2023年1月28日から2月5日にかけて芸術計画学科と大阪府立近つ飛鳥博物館の博学連携事業として「光を呼ぶ鏡-天と感応するメディア-」が開催されました。2022年に巨大な3種類の勾玉をフィルムシートに拡大転写、作品化した「翠光を纏う時空-勾玉は目覚め、明日を照らす-」から継続する藝術考古学的プラクティスシリーズ。子どもたちにアートの面白さを実体験として伝えるワークショップを新たに企画運営し、より充実した展覧会となりました。
芸術計画学科の基幹授業として学生たちがアートプロデュースやイベントの企画や運営に実際に関わる「プロジェクト演習」。近つ飛鳥博物館の連携プロジェクトは、展覧会の企画から運営、広報や予算管理まで、学生たちが主体的に実践していくカリキュラムです。展示作品の制作のみならず、外部への業務委託や資材の購入にも見積もりをとって検討。フライヤーやポスターの制作、SNSやウェブサイトでの情報発信など、学生たちは博学連携事業の大切な役割を分担して進行していきます。
「光を呼ぶ鏡-天と感応するメディア-」の担当教員は歴史遺産を生かしたアートプロデュースで数々のプロジェクトを手掛けてきた谷悟先生と、世界各地に滞在し、作品制作を行ってきた美術家の山村幸則先生です。今回、モチーフになったのは大阪府立近つ飛鳥博物館に所蔵されている御旅山古墳から出土した内行花文鏡(ないこうかもんきょう)と、大阪芸術大学内の東山遺跡から出土した銅鏡です。メインの「光を呼ぶ鏡/天と感応するメディア」では、この2つの鏡を約40倍に拡大し、吹き抜け空間に展示しました。さらに、2021年度卒業制作展で学長賞の栄誉に輝いた卒業生の写真家、山里翔太さんが撮影した「覚醒する鏡/凛々しさの記憶」といった鏡の真意に迫る作品が展示されました。
ワークショップ「令和の鏡」では、いかに古代の銅鏡に興味を持ってもらうのかに配慮して企画が立てられました。鏡の紋様には古代に生きた人々にとって重要な意味が込められています。その紋様を現代に生きる私たちが解釈し、オリジナルな紋様を創造していく作品作り。天窓から降り注ぐ光を作品に透過させて作品が完成します。
昨年はコロナ禍もあって急遽中止となってしまったワークショップ。フライヤーとワークショップの案内を近隣の小学校に配布するなど地域との関わりに重きを置きました。その結果、多くの親子がワークショップ「令和の鏡」を楽しんでくれました。
本プロジェクトの詳細は「光を呼ぶ鏡 ―天と感応するメディア―」をはじめとする藝術考古学的プラクティスシリーズのホームページ及び大阪府立近つ飛鳥博物館の公式YouTubeをご覧下さい。
■ホームページ
・埴輪の体温-時を超克する力-
https://chikatsuoua.wixsite.com/haniwanotaion
・翠光を纏う時空-勾玉は目覚め、明日を照らす-
https://chikatsuoua.wixsite.com/magatamasuikou
・光を呼ぶ鏡-天と感応するメディア-
https://chikatsuoua.wixsite.com/hikariyobukagami
■YouTube 動画配信
・近つ飛鳥ギャラリー「光を呼ぶ鏡-天と感応するメディア-」メイキング
https://www.youtube.com/watch?v=e9WaZJ5-Msk
・「光を呼ぶ鏡-天と感応するメディア-」2分15秒【近つ飛鳥博物館】
https://www.youtube.com/watch?v=1-lSgKpTHL8
考古学では、おもに銅鏡の背面に表現されている紋様の変遷を辿ることで製作年代を割り出すことや文化的な交流、影響等のあり方を研究することに力を尽くします。しかし、アートとして臨む本展覧会はそれとは異なり、「古代の人たちが鏡のどのような属性に惹かれていたのか」という問いにフォーカスすることを企画構想の核に掲げました。 いにしえの世を生きた人々は鏡が陽光を反射させ、あらゆる場所に光を映し出す不思議な力に大きな驚きをおぼえたのではないでしょうか。鏡は天と感応するメディアであり、光を操る行為をおこなうことができる神聖な機能こそが鏡の本義であると考えました。そのようなテーマを具現化するために写真、造形、映像作品とワークショップを総合的に設計し、古代人の意識にシンクロする機会を促す博物館の新たな愉しみ方を提案しました。 ゲストアーティストである山里さん(写真学科卒業生)や中南さん(芸術計画学科卒業生)はキュレーター、ディレクターを務めた教員の想いに応えていただき、また、プロジェクトメンバーである芸術計画学科の学生たちは各々の資質を最大限に活かし、豊かな発想を次々とかたちにしました。加えてメインの作品を造作、施工していただいた業者の方々、学術資料の提供や様々なアドバイスをいつも丁寧にしていただいた博物館学芸員、広報担当者のみなさまが一丸となり協働するワンチームになり得たからこそ、この企画は実現できたと思っています。今後もこの藝術考古学的プラクティスシリーズを大切に育み、より社会的に意義のある博学連携事業をプロデュースしたいと考えています。
展覧会のプロジェクトを鏡と向き合いながら、学生の皆さんとともに進めてゆくうえで、私が心に宿した大切なものは「時間」だったのかも知れません。現代社会では常に迅速で確実なことが尊ばれます。しかし、古墳から出土した鏡とともに生きていた古代の人々は、現代人とはまったく違う心情で日々を過ごしていたように思います。例えば、山間から日が昇ってくる夜明けは、光を信じて待つ時間だったのではないでしょうか。そんな古代人の意識を現代に甦らせることを念頭に「光を呼ぶ鏡−天と感応するメディア−」を構想しました。吹き抜けの天窓から射し込んでくる陽光は巨大な2つの鏡に反射します。しかし、空模様や太陽高度によって光は刻々と変わっていくでしょう。その時にしか見られない光の表情も作品の一部であり、表現であると思います。 さらに工芸学科の長谷川教授の協力を得て、新たな銅鏡を鋳造し制作することができたことは来場者の方々が自ら「光を呼ぶ」という参加型作品の実現にも繋がりました。 博物館で見られる銅鏡は緑青に覆われていますが、本来の輝きや重みを手にとって実感してもらえる特別な機会になりました。
「プロジェクト演習」はアートプロデュースやイベントプロデュースを学ぶことができる様々なプログラムがあります。近つ飛鳥チームを選んだ理由は、大阪芸大に在籍していないとアートプロデュースの経験が積める機会がなかなかないと思ったからです。立候補してリーダーになったのですが、私はみんなをぐいぐい引っ張っていくタイプではありません。各部門の進捗を確認しながら、丁寧にコミュニケーションをとっていくことが私なりのリーダーシップだということを実感しました。 今回は博物館の皆様に本プロジェクトの企画を提案する機会もありました。副館長や学芸員、広報担当者の皆さんに、企画趣旨をお話できる機会は学生時代には滅多にないことだと思います。 卒業後は多様な背景を持った方の嗜好に応じて提案していかなければならないブライダルプランナーとして働きたいと考えていたので、すごく緊張しましたが、経験値をあげられる貴重な機会と捉え、メリハリのあるプレゼンテーションを心がけました。
2年生のときに近つ飛鳥でSNSを担当。今年はワークショップ部門のリーダーですが、引き続きSNSも見ています。昨年はSNSでの情報発信はインスタとツイッターで展開していたのですが、今年はレスポンスがよいインスタグラム1本に絞りました。結果として昨年より「いいね」は増えていますし、インスタグラムを見て来ましたと言って頂ける方が増えたのがうれしいですね。将来はファッション分野で企画や広報の仕事をしたいと思っていたので、SNSでのレスポンスがどうすれば高まるのかを考える機会が得られたことはよい経験となりました。ワークショップのアイデアは、クリアフォルダの模様が光を透過して床に写っているのを見たことがきっかけで生まれました。透過させるデザインを銅鏡の背面の紋様に近づけてもステンドグラスのように見えてしまうのが問題点となっため、カラーセロファンの色や組み合わせのあり方を試行錯誤して今回のカタチに辿り着きました。前期の白浜アートプロジェクトで徹底的に鍛えられたので運営準備もばっちりでした。
1年生で履修した「アートプロデュース基礎」の講義が興味深かったので「プロジェクト演習」でも谷先生が担当する近つ飛鳥を選びました。アートとイベント双方の要素を体験できる演習内容に興味を持ち、2年生のリーダーにも立候補しました。 2年生が主体となって制作した「原初の鏡/煌めく光のパッサージュ」では、山村先生のご指導のもと、色々なアイデアを長い時間をかけてメンバー全員で出し合い、作品が生まれました。リーダーとして心がけていたのは、みんなから出てくるアイデアを否定せずに理解し、一歩引いた視点から考えること。様々な意見がある中で、迷いが出てきた時もありましたが、最終的にモビールを使った作品を制作し、完成しました。展示空間を流れる空気に寄り添って、モビールに反射する光の揺らぎはメンバーの想いや眼差しを感じた瞬間でした。