2024年7月17日、「作曲家 木下牧子先生による公開レッスン」が大阪芸術大学3号館ホールで開催されました。作曲家として第一線で活躍される木下先生をお招きする特別講義は今回が初めてであり、とても貴重な学びの機会となりました。声楽コースの学部生・大学院生たちが木下先生の楽曲を演奏し、直接指導を受け演奏者として大きな経験となりました。
木下先生は作曲家としてオペラや管弦楽曲、吹奏楽曲、ピアノ曲から声楽作品まで幅広い活動を行っておられます。なかでも合唱コンクールの定番曲「春に」や「おんがく」など枚挙にいとまのない声楽曲は広く親しまれ、オペラや歌曲、合唱曲などの名曲を世に送り出しています。
この公開レッスンを担当した永松圭子特任教授からは「現役で活躍されている作曲家に会ってお話を聞くことができるのは素晴らしいことです。昔の作曲家の場合、楽譜に込められた意図を想像して練習するしかないですが、作曲家自身から直接話を聞くことができる機会に恵まれて、私も感謝しています。木下先生のまとう空気感やお人となりと出会って、学生たちがどんな印象を持ったのか?楽譜の奥にある何かを感じ取ってもらえたら、これから先の勉強にもつながると思います。また、木下先生の作品に限らず、これから出会う作品にそれを応用していけるのではないかと期待します。」とお言葉をいただきました。
三原剛学科長の挨拶で公開レッスンが始まり、壇上にあがった木下先生は「これからみなさんの演奏を聞かせていただきますが、自分以外の人が歌った曲を聴いて『私もこの曲を歌ってみたい』と思ってもらえたら、作曲家としてこれ以上うれしいことはありません」とお話しになりました。
この日のために研鑽を積んできた声楽を学ぶ8人の学生が順番にピアノ伴奏者とともにステージに上がり歌唱。それぞれに対して木下先生がレクチャーを行うという形式で進められました。
日頃の成果を発揮する学生たちは、憧れの作曲家を前に緊張した面持ちながらも堂々と演奏を行いました。
1.歌曲集「花のかず」より
ピアノ伴奏 兒玉千沙子さん
2.「抒情小曲集」より
ピアノ伴奏 初瀬川未雪さん
3.「秋の瞳」より
4.「三好達治の詩による二つの歌」
ピアノ伴奏 河合琴絵さん
5.「モノオペラ(暁の星)」より
6.「黒田三郎の詩による三つの歌」より
7.「木下牧子歌曲集Ⅱ」
ピアノ伴奏 吉本大希さん
「木下牧子歌曲集Ⅰ」
木下先生から学生の演奏にアドバイスが伝えられました。学生たちはそれぞれ指摘された内容を真摯に受け止め、修正をしていきました。
歌詞の解釈や、楽譜に記された音楽記号の読み取り方、フレーズでの子音の扱い方や強弱のつけ方など、ことばの意味を届けるために、日本語の歌詞を楽曲のなかでどう表現するのかを作曲家自身が伝授。
ステージ上の学生はもちろん、出番以外の学生たちも客席から熱心に木下先生のお話を聞いていました。
「ことばに寄り添うのは大切だけれど、それだけになってしまうと、実は聞いている方はあまり面白くないんですね。聴き手が心地よいなあと感じるときは、歌い手は計算をしてくれていると思う。歌というのはかなり知的なスポーツでありますから、構成を計算するためには曲をちゃんと捉えることです」
レッスンでは詩が作られた時代背景、作詞家の人物像、木下先生ご自身の体験といったエピソードなども語られました。より作品への理解が深まり、木下先生の人となりにも触れることができる有意義な講義になりました。
今回参加された学生の皆さんは表現力が高く、とても聴きごたえのある演奏ぞろいでびっくりしました。私の曲のなかでも、難しい曲や新しい曲にも積極的にチャレンジしてくださったところもよかった。「黒田三郎の詩による三つの歌」という男性が語る詩の作品を、女性が歌われましたね。あの作品、女性が歌うと素敵ですね。今の時代らしいと思いましたし、とても興味深く聞きました。 選曲は学生と先生が相談をして決めたそうですが、親しみやすい曲から意欲的な曲まで混ぜて取り組まれていたのは、先生のご指導によるところも大きいのでは。幅があってよい選曲だったと思います。 全体を通してみなさん演技力が高いのが印象的でした。声楽コースはオペラが必修だそうですが、演技力と言葉の表現は連動するし、動きから言葉を掴んだりすることがあるので、日本語のオペラを経験するということは、とてもよいと思います。 学生のうちは、いろんな曲を歌うことが大切です。できれば学部生のうちに日本語の曲を歌っておくことをおすすめします。ある程度の発声は身に着けたうえで学部生のうちにむずかしさに気づいてもらえたら、その後の勉強の方法もつかみやすいのではないでしょうか。
東京生まれ。東京芸術大学作曲科首席卒業、同大学院修了。日本音楽コンクール作曲部門(管弦楽の部)入選。日本交響楽振興財団作曲賞入選。三菱UFJ信託音楽賞奨励賞受賞。主要作品に、オペラ「不思議の国のアリス」、オーケストラのための「ルクス・エテルナ」、ピアノ・コンチェルト、吹奏楽曲「ゴシック」、「音楽物語〜蜘蛛の糸」、ピアノ・カルテット「もうひとつの世界」、ピアノのための「6つのフラグメント」、合唱組曲「方舟」、歌曲集「秋の瞳」ほか。声楽作品は特に人気が高く、オペラ・歌曲・合唱とも全国で演奏されている。出版は100冊を超え、CDも「室内楽作品集 もうひとつの世界」(レコード芸術 特撰盤/ライヴノーツ)他多数。
◎木下牧子公式サイト
http://www.m-kinoshita.com/
木下先生の声楽曲は以前から取り組んでおり「花のかず」や「竹とんぼに」といった曲を歌うことが多いのですが、先生と相談し普段とは違ったイメージの「夢の中の空」と「カゼクサ」の2曲に挑戦しました。練習を重ねるうちに、より深く詩の世界観が広がる楽曲に魅力を感じました。練習で歌い方や解釈を考えて、どちらがいいか迷った箇所があったのですが、ステージで表現した歌い方が木下先生ご自身のお考えと同じでホッとしました。直接指導をしていただいて、深く納得することができました。 普段から声量とフレーズを大切に歌いたいと思っているのですが、今回の公開レッスンでは作曲家の先生が日本語のフレーズをどういう思いや意図で作られたのかや、構成をどのように考えていらっしゃるかを直接伺うことができてとても大きな学びになりました。他の参加者が演奏した曲を聴くことからも刺激を受け、今回歌われた曲すべてを自分でも取り組んでみたいと思います。また、木下先生が詩を大切にしてより聴き手に届ける発声の方法や音楽記号の解釈などをたくさんご指導してくださったので、今まで自分が練習してきた木下先生の作品をもっと深めていきたいです。
今年の4月に大学に入ってから本格的に声楽を始めたので、毎日が初めての体験です。今回は合唱「鴎」に参加しました。初めて木下先生のことを知り「鴎」を歌ったのですが、とてもいい曲だと思いました。先輩方がステージでレッスンを受けるのを見て、みなさん表現力が高くて圧倒されました。また、木下先生の曲への思いも聞くことができてとても勉強になりました。今日の曲目のなかで「さびしいカシの木」や「ほんとに きれい」を歌ってみたいと思いました。 授業でモーツァルトの「魔笛」に取り組んでいますが、今まで譜面に書いてあることしか頭にありませんでした。今日、先生のお話のなかで、例えば音楽記号のクレッシェンドも、ただ大きくするだけじゃなくて、次の言葉に向かうためのクレッシェンドなのだとか、作曲家やその時々によって音楽記号の意味が違うということを学べてよかったです。これから課題がいっぱいですが、次の機会には先輩方のように、ひとりでステージに立って歌いたいです。