩なのだと思います。

アニメーター時代に原画テストで落とされちゃったのは、ボクの社会性が足りなかったから。当時は理不尽だと腹を立てていましたが、今思えば社会性を身に着けていなかったボクが悪い。そんな経験の繰り返しで、今の自分が出来上がっているように思う。学生時代のボクは大勢の人の前で講義なんてできるはずもない至って普通の学生だったし、今とまったくの別人な気がします。始めから、全部持っている人もいるのかもしれないけど、少なくともボクはそうじゃなかったですね。視界を広げ、出会いや経験を多く持つほど、人は成長して目標に近づくものなんじゃないかと思いますよ。


だから、誰にだって可能性はあるし、アニメが好きな大阪芸大の後輩にも、どんどんチャレンジしてほしいと思います。ひとつボクからアドバイスするとすれば、早い段階で失敗させてくれる会社が意外と狙い目だということです。恐らく、有名な会社や憧れの作品を手掛けている会社をめざす人が多いのだと思いますが、「わぁ〜、自分ってヘッタクソやなー」と気づくチャンスこそ本当に得難い経験。自分の描いた絵がテレビや動画配信サービスで実際に見ることができ、自分の実力を客観的に知るチャンスは早ければ早いほどいい。大好きな作品を作ってる会社ってだけじゃなく、のびのびとチャレンジさせてくれる会社であるか?も、ぜひ一度検討してみてください。


それと、あまり頭でっかちになり過ぎず、何でも面白がれる人の方が向いている気がします。これからのアニメ業界はさまざまな面で変化していくはずです。絶対にこれじゃないとダメ!というような頑ななスタンスではなく、小さな仕事の中でも楽しみを見いだせる、他愛なさが必要になってくるかもしれません。まぁ、これは自分のことですが…、やはり仕事は継続してなんぼ。面白い!楽しい!という気持ちを忘れずに取り組んでほしいですね。