第12回大阪芸大Art lab.「4人の巨匠と探る“紙”の可能性」 第12回大阪芸大Art lab.「4人の巨匠と探る“紙”の可能性」
美術展の内容をテーマに、高校生や在学生たちが参加する特別美術セミナー「大阪芸大Art lab.」。第12回目は、国立国際美術館で行われた「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」と連動したワークショップを実施。ピカソの時代の巨匠たちが多く用いた“紙”を使って、今までに体験したことのない手法で作品を制作しました。
「実体(リアル)」をつかめ!初めての技法で人物を描く
今回の「大阪芸大Art lab.」は、大阪・中之島の国立国際美術館で2023年2月3日~5月21日に開催された「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」と連動。美術学科の学生と約50名の高校生たちが、4月26・29・30日の3日間にわたるプログラムに参加しました。
1日目は、閉館後の美術館を貸切って、作品鑑賞を行いました。同展は、ドイツ・ベルリンのベルクグリューン美術館の改修工事を機に、主要作品が館外で一堂に展示される世界初の展覧会。ピカソ、クレー、マティス、ジャコメッティら20世紀の巨匠たちの芸術が集約され、今回展示された108点のうち、ピカソ35点を含む76点が日本初公開作品です。
同展を企画した国立国際美術館学芸員の安來正博さんによるギャラリートークでは、美術展をより深く楽しむコツや、ピカソの「私は見た通りに描くのではなく、思った通りに描く」という言葉も紹介されました。参加者はじっくりと作品を鑑賞し、本物の絵でしか伝わらない質感や波動まで体感。美術学科教員のレクチャーを受けながら熱心に見入り、大学生と高校生が交流する場面もありました。
2日目からは大阪芸大のキャンパスに場所を移し、美術学科の教室でワークショップがスタート。教員から説明を受けた後、参加者同士がペアになり、お互いをモデルにデッサンを行います。今回の制作のテーマは「実体(リアル)を紙に刻めるか」。ピカソら巨匠たちが多く用いた「紙」を使って、これまでに体験したことのない技法に取り組みました。
チャレンジしたのは、何本もの色鉛筆を一度に握り、利き手と反対の手で描くこと。参加者は「色鉛筆はほとんど使ったことがない」「左手で描くのも初めて」ととまどいながら、色鉛筆を握りしめて紙に向かいます。思うように画材を操れず、「こう描きたい」という自分の意図とはかけ離れた絵に。それでも相手の実体を描こうと真剣に観察し、必死に手を動かし続けていくうちに、だんだんと人物像が浮かびあがり、次第に作品が仕上がっていきました。
最終日の3日目は、色鉛筆を鉛筆に持ち替え、今度は利き手を使って、一回り大きな紙に描いていきます。前日のデッサンで体験した、いつもとは違う手の使い方、相手をよく見る感覚などをいかして、さらにバージョンアップした内容へ。対象とじっくり向き合い「本質」を見極めようとしながら、腕全体や肩の動かし方、空間の描き方まで意識して、もう一歩深い表現をめざしました。
制作が一段落したところで、美術学科の見学ツアーを実施。高校生たちは広々とした実習室や作品を見て回り、大学生からアトリエの使い方や画材などの話を聞いて、大学での制作活動のイメージをふくらませていました。
最後の合評会では、作品を一堂に並べ、プロの作家である教員陣による講評が行われました。未来の可能性を追求していくためのコメントが贈られ、参加者はあらためて創作意欲の高まりを実感。充実した3日間のプログラムが終了しました。
参加した高校生たちは、達成感に満ちた表情に。「左手で色鉛筆をたくさん握って描くのは、新鮮で面白かった」「楽しいだけでなく、苦しい時間も長かったけれど、自分の壁を壊す良い経験になりました」「先生の話を聞きながらピカソの作品を見て、美術館に行く楽しさがわかった」「合評でいろいろな意見を聞けて、大学の授業を受けているようでした」など、さまざまな声が寄せられました。
私は高校生の時に、大阪芸大の特別美術セミナーに参加したことがあります。その時は「みんなで一緒に楽しく作品をつくろう」という雰囲気でしたが、今回はまったく違って、創作についてあらためて深く考えさせられる内容でした。1日目には、展覧会でピカソやクレーなど20世紀の画家の作品を鑑賞して、魅力を再発見。質感や見せ方に驚いたり、小さな作品にぎゅっと表現された世界観に惹きこまれたりして、それまで関心の薄かった近代美術に対するイメージが変わりました。その上で制作に取り組んだので、さらに学びが深まった気がします。
何本もの色鉛筆を使って左手で描くのはなかなか思い通りにいかず本当に大変でした。しかし、苦しみながら一生懸命描いていたら、だんだんと絵が立ち上がって、一つの作品になっていく。今までに味わったことのないすごい経験ができました。先生方からよく「固定観念を壊せ」と言われ、自分ではけっこう自由に創作しているつもりでしたが、高校生の作品からも新鮮な驚きを受けて、思ったより枠にはまって固まっていたのかもと気づかされました。
美術学科に入学したのは、アニメやゲームの2Dの背景を描く仕事に憧れ、描写力やデッサン力を高めたかったからです。絵の実力を磨くだけでなく、「美術研究会アート・ラボ」というサークルに参加して定期的に展示を行うなど幅広く活動して、他学科の友人も増えました。設備も先生も仲間も豊かな大学だから、自分から積極的に動いていけば、いろんな出会いが広がりますよ。
人気の美術展は混雑していることが多いですが、このセミナーでは美術館を貸切って作品鑑賞できるのが魅力。写真や画像ではわからない絵の具の乗り方や筆のタッチも間近で見ることができて、たくさんの気づきがありました。特にパウル・クレーの作品は、ポップで可愛らしく、色のかすれ具合なども素敵だなあと夢中に。在学中に学芸員の資格を取りたいので、学芸員の方のギャラリートークを聴けたのも、とても勉強になりました。
作品制作では、「リアルとは何か」という問いかけに対して、美術館での体験を復習するような気持ちでのぞみました。人物をデッサンする時は、肉感や光の陰影など「こう描いたらリアルに見えるはず」という知識も織り交ぜて描いてきたのですが、今回の技法ではコントロールが難しく、頭の中にある「嘘」を使うことができない。対象をもっとよく見ようという意識が強くなり、「嘘をつかずに、実体を追求する」体験に近づけたように思います。
高校生たちがエネルギッシュに制作する姿にも刺激を受けました。私自身、高校の時に本学で体験授業を受け、先生の教え方に惹かれて入学したので、彼らがこの経験を何かのヒントにしてもらえたら嬉しいです。油画の抽象コースは、自由な制作ができ、一人ひとりの個性をいかしたアドバイスをしてもらえるのが良いところ。自分で考えてつくりあげる力も養えます。今後自分がどんな道に進むかはわかりませんが、絵はずっと続けたいし、何らかの形でアートに関わっていきたいです。