2022年2月6日、千葉県・幕張メッセにて行われた「ワンダーフェスティバル2022[冬]」。
世界最大級の造形・フィギュアの祭典として知られるこの「ワンダーフェスティバル」は、キャラクター造形学科 フィギュアアーツコース教授である宮脇修一先生が実行委員会代表を務めていることから縁が深く、毎回、大阪芸術大学のブースが設けられて在学生の作品の展示が行われています。
設置されたブースには、熱心なフィギュア・ファンが集い、興味深く作品を見学する姿が見られました。
参加者の中には熱心にブースを見学するフィギュア・ファンや、美少女戦士や戦隊ヒーロー、人気アニメのキャラ、2メートルを超えるロボット……思い思いの衣装を身にまとったコスプレイヤーたちが悠々と闊歩する姿も多数見られ、会場は熱気に満ちたものになりました。
コロナが徐々におさまりつつあった時期でしたが「『ワンフェス』という大規模なイベントを行うことは難しいものがありました。しかし、やはり僕らは“物を作る”ということが生きる糧であり、僕らの好きな物をお見せできる場所を作るということが、僕の使命であると思ったんです」
そう語るのは「ワンフェス」実行委員会代表を務める、株式会社海洋堂の取締役専務であり、大阪芸術大学キャラクター造形学科 フィギュアアーツコース教授でもある宮脇修一先生です。
フィギュア文化を日本に普及、浸透させた第一人者として知られる宮脇先生が掲げる教育理念が《未知数の世界で活躍することを視野に入れて「心」「頭」「手」を鍛えることを重要視した学びに取り組むこと》。
「フィギュアが未知数の世界というのは、日本のアニメやマンガは長い年月をかけて、ようやく世界的な評価につながっていますが、フィギュアに関してはまだまだで、カルチャーとしては新しく熟成しきっていない。だからこそ可能性が存分にあるわけで、何も形式が固まっていないからこそ面白いことをやりたい。この『ワンフェス』を通して、作り手は楽しみながらオリジナリティを追及をしてもらいたいですね」
この「ワンフェス」には、毎回、大阪芸術大学フィギュアアーツコースのブースも用意され、多く来場者から熱い視線が注がれてきました。ブースでは作り手である学生とユーザーとの作品を介したコミュニケーションが魅力の一つです。今年は制作者の参加は叶いませんでしたが、ブースにたくさんの学生の作品が展示されました。
宮脇先生は「来られなかった学生たちの分まで、興味を持って作品を見てくださった方にしっかりとした対応をし、今回の『ワンフェス』を成功させて、今後の実施もがんばりますよ!」とすでに将来を見据えていました。
当日、大阪芸術大学フィギュアアーツコースのブースには、圧倒的な迫力を誇るクリーチャー、傍らにエレキギターを立てかけた躍動感あふれる美少女、オリジナリティに富んだ不動明王など、卒業生たちのハイクオリティな立体造形物のほかに、在学生が授業や「ワンフェス」のために制作した作品が多数展示されていました。
中でも目を引いたのは、500円硬貨ほどの大きさの「ヤドカリ」で、なんと近年の世相を反映しマスクを着用! 「さまざまな制約があるからこそ生まれる文化もありますし、逆境から産声を上げたカルチャーもたくさんある」と宮脇先生が語るように、現代のマイナス面を巧みに取り入れてクリエイトすることは、先述した宮脇先生の「可能性」にも通じます。
この作品の制作者であるフィギュアアーツコース4年の成松龍人さんは、過去に実際に「ワンフェス」に参加したこともあるそうで「思う存分に自分の作品をアピールしつつ、自分よりもはるか高みに存在するクリエイターたちの技術を生で見て学び、確かめることができました」と回想。現在の制作活動にも大いに役立っているそうです。
また、「森の奥深く苔生した場所に沢山の仲間と暮らしている。しかし、人間による乱獲が後をたたず絶滅の危機に瀕している。ただひっそり家族と暮らしていただけなのに…」といったエモーショナルなメッセージとともに展示されていた小さなかわいらしいキノコ型のフィギュア「木の子人」にも目が留まりました。制作したのはフィギュアアーツコース2年・逸﨑穂華さん。「昔からフィギュアなどのキャラクター造形が好きでより専門的に学びたいと思い大阪芸術大学に進みました。将来は、原型制作だけではなく、大道具の大型造形制作やカプセルトイの企画制作などにも携われる仕事に就きたいです」と瞳を輝かせます。
世界に向けて日本のフィギュア・アートが発信される大規模イベント「ワンフェス」は、参加したフィギュアアーツコースの学生にとって目標のみならず、多くの人の目に触れることを意識できる作品作りを経験できる、刺激的な機会となっているようでした。
今回の「ワンフェス」は、学生たちは会場に来ることはできませんでしたが、しっかりと僕らが現場でサポートを行うことでフォローしようと思っていました。彼らのためにも、今回の「ワンフェス」を成功に終わらせて、継続させていくことこそが僕の使命でもあると痛感しています。在学中の学生をはじめ、これからフィギュアアーツコースに進みたいと思っている高校生にも、この「ワンフェス」が、立体物を作るということの楽しさを知れたり、自身の作品をより追及してもらえる場所になればいいですね。授業の一環としてブースへの展示を行ってきましたが、それは、自分の作品を評価される状況を作ってあげたいという思いからです。それが、学生にとって良い結果を生むと信じています。 僕は自分が先生に向いてるかといったら、まったく向いていないと思います。しかし、僕の生き様や作り様など、僕の人生のすべてを見せて、造形物に人生を捧げた熱量を伝えたいと思っています。造形の作り方というより、言うなれば精神的な部分であったり、取り組み方、いかに新しいものを作るか、これまでになかったものを作るか…僕の伝えるべきことは教育ではなく、そういったことだと感じています。僕は決して天才ではありません。しかし、物を作ることが好きで、誰よりも作って作って、それを、ずっとやり続けていたら、それなりのものにはなる。若い学生たちは、ひたすら好きなもの、自分がやりたいものを極めてつき進んでいくという、そういう気持ちでこれからもがんばってほしいですね。
キャラクター造形学科 フィギュアアーツコース 4年生
成松龍人さん
将来、フィギュア制作関連の仕事に関わるということを目指す上で、大阪芸術大学のみがフィギュア制作を最も専門的に学ぶことができる大学でした。入学前に望んだ、専門的な技術を学びながら、ワンフェスや根付コンペティションなど数々のイベントを体験することができ、さまざまな困難がありつつも、フィギュアアーツコースに進めてよかったと思っています。私個人としては、宮脇先生の授業で学んだフィギュアの歴史や制作に関する講義、そして持ち込んだ作品に対する講評など、確実に今につながる経験になったのは確かです。
また「ワンフェス」への参加も、大いに刺激になりました。本来、さまざまな手順を踏んで出展するところを、大学側で負担していただき、思う存分自分の作品をアピールしつつ、自分よりもはるか高みに存在するクリエイターたちの技術を生で見て学び、確かめることができました。これからは、外注のフィニッシャーなどの仕事をして腕を磨きながら、最終的には大手の原型師の職に就くことを目標としています。
キャラクター造形学科 フィギュアアーツコース 2年生
逸﨑穂華さん
昔からフィギュアなどのキャラクター造形が好きで、より専門的に学びたいと思っていましたが、探したところ私の希望と合致するところが大阪芸術大学にしかなく、迷わずに進みました。授業では、フィギュアを作る楽しさ、企画する楽しさ、そして、それを実際に商品化するためのコスト計算や市場動向を考える実践力を身に付けることができたと思っています。また、宮脇先生からは、作品を作る際に、いろいろ挑戦することが大切だという趣旨のお話をしていただいたのが印象に残っています。
「ワンフェス」に関しても、ひとりではきっとはわからないことだらけでしょうし、そういった状態で出品したとしても、誰の目に留まるかどうかわからない中で、「大阪芸術大学」というビックネームの下で少しでも注目していただける機会ができて、よかったと思っています。卒業後は、原型制作だけにとらわれず、大道具の大型造形制作やカプセルトイの企画制作などに携われる仕事に就きたいと思っています。