本サイトはInternet Explorerには対応しておりません。Chrome または Edge などのブラウザでご覧ください。
Topics

伝統芸能プロジェクト「新古典楽し座」の新作『NOBODY』の舞台制作に学生たちが参加! 伝統芸能プロジェクト「新古典楽し座」の新作『NOBODY』の舞台制作に学生たちが参加!

美術学科
2023/06/19

4月28日、アーティストであり美術学科 客員教授 清川あさみ先生の伝統芸能プロジェクト「新古典楽し座」の一夜限りの新作『NOBODY』の舞台が、ロームシアター京都 ノースホールで上映され、制作には、美術学科、アートサイエンス学科、デザイン学科、演奏学科の学生8名が参加しました。学生たちは舞台の本番前日にリハーサルを見学して作品を鑑賞し、清川先生と舞台の脚本を手がけた、いとうせいこう氏によるティーチングも行われました。


特別授業を経てLABOとして制作チームを編成

清川先生は、プロジェクトが発足した時点で、学生と一緒に作品づくりに関わりたいと、昨年度2回にわたり大阪芸術大学で特別授業を開催。美術学科の学生を中心に2022年5月に行われた1回目の講義では、清川先生のこれまでの活動実績や、伝統芸能プロジェクト「新古典楽し座」のコンセプトについて紹介し、脚本家である、いとうせいこう氏を招き、課題の発表を行いました。学生たちに与えられた課題は、「新しい能の物語を見てスケッチを提出し、お面や人形、メインビジュアルのアイデアを学生それぞれの得意分野を生かして出す」というものでした。

課題発表の翌月に行われた2回目の講義では、いとうせいこう氏に加えて画家の品川亮氏を迎え、舞台『NOBODY』のコンセプトやストーリーが解説されました。『NOBODY』は「誰でもない」ことの寂しさ、そして絶対的な解放を表しています。「心と言葉に迷わされる自分」という縛りを解き、「たった1つの物理的な、喜ばしい体」に帰る瞬間=「誰でもないBODY」へと舞の力で戻る瞬間をもたらせたいという考えが能で表現されます。また、1回目の講義を受けてから、お面など作品の制作に取りかかった学生によるプレゼンテーションが行われ、清川先生、いとうせいこう氏、品川氏からコメントや感想が語られました。

その後、学生たちは、再び清川先生の講義によって受けたインスピレーションを生かし、自主制作活動を行い、舞台を構成するオブジェや関連作品を制作する班に分かれ、プロジェクトに参加。LABOとしてチームが編成され、実際に舞台や作品ができるまでを体験しました。

「新古典楽し座」の新作『NOBODY』

2020年、清川先生は故郷・兵庫県淡路島の「南淡路市地域魅力プロデューサー」に就任。詩人・最果タヒ氏と百人一首をテーマにタッグを組み、日本古典文学の最高峰に挑み話題となった書籍『千年後の百人一首』をきっかけに「淡路人形浄瑠璃再生プロジェクト」を手がけ、伝統芸能のプロデュースをスタートしました。清川先生が、淡路島の国指定重要無形民俗文化財である淡路人形浄瑠璃のプロデュース、演出、舞台美術を手がけ、古典芸能に詳しい、いとうせいこう氏が脚本を担当。新演目『戎舞+(プラス)』を発表し、淡路人形座来場動員数を大幅に塗り替え、新しい風を吹き込みました。

そして、見たことない1000年前と1000年後を繋ぐ令和のショー「新古典楽し座」プロジェクトを新たに発足。異種の伝統芸能を組み合わせ、日常で考えさせられるような素朴な問題提起を文学的なアプローチと共に描くアートパフォーマンスの第一弾として上映されたのが、『NOBODY』です。人形浄瑠璃に続く、総合監修の清川先生をはじめ、いとうせいこう氏など日本古来のエンタテイメントの魅力を多岐にわたる分野のプロフェッショナルと再発見する試みとして話題を呼びました。プロジェクトメンバーは、観世流林宗一郎氏(能楽師観世流シテ方)、大月光勲氏(能面師)、結城一糸氏(糸あやつり人形一糸座・糸あやつり人形劇団)、原摩利彦氏(ミュージシャン)、DAISY BALLOON(バルーンアーティストユニット)、そして大阪芸術大学の学生も参加。学生たちは、舞台美術の設置なども行いました。公演チケットは販売2日足らずで完売し、追加で抽選販売された立見席もすぐに埋まるほど注目を浴び、一夜限りのパフォーマンスは他に類を舞台として観客を魅了。大盛況となりました。

また、一夜限りの上映となった舞台と同時期に、京都のMtk Contemporary Artで開催された清川先生の展覧会「I’m nobody. 何者でもない」で、学生たちが制作した作品も展示されました。学生が手がけたのは、『NOBODY』のストーリーが描かれた絵巻物、ポスターやパンフレットのメインビジュアルに採用された井戸のオブジェです。

リハーサル見学後に行われたティーチング

公演前日である4月27日には、学生たちはリハーサルの模様を見学し、清川先生と、いとうせいこう氏によるティーチングを受けました。清川先生は、「今回のプロジェクトのテーマである、“古典的なものと現代的なものを融合させ、新しい舞台を作ること“は、ゼロから物語を表現するという点がとても難しく大変でしたが、ある種、未来的で素晴らしい作品になりました」と話します。「今回は、“心臓の音が聞こえてくるほどの緊迫感“や“ピンと張った糸のような空気感“を作り出すことを意識し、固定概念にとらわれず、さまざまな角度から研究を重ね、情報をインプットしたり、学生の皆さんからのアイデアをヒアリングしたりして、多角的な視点でイメージを膨らませながら、最後はマンパワーでここまで作り出すことができました。このプロジェクトが皆さんにとっても、さまざまな業界のプロフェッショナルと関わることにより、より良い刺激になったと思いますし、チームとして一緒に制作ができて楽しかったです。ありがとうございました」と続けました。

また、プロジェクトに参加し、舞台を鑑賞した学生1人ひとりに感想を聞き、いとうせいこう氏と共に、1つずつ丁寧にコメント。学生からは、「さまざまな音が組み合わさった音響の中で、モノクロームの世界が進んでいき、とても不思議な感覚だった」「さまざま質感のバルーンで表現された井戸が、照明によって自然物のように感じられるようになり、引き込まれて、とにかく美しい舞台で感動した」、「現代的なものと古典芸能が融合した作品だったが違和感など全くなく、どこか懐かしい、でも新しいという不思議な感覚を覚えた」など、感想が述べられました。


美術学科 客員教授
清川 あさみ 先生

「新古典楽し座」は、古典芸能のアップデートによって1000年前と1000年後をつなぐプロジェクトです。展覧会を行うことが決まっていた上で初舞台『NOBODY』というアートパフォーマンス作品を制作しました。学生の中でもプロジェクトに関われそうな人を集めてLABOという形でチームを編成し、授業の中でも実際に舞台や作品ができるまでを体験してもらいました。舞台や作品は生き物なので、決して思い通りにはいきませんが、大きな作品や舞台などを実現する大変さを知る機会になったかと思います。
また、アイデアを出し合ったり、制作したり形にする楽しさを知ってくれたと感じています。最後まで学生の皆さんがとにかく楽しそうで、こちらもその姿を見てうれしかったです。普段なら出会うことのない、さまざまなプロフェッショナルの皆さんとお仕事をしたことは宝物になるでしょう。「ゼロ」から大きな作品が作れたと感じていますし、今回参加した学生の方々の今後につながっていけたらと思います。

美術学科 日本画コース4年生
江澤 桃さん

私は今回、舞台と同時期に行われた「I'm nobody. 何者でもない」という清川先生の展覧会に展示された絵巻物の墨絵を担当しました。普段グループワークをする機会が全くないため、終始新鮮な気持ちで制作を行いました。清川先生に絵巻物の文字を書いていただき、そこから想像を膨らませて絵を描かせていただきました。普段は色彩豊かな画面を好むのですが、今回は舞台のストーリーに合わせ静謐ながらも力強さを表現したいと考え墨と透明水彩を使用しました。このプロジェクトへの参加がなければ、行うことがなかった技法や組み合わせを使用したため、とても良い機会になったと感じています。
また、学生の身でプロのお仕事を間近で見て学べる機会は滅多にないことなので、すばらしい経験になりました。舞台に携わった方々1人ひとりが、本番直前まで舞台をより良いものにするために、それぞれの調整を重ねていらっしゃる様子が特に印象的でした。見学だけでなく、実際に制作に関わらせていただくことにより、舞台に対する想いや熱量を直に感じることができました。日本画を学ぶ身として、伝統と革新の融合は今回に限らず、さまざまな場面で試して行きたいと感じています。今回のプロジェクトを通して、伝統を守り続けることは非常に大切なことですが、時代に合わせてアップデートすることで新たな側面を見せ更なる魅力を発見する機会につながるということを学ばせていただきました。

アートサイエンス学科 4年生
池田 有優さん

普段アートサイエンス学科で学んでいることとは違う新しさや、プロの生きた現場を見て感じてみたいと思い、今回のプロジェクトに参加しました。私は、ポスターやパンフレットに使用されたメインビジュアルの井戸を制作しました。“新しい伝統芸能”ということで、井戸の概念をプログラミングと手作業で行い、大量の紙を切り貼りする過程など、とても楽しく作ることができました。清川先生と何度も相談しながら作り上げたことは貴重な経験になったと感じています。チームで動くことの難しさと、それらをまとめる力の必要性に気づくこともできました。
また、舞台では、とても近い距離で衣擦れの音が聞こえてくる程の緊張感が、これまで長くてよく分からなかった能を一気に新しいものとして魅せてくれたため、ほかの伝統芸能にも興味を持つことができました。今回のプロジェクトを通して、私自身、アートサイエンス的な表現として使われる強い光の演出が苦手なので、そうではない“マットな質感”の新鮮さを取り入れる良いきっかけになったと思います。今度も清川先生とお仕事ができるように作品制作を頑張ります。

アートサイエンス学科 4年生
山下 智里さん

私は、主にポスターなどに載っている井戸のオブジェの制作と舞台に使用された造形のバルーンの取り付けを行いました。他にもTシャツデザインの案出しや、クラウドファンディングのお礼品の案を考えたりしたのですが、本番までの制作期間が十分でないことから採用されず、現実の厳しさを実感しました。しかし、プロジェクトに関わったことで、清川先生やいとうせいこうさんなど著名な方々と共に制作に関われたことはとても貴重な体験で社会勉強になりました。パンフレットのクレジット表記に自分の名前が記載されていたのは、胸が踊るほどうれしかったです。
現場はとても緊張感が張り詰めており、プロの方々が真剣に舞台制作に励んでいる姿を間近で見て、より一層身が引き締まりました。また、現場に入りその場で舞台を作り上げている清川先生の姿がとてもプロフェッショナルで印象的でした。今回のプロジェクトでは、チームで制作する機会が多く、それを上手くやり遂げるには円滑なコミュニケーションと助け合いの精神が大切だということを実感しました。社会に出てもチームで仕事をやり遂げる機会が多いと思うので、今回学んだ協調性を生かして、仕事を完成させていきたいと思います。今回のように新しい環境に飛び込み、課題に対し諦めずにトライし続け、最後までやり切ることを今後も続けていきたいです。

アートサイエンス学科 4年生
中山 友希さん

私は、清川先生の作品にとても惹かれ、プロジェクトを通して清川先生の側で学び、自身の表現方法に磨きをかけたいと思い、今回のプロジェクトに参加しました。チームで制作した井戸は、300枚の紙を手作業で切って重ねて表現しています。限られた時間の中で、苦戦しながらも試行錯誤を重ねて作品を仕上げることにとても達成感がありました。メインビジュアルに採用していただき、こだわって制作して良かったです。
また、たくさんのプロフェッショナルの方々が試行錯誤して舞台作り上げていく姿を目の当たりにし、さまざまなアプローチ方法を学ぶことができ、非常に貴重な体験ができました。舞台で使用された井戸の制作についても実際にお手伝いしたのですが、多様な質感や大きさのバルーンをバランスよく取り付けていく作業が難しかったです。今回、プロの方々のお仕事を目の当たりにし、私も将来皆様のように第一線で活躍できるようになりたいという夢ができました。今回の経験を生かしながら努力を続け、たくさんの人に喜んでもらえるものづくりをしていきたいです。そのためにも、まずは清川先生に胸をはって報告できるような卒業制作ができるようによう頑張ります。