Topics
大阪芸術大学グループが美術館の展覧会とコラボレートしてワークショップを行う特別美術セミナー「大阪芸大Art lab.」。今回は、大阪中之島美術館開館記念特別展「モディリアーニ ―愛と創作に捧げた35年―」をテーマに、卵という一風変わった画材を使って作品制作に挑戦しました。
第11回目となる「大阪芸大Art lab.」の会場は、今年2月に誕生したばかりの大阪中之島美術館。延べ床面積は2万㎡と関西最大級のスケールを誇り、黒い箱のような外観や巨大な吹き抜け空間が印象的です。
今回の特別美術セミナーは、同美術館の開館を記念した特別展「モディリアーニ ―愛と創作に捧げた35年―」(2022年4月~7月開催)と連動して、6月17~19日に実施され、美術学科の学生たちと約30名の高校生が参加しました。
ワークショップ初日は、展覧会の鑑賞からスタート。閉館後の美術館を貸切り、学芸員の小川知子さんによるギャラリートークを聞きながら、3つの章で構成された作品群をじっくりと見て回ります。
会場には、国内外のモディリアーニ作品約40点をはじめ、一時は彫刻家を志していたモディリアーニが関心を抱いた彫刻作品や、1910年代のパリの芸術家たちの作品もあわせて展示。学生たちは数々の名作にふれ、小川さんの解説で理解を深めて、モディリアーニの作風の歩みをたどりました。
2日目は、同美術館のワークショップルームで制作開始。参加者に配られた題材は、なんと「卵」。モディリアーニの作品をモチーフにして、色鉛筆で卵に直接描いていきます。ポイントは、平面を立体に表現すること。単なる模写ではなく、人物の後ろ姿や背景を想像して描き込んだり、何枚かの人物像を組み合わせるなど、それぞれの工夫で360度の作品に仕上げました。
続いて、その卵を壊し、殻をモザイクのように板に貼る課題に挑戦。「立体をいったん破壊し、平面に再構成してください」という説明を受け、思い思いのアレンジを施します。人物の顔の原型をとどめた作品や、抽象画のようにがらりと変化したものなど、仕上がりも多彩なバリエーションになりました。
3日目の課題では、石膏の卵に鉛筆でデッサン。シンプルな黒一色の濃淡だけで、質感や立体感の表現に取り組みます。制作の合間に展覧会で自由に作品を鑑賞することもでき、題材に選んだ作品をじっくり観察する人も。2日目までの経験もいかしながら、自分らしい表現を模索しました。
美術学科教員から、「卵」を切り口に美術や自己表現について考えるレクチャーも行われました。哲学的な考察や創作への取り組み方など奥深いトークに、参加者はうなずきながら聞き入ります。
ワークショップの締めくくりは、全員の作品を並べての合評会。作品ごとの特徴や魅力について教員からコメントがあり、これからの制作に向けたエールが贈られました。展示・保管用のアクリルケースもプレゼントされ、参加者はケースに入れた作品を見比べながら、充実した表情を浮かべていました。
ワークショップに参加した高校生たちに、感想を聞きました。
「最初に卵を渡されてびっくりし、それを壊すと言われてもっと驚きました。せっかく描いた絵を壊すのは悲しかったけれど、再度組み立てる作業は面白かったです。アクリルケースに入れて可愛く仕上がったので、家に飾りたいと思います」
「モディリアーニの絵はとても個性的。学芸員さんのお話を聞いて、作品の見方も変わりました。美術館の建物はかっこ良くて迫力があり、こういう場所でワークショップに参加できて楽しかったです」
「卵に描くのも、立体から平面に組み替えるのも、新鮮な体験。色の重なりや重厚感にこだわって制作しました。レクチャーは難しい点も多かったですが、いつか理解できる時が来るという先生の言葉を信じて、制作を続けていきたいです」
こうしたワークショップに参加するのは初めてですが、モディリアーニならではの感性が伝わってくる独特な作品群をしっかりと鑑賞できる良い機会になりました。同時代の作家たちの作品も素敵で、当時どんな人たちとどのように切磋琢磨していたのかがわかり、興味深かったです。
卵に描くというのも初体験で、意外に描きやすく、色もきちんと乗るのに驚きました。球体に描くのは新感覚で、とても楽しかったです。そのまま模写するというより、自分自身の気持ちや好きな色を表現して、自分らしい雰囲気に仕上がるように心がけました。石膏の卵では、モノクロのグラデーションでも空気感が伝わる作品を意識したつもりです。
大阪芸術大学美術学科に進学したのは、1年次に油画・日本画・彫刻・版画の4つのコースを学べるのが魅力だったから。2年次から日本画を専攻していますが、幅広い領域の基礎を理解できたのは大きな収穫でした。自分が100%納得できる作品を仕上げるために、今回のワークショップも含め、これからも様々な作品や経験から多くのことを吸収していきたいです。
美術学科油画コースの授業で、卵にデッサンする課題に取り組んだことがあります。一人の人物の周りを囲み、少しずつ移動して角度を変えながら描いていくというものでしたが、今回はその課題とはまた違い、じっくり時間をかけて、平面と立体が入り混じる制作を楽しむことができました。
今回モディリアーニの作品を見て、一番興味をひかれたのが色彩です。落ち着いた色調や色が複雑に混じりあうニュアンスなど、特に色彩を意識して原画を観察し、それをイメージしながら描いていくのが楽しかったです。私は人物画が一番好きなのですが、鮮やかな原色を中心に構成することが多く、モディリアーニの色使いはとても勉強になりました。
初めて訪れた大阪中之島美術館は、壮大な吹き抜け空間など静謐な雰囲気があり、美術の展示にふさわしいと感じました。展覧会で本物の作品を鑑賞し、作家の感情にふれて、自分が感じた思いや興奮をその場で制作に反映できるのは、とても贅沢な経験です。高校生と一緒に参加して、お互いの作業を間近で見ながら制作できたのも良い刺激になりました。