1998年にデビューして以来、精力的に作品を発表し続けてきた榊一郎氏。作品の幅広さに加え、執筆スピードでも知られるライトノベルの第一人者だ。
「小説を書くときは、向こうに読者がいることを常に意識して書くことが私のポリシー。私には才能がない、天才たちと比較すると平凡なんです。しかし、天才にも弱点があり、編集部からの売れ筋のリクエストがあっても、あまり対応できない。その点で凡才は、彼らにできないことをやることで対抗できるのです」。
編集部からの要望には極力応えてきた。読者のニーズをくみ取り、素早く書き上げる。「小説家」とは名乗らずに、「小説屋」と自称するのも、まず作品ありきではなく、読者ありきで仕事をしているから。「才能のない私がこの世界で20年やってこられたのは、このスタンスを貫いてきたからにほかならない」と語る。
以前はまったく休みがない状態だったが、今は新作のペースを落とした。企画が通るまで異常に時間がかかるようになったから、という。昔は編集者が自分の判断で企画を通していたのに、今は書店員さんの意見を聞いて判断することもある。しかも、今の売れ筋と違うからと企画の方向修正作業を延々と繰り返すうち、取りかかる前に年を費やした作品もある。
「編集部の意向に応えてきたのは、それが読者のニーズだと信じていたからなのに、どうも怪しくなってきた。題名にも制約が多く、主人公が楽しくて格好よくて、いい思いをするということを題名で表現して…とか、無茶なことを言ってきますからね(笑)。だから、今は私も多少ワガママを言うべきだと思い始めています」。
出版不況のなか、確実に売れる本を模索するあまり、版元は迷走傾向にある。素人の投稿サイトでのランキング上位者を安易にプロにしてしまい、その弊害もあるという。