「日常系SF」とも称される独自の作風で人気を博す、石黒正数氏。代表作の『それでも町は廻っている』で、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するなど、実力は折り紙付きだ。
「2020年には、もう長編漫画は衰退するのかも…。今はネットで4コマなどの短い作品が人気で、編集者が後追いをしている状況です。ネットで逸材を見つけて単行本化するという…。鬱とか性的マイノリティといったテーマを当事者が描いているとか、誰もが共感できるような作品がネットにあり、それを無料で読むのが当たり前…。
だったらお金を出して漫画を読む人は、本当にコアな層になっていきますよね。熱心なファンだけが愛し、支えていくという、今の歌舞伎に近い感じになるのかな…。それでも僕は長編が好きだから描くし、読者人口が異常に激減するとまでは悲観してはいません。ごく一部の人たちだけが漫画を支える時代になっていく可能性は否定できないですね。
昨今、AIに仕事が奪われるなんて言われていますけど、AIに奪うことのできない職業のひとつが漫画家です。むしろ、現状から考えるとAIに取って代わられるのは編集者じゃないのかな…。問題になった海賊版サイトの騒動自体は悪いニュースですけど、編集者が漫画のあり方を考え直す契機にはなったと思います。ああいう問題が生じることはだいぶ前から自明だったのに、出版界は何の対策もしてこなかったんですからね。
編集者がビジョンを持って漫画家を鍛え、日本の漫画界を育ててきたと思うのです。編集者が居なければ拙作は全て成立しなかったし、世界唯一の漫画文化は紛れもなく編集者が居てこそ作られた。それが今や、無料で読める人気コンテンツから作家を探しているようでは…。そんなことなら、AIで簡単にできますからね。もはや編集者は要らないでしょ」。
強い言葉で警鐘を鳴らすのは、心から漫画を愛し、強烈なプロ意識を持って真摯に作品を描き続けてきたからだろう。