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作品が生まれる舞台裏を見に行こう
【音楽家/サウンドアーティスト evala】
作品が生まれる舞台裏を見に行こう【音楽家/サウンドアーティスト evala】

音楽学科, 演奏学科 / その他
2021/06/11

真っ暗闇の中で耳をすます。豊かな音のカタマリが空間全体を満たし、飛び交い、体中をまさぐっていく。サウンドアーティストevala氏のサウンドプロジェクト「See by Your Ears」は、音のもつ可能性を拡張するまったく新しいアート体験だ。「サウンドアート」という、まだ一般的には聞き慣れないジャンルをevala氏はどう捉えて活動しているのだろうか。


渋谷EDGEof内のevala氏のスタジオにて話を聞いた。


Photo: Maciej Kucia

Text: Arina Tsukada

音への感受性を爆発させる。
見えないものへの気配から生まれる新たな感情

「歴史的には美術館の中に“音”を持ち込んだアート作品といえますが、僕の場合はそこから“耳で視る”という特異な体験をもたらす作品を作り続けています。僕もかつてはCDやライブを通した音楽活動をしていましたが、いまでは美術館、劇場、公共空間をはじめ、そもそも前例のないフィールドに音の空間をつくり続けています」。 


evala氏は、先端的な立体音響のシステムを駆使し、自身が「空間的な作曲」と呼ぶ独自の手法を用いる。そこでは、聴く者の周囲360°で音がかけめぐり、いま自分のいる空間がまるごと変化するような「音のVR」とも呼べる体験が生まれている。稀有な音への感受性と、卓越した技術力によって唯一無二のサウンド体験を送り出す彼のもとには、先端的なクリエイターから研究者、企業まで多様な人々が新たな音の可能性を求めて日々集まってくる。 


「僕はいつも360°マイクを持ち歩いて録音し、そこから世界を見つめるという行為をしています。マイクはいわば人工的につくられた新たな耳。その耳から得られた音を、今度は粘土のように成形し、空間に配置していく。その遊びの連続から僕の音が生まれています」。 


2020年1月、そうした「空間的作曲」の結晶ともいうべき作品『Sea, See, She - まだ見ぬ君へ』が青山のスパイラルホールで発表された。「インビジブル・シネマ(目に見えない映画)」と謳われたこの作品において、観客は約70分間、真っ暗闇の中で音を体感する。さまざまな場所でフィールドレコーディングした音源を軸に構成されたこの「映画」は、森から海へ、ときには宇宙にいるかのごとく、観客の内部にありとあらゆるイメージを沸き起こす。上映最終日には急遽追加公演を行なったこの作品において、観客は口々に「たくさんの世界が視えた」と語ったそうだ。 


「僕の作品は、ひとつとして同じ感想にならないんです。あるメロディを聞くとふっと昔の情景が思い浮かぶように、音はさまざまな記憶と結びついている。僕の場合、誰もが聞き覚えのある音を、聞いたこともない鳴り方や響き方に変換することで、現実にはありえない音をつくっています。そのとき、人々の脳内に豊かなファンタジーが立ち上がるんです」 


そのファンタジーは作家から与えられるものではなく、観客それぞれに固有のものだ。evala氏の音世界は、人が本来もつ想像力を喚起し、新しい感情や知覚をひらいていく。 


「いまの社会は視覚的な情報にあふれているけれど、目を閉じて世界に耳をすますことで育まれる知性や感性があると思います。音から感じる気配は目に見えないもの。そうしたまだ見ぬものへの想像力が、人間以外の存在への意識や、身体の可能性を爆発的にひらくこともあります。これからの音楽の未来には、あらゆる境界を飛び越えて次々と新しいものが生まれていく。そう確信して今日も音をつくり続けています」。


●evala 先鋭的な電子音楽作品を国内外で発表。立体音響システムを新たな楽器として駆使し、2016年より新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」を始動。音が生き物のように躍動的にふるまう現象を構築し、新たな音楽手法としての“空間的作曲”を提示する。代表作に『AnechoicSphere』シリーズのほか、ソニーの立体音響技術Sonic SurfVRを用いた576ch音響インスタレーション「AcousticVessel Odyssey」(SXSW, Austin 2018)を展開。


<作品は以下をチェック>

evala氏の作品 その1

evala氏の作品 その2