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音楽プロデューサー前田尚紀先生による特別講義 音楽プロデューサー前田尚紀先生による特別講義

音楽学科 / 特別講義
2024/08/05

2024年7月10日、客員教授の前田尚紀先生による特別講義が大阪芸術大学 6号館Dスタジオにて行われました。前田先生は音楽学科ピアノコースの卒業生。プロデューサー、ゲームクリエイターとして活動し、音楽ゲームの大ヒット作『Dance Dance Revolution』の開発に参画するなどしました。今回は、そんな前田先生にとって客員教授着任後、初の講義。音楽学科の学生たちに、仕事をする上での心得、夢の実現のためにやるべきことを、熱意たっぷりにお話しされました。

自分にしかできない音の世界の追求、そのために学生のときからやるべきこと

これまでコナミ、カプコン、サイバーエージェントなど大手企業に在籍し、『Dance Dance Revolution』、『beatmania』といった世界的に人気を集める音楽ゲームシリーズの開発・制作に携わってきた前田尚紀先生。音楽ゲーム界のパイオニア的存在である前田先生の特別講義とあって、学生たちの心も躍っているように見えます。そんな前田先生は講義冒頭「大阪芸大の音楽学科出身という肩書きは、音楽業界で有利に働く場合があります」と学生たちを鼓舞。音楽に関する専門知識を知っていると理解され、自身も様々な仕事を依頼されたと振り返ります。

ただ、そのためには今のうちからどんな講義の内容でも学び取ろうとする姿勢が必要だと言います。前田先生は「たとえば民族音楽。今は馴染みがなかったとしても、必要になる場面がたくさんあります。そんなとき、学生時代の講義の記憶がよみがえって仕事がサクサク進むんです。また、RPGの音楽はアカデミックなオーケストレーション(オーケストラなどの編曲)が多いので、大阪芸大で教わることが重要になります」と、学生時に学んだことが第一線で活躍する現在まで生かされているそうです。

前田先生は「ここだけの話ですが」とゲーム音楽業界の裏話もまじえながら、仕事の楽しさと厳しさを伝えた
「一人でも多くの学生が音楽の仕事に就き、そして音楽文化を次の世代へ継承して欲しい」と願う前田先生

そんな前田先生に、学生たちはいろんな疑問をぶつけます。特に興味深かったのが、「どんな風に音楽制作の依頼を受けるのか」という質問。前田先生は、具体的なゲームタイトルを挙げて「その作品は『真夜中の虹』など抽象的なことしか指示されないんです。大切なのは、そういうお題に対しても自分の中でイメージを膨らませてサウンドデザインできるかどうか」だと話します。そのためには、学生のうちから「可もなく不可もなくではなく、試験曲であっても『なんだこいつは』と驚かせるものを出せた方が良い」と伝えます。

前田先生は、基礎を重視した上で「たとえばドラムでメロディを奏でるなど、トリッキーなことをどんどん試すべき」と言う
前田先生は映像作品の楽曲担当時、ハンドモデルとして人気俳優の手の代役に抜てきされた経験もあるそうで、学生が驚く場面も

今回の講義に参加した学生は、まだまだ今後を模索中の1、2年生。前田先生は学生たちに向けて「自分の音楽を聴かせたい、ではない。感動させたい、泣かせたい、もしくは怒らせたい。つまり自己満足ではなく、『相手に何かをさせたい』を軸にしてください」と語ります。その上で「自分にしかできない音の世界を追求してほしい。良い意味でバカになり、我が道を信じ続けることが大事」と力説。学生たちの気持ちに寄り添うような前田先生の心のこもった90分間となりました。

学生たちの口から「この企業をめざしているのですが」など、具体的な企業名が飛び出す場面も
「4年間の学生生活を貴重なものに」とエールを贈る前田先生。講義後も居残って話し込む学生もいるなど大盛況に
音楽学科 客員教授
前田 尚紀 先生(音楽プロデューサー/ゲームクリエイター)

音楽学科の客員教授着任後、本格的な講義は今回が初めてでした。当初は技術的なことを教えるつもりでしたが、教室に入ってくる学生たちの様子を見た瞬間「みんなを煽ろう」と予定を切り替えました。というのも、エネルギッシュな雰囲気の学生たちが多かったので、「お堅い話は向いていないんじゃないか」と。特に伝えたかったのは、音楽との向き合い方。私にとって音楽とは「Destiny(運命)」であり、自分の魂を奪ったものなんです。学生時代、唯一の友だちは「ドレミファソラシド」でした。ただ、そのせいで在学中はいろいろ背負い込んで苦しみましたし、音楽から逃げたくなることもありました。それでも「音楽で生きていくには異端でいなければならない」と考え、周りの同級生とはわざと違うことを言ったり、異なるアイデアを実践したりしていました。もちろん公演でMCをするとき、そして曲を作るとき、いずれも必ずメッセージ性を込めていましたし、そういったことが「自分ならではの表現」に繋がっていきました。そんな私に影響を与えたのが、『ガンダム』シリーズのアニメ監督・富野由悠季さんです。長年、想像を遥かに超える作品を作り続け、あえて捻くれた表現もなさっています。80歳を過ぎてもなお「この作品は10年、20年後に評価されるもの」という風におっしゃったりもします。富野監督は常に開拓心を持っていて、表現の革命者だと思います。ジャンルは違いますが、クリエイターとして刺激を受けます。ただ、その上で学生にまず意識して欲しいのは「基礎を侮るな」ということ。表現とは基礎をもとにしたものであり、「自分ならでは」の個性によって発展していく。幸いなことに大阪芸大は音楽の基礎について学べる場所です。私も数々の仕事で「大阪芸大で音楽の勉強をしていたのだから専門家なのだろう」と思ってもらえ、それが武器になりました。ですから学生は今、しっかりと基礎を身につけて欲しい。私は、そんな皆さんと同じ目線に立って、それぞれが思い描く夢をサポートしていきます。

音楽学科 音楽・音響デザインコース 1年生
合田 海翔 さん

僕はこれまでゲーム音楽にあまり触れてこなかったので、前田先生のお話は驚くことばかりでした。中でも、ゲームによっては何万ものSEが制作・使用されていること。自分たちは一つの効果音を作るだけでも大変。それを分かっているからこそ、複数のスタッフさんが関わっているとはいえ「人間業ではない」と思いました。ゲーム音楽の奥深さはもちろんのこと、ゲームをやるときはより注意深く音を聴いてみたいです。また、前田先生のおっしゃったことで改めて考えたのが「個性の出し方」です。というのも自分は小さい頃から大衆的な音楽や、世代問わずに受け入れられる音楽が好きだからです。普遍的なものを作りたいのですが、その中で個性を出すにはどうしたら良いのかずっと考えていました。ただ、今の音楽シーンは「新しいことをやろう」という動きが強いので、逆に昔から親しまれているものを突き詰めれば、それが自分の個性になるのかなって。そのためには、前田先生がご指摘されていた基礎を大切にしていきたいです。自分は将来、テレビドラマやJ-POPの音楽プロデューサーになりたいのですが、そのためには音楽知識が絶対必要。感覚的な表現も大事ですが、まず基礎を意識した音楽作りに取り組もうと思います。

音楽学科 音楽・音響デザインコース 2年生
賀久 真裕奈 さん

私はもともと音楽ゲームが大好きでした。3歳からピアノをやっていた影響でクラシックばかり聴いていたのですが、小学5年生のときに音ゲーに出会い、同じ音楽であっても世界観や音色に大きな違いがあることに気づきました。当時、私がよく遊んでいたアプリの音ゲーではプロではない方の音楽が使用され、その中に高校生が作ったものがあったんです。「学生でもこんなに素敵な曲が作れるんだ」と衝撃を受け、その世界により興味が湧きました。もちろん前田先生の作品もいろいろ聴いていました。今回の講義では、そんな前田先生がどのような音楽ソフトを使用されているのか、音楽制作をするにあたってどんなコミュニケーションをとっているのかなど、具体的なプロセスを知ることができてとても有意義でした。ゲーム音楽のすごさは、音の力をもってしてゲームのプレイヤーをその世界へと没入させられること。映像がいくら良くできていても、それだけでは没入体験は得られない。そう考えると、私たちがいかに普段、音からいろんな情報や刺激を受けて生活しているのかがよく分かります。今後の学生生活では音楽はもちろんのこと、それ以外の芸術も学びたいです。たとえばデザインやイラスト。音楽はいろんな芸術との絡みもたくさんあるので、そういったことを勉強する中で、自分の進みたい道が見つかる気がします。