美術学科長・村居正之教授の画業55年および日本芸術院会員就任を記念する展覧会「村居正之作品展~歴史を刻む 日本画の輝き~」が、このたび大阪・梅田で開催されました。
ギリシャを主題に深みのある群青で独自の世界を表現した日本画作品が一堂に展示され、多くの観覧者が訪れました。
日本画家として活躍を続け、画業55周年を迎えた村居正之 美術学科長。優れた芸術活動を表彰する日本芸術院において、2019年度日本芸術院賞と、特に高い業績が認められた人に贈られる恩賜賞を受賞。2020年には日本芸術院第一部(美術)第一分科(日本画)第一部会員に任命されました。
8月24日~30日に阪急うめだ本店の阪急うめだギャラリー9階にて開催された作品展は、こうした長年にわたる功績を記念して開催されたもの。村居学科長が40代の頃から古代ギリシャの遺跡をモチーフに描き続けてきた代表的なシリーズ約50点が展示されました。
天然岩絵具の群青でギリシャの「光と影」を表現した作品は「青の墨絵」とも称され、卓越した刷毛使いの技とともに日本画壇で高く評価されています。
縦170cm×幅4m50cmもの大作など作品の数々が、現地の空気まで伝わってくるような臨場感と神秘的な世界観で、観る人を魅了しました。
会期中には村居学科長自身によるギャラリートークも開催。画業の歩みを振り返りつつ、ギリシャや群青、また日本画壇への思いなどを語りました。会場内には、“村居芸術”を支える日本画の絵具と道具の展示や、制作エピソードを紹介する動画の上映なども行われ、大勢の来場者が熱心に見入っていました。
今回の作品展はギリシャをテーマとし、これまでの画業の後半にあたる約30年間の仕事を展示したものです。多くの方々にご来場いただき、日展理事長で前文化庁長官の宮田 亮平先生や前日展理事長の奥田 小由女先生をはじめ、美術関係者の皆様、大阪芸術大学関係者、学生OB諸君にも観ていただけたのは、大変ありがたく感じています。
私は師の池田 遙邨から「自分の山に登れ」と教えを受け、オンリーワンの作風をめざして、若い頃には実験的な作品に挑み続けてきました。その中で出逢ったのがギリシャというモチーフです。白と青のコントラストが織りなす風景に魅せられ、次第に古代ギリシャの文明や遺跡に目が向くようになって、いつしか自分ならではの青の世界が出来上がっていきました。
群青の絵具は、自ら原石を買い付け、粉砕・攪拌して精製します。技法も誰かに教わるのではなく、先達の筆さばきなどをヒントにして自分流にアレンジし、刷毛が擦り切れるまで鍛錬する中から編み出したものです。
長年の努力を評価していただき、皆様に応援していただいて、恩賜賞・日本芸術院賞受賞、そして日本芸術院会員就任という栄誉を賜ったことは、非常に嬉しく光栄で、大きな励みになりました。ただ私たち作家にとって重要なのは、どんな作品を生み出すかということ。作品展は、こうした名誉に値するか検証される場でもあり、私自身も身の引き締まる思いで臨みました。
この先も一歩でも高みに上り深みをめざして、前に進むつもりです。今までは主に海外にモチーフを求めてきましたが、これからは生まれ育った京都の風景や日本の花鳥風月を群青で描き、また新しい世界を表現できたらと考えています。
日本画は長い歴史と伝統のある文化。基礎をしっかりと身につけるとともに、自分らしい独自の作風を創りあげる姿勢も大切です。私も、先生や先輩方から言われた言葉が後々になって身に沁みたり、高名な先輩作家から稀少な絵具や筆を頂戴したりと、先達からのバトンを受け継いできました。それらを後進に繋いでいくことも重要な使命だと考えています。
この展覧会は、画家が長い時間をかけ、どのように歩んできたかという一つの道のりを示す機会でもあります。次の世代の担い手たちに見てもらうことで、少しでも何かの助けになれば嬉しいですね。
芸術は、人間が生きる上で欠かせないもの。本学で学ぶ皆さんも、自分の夢に向かって道を切り拓いて下さい。ここで過ごす時間は、きっとその後の人生を豊かにしてくれるはずです。
1919年(大正8年)に「帝国美術院」として創設された日本芸術院は、第一部(美術)・第二部(文芸)・第三部(音楽・演劇・舞踊)など各分野の優れた芸術家を優遇顕彰するために設けられた国の栄誉機関です。1941年(昭和16年)からは、卓越した芸術作品を制作した人や芸術の進歩に貢献した人に日本芸術院賞を授与。天皇皇后両陛下のご臨席のもとで執り行われる授賞式は、多くの芸術家の目標や励みとなっています。
日本芸術院は、院長1名と会員120名以内で構成され、会員は、芸術上の功績顕著な芸術家について、会員からなる部会の推薦(部会における選挙)と総会の承認によって選ばれ、文部科学大臣により任命されます。
会員は自らの仕事で芸術界を牽引するだけでなく、社会へ向けて芸術活動がより活発に展開していく条件を整えることを使命とし、様々な活動を通して、日本の芸術がますます発展するよう努力を進めています。
村居正之氏は、自らが作った絵の具を用いて、写実的でありながら心象風景としても表現された作品を制作している。原材料となる岩石の産地や粉砕後の粒の大小、加熱具合を研究するとともに、四半世紀もの間、ギリシャの世界遺産をモチーフとして追求。群青を主とした色の明暗・濃淡・色調の変化を模索し続け、独自の世界観を生み出すことに成功した。その一方で、長年にわたって後進の育成にも力を注ぎ、現在も学生達に慕われる存在である。(文化庁報道発表資料より)
村居先生の展覧会を拝見して、作品が放つ風格やオーラにただただ圧倒されました。絵の前に立つと、ギリシャの風が吹いてきて、遺跡や神殿に漂う空気に包まれる感覚になったほど。一面の星空に吸い込まれるような静謐な画面と、真摯に制作し続ける先生の孤高の姿が重なり、深い感動を覚えました。日本芸術院会員に就任された先生は、ますます雲の上の存在になられましたが、あたたかいお人柄はそのままで、展覧会場でも親しくお話させていただき嬉しかったです。 村居先生は、卒業しOBとしてお世話になっている私にも、大学を訪ねるたび気さくに声を掛けてくださり、公募展への励ましなど目をかけてくださいます。以前に美術学科のスケッチ旅行で「目で見た風景そのままではなく、自分の思いを伝えるために描く」と教えてくださったのですが、当時はあまり理解できなかったその言葉の意味を、今になって深く実感しています。 そうした教えを胸に、私も作家活動に力を注ぎ、昨年は日展で特選受賞を果たすことができました。今年の秋に開催される日展でも、村居先生と同じ会場に自分の作品が展示されるのは大きな喜びです。先生が長年にわたり精魂込めて描き続けてこられた軌跡にならって、私もただひたむきに、ひたすらに、制作し続けようと思いを新たにしています。