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「デザインという仕事の意味が少し変わってきていると感じています」と話すのは、日本を代表するアートディレクター/グラフィックデザイナーの一人、古平正義氏。その理由について、こう分析する。多少無理をしてでも面白いこと、新しいことをやってやろう、というよりは、スムーズに仕事を全うする事が第一、という雰囲気が世の中全体に強くなっているのではないかと。
「デザインの世界でも、デジタル技術が手軽に使えるようになるにつれて、効率を優先してしまって、強い意思を持ってつくりあげるというのではなく、とにかくかたちにして仕事を進めよう、というような状況になりがちです。
しかし、デザインというのはもともと、ただの職業ではなくて、アートや音楽などと同じく未来に発展させていくべき文化なんです。特に日本のデザインシーンでは、世界を意識していないドメスティック(国内的)な作品が多く、小さくまとまってしまっている印象があるのが、残念です」
先日、古平氏はロンドンで審査員として参加した世界的なデザインアワード「D&AD Awards」で、興味深い作品に出会った。
「それは、イギリスで100年近く発行されている新聞・ガーディアン紙のフォントをアップデートしたもの。それまで使っていたガーディアン専用のフォントが持っている魅力を継承しつつ、デジタルのメディアでも有効に使える、より現代的な新しいフォントをつくったのです。今、デジタル化の波にのまれて岐路に立つ新聞というメディアで、未来をしっかりと見据えてこのような地道な作業を行ったことに感銘を受けました。そして、デザインの力、本来の価値とは何かをあらためて考えさせられました。
今は、可能な限り深く考えて、デザインにも手をかけたいと思っています。世の中の流れと逆行している気もしますが、今の世間の流れの先に、魅力的なデザインの未来があるようには思えません。とことん考えを尽くして手をかけた作品で「こんなの、よくやったね」と言われたい(笑)。
それから、僕は日本的なものはあまり得意ではありませんでしたが、これからは日本のエッセンスも積極的に採り入れていきたいと思っています。欧米から見ると、少し前までは、オリエンタルでエキゾチックなものはある種の珍しさで受けていました。それが今は、単純にカッコいいものとして素直に受け入れられるように変わってきています。これは、日本の文化をデザインに自然に活かせる環境になったことを意味します。日本人のデザイナーだからこそできるザインはより多角的になり、世界で勝負するチャンスは広がっているのです。
だから、デザインを志す若者には、こう言いたい。ドメスティックに小さくおさまってしまうのはやめて、世界を見てチャレンジしよう、と。大きな目標を設定することが大切だと思います」。
日本を意識しながらも、日本の枠に収まらず、徹底的に手をかけた野心的な作品への挑戦。新時代のデザインを開くカギはそこにあると、古平氏は信じている。
●古平正義(こだいらまさよし)
1970年大阪生まれ。FLAME代表。主な仕事に、パワーコスメブランド「oltana」のアートディレクション、「BAO BAO ISSEY MIYAKE」とのコラボレーション、「ラフォーレ原宿」広告・CM、「アートフェア東京」ロゴタイプ・ポスターなど。THE ONE SHOW Gold/Silver Pencil、D&AD Yellow Pencil、東京ADC賞など受賞。本誌アートディレクターも担当。